仲間への裏切り 5
「それでそのお得な話というのが斑咬にもう何もさせないという事ですか?」
「何もさせないはないけどね。流石に手は打つよ。」
堂々たる宣戦布告だな。この人仮にも自身が退学寸前ということを忘れてないだろうな。
「具体的にどういう手を打つんですか、なんて、訊いても意味無いですよね。」
「いいよ、教えてあげても。」
……どうせ無理難題な事を要求してくるに違いない。それが分かればこんなに苦悩しなくて済む。
「一回状況を整理しよう。俺は生徒会長になり実力制度を取り組みたい。狐神君は特に要求はない。けれど強いて言うなら、冤罪で散々蔑んできた連中に復讐したい。この2つは別に矛盾してるわけでもなんでもない。」
……何となくこの人が何を考えているのか分かった気がした。確かに悪くはない提案だと思う。上手く論点をずらしてきている。実際復讐したい気持ちは大きくある。
「狐神君が新生徒会の一員となり、俺に協力して欲しいんだよ。」
「一回考えてみて欲しい。君の親しい人達、特に今の生徒会メンバーはみんなとても優秀で、もし俺の理念が叶った時には間違いなくトップのクラスに配属されるだろう。そして狐神君はとても努力家、テストの点も普通にいい事からまず上位層。なんなら俺の権限で一番上のクラスにもできる。そして君を蔑んできた馬鹿共は半分以下になる。確かに今の生徒会を裏切るような形になるのは辛いかもしれないが、今度は新しい生徒会メンバーと仲良くなればいい。大丈夫、君ならきっと仲良くなれる。」
昼休み終え、授業か始まってもイマイチ切り替えられずにいた。勿論今の生徒会を裏切る気はない。瀬田会長に助けられた恩もみんなと過ごした楽しい時間も忘れるはずがない。けれどもしこの提案を拒否すればどうなるか。まず斑咬により此方の情報がばらまかれるだろう。『人殺しの妹がいる』と。そして近所や此方の中学まで広がればもうここには居られないだろう。学校を辞める訳にはいかない。そうなると前者を取るしかないのか……。
「……神。狐神。」
「ん、ああ。すまん。」
「しっかりしてくれよ。」
前の吉永から送られてきたプリントを受け取り後ろへ回す。
「考え事?」
後ろの水仙がプリントを受け取りながら訊いてくる。「まぁそんなとこ」と軽く流すと問題が書かれたプリントを眺める。
やはりこういう時は太陽に相談するのが一番いいかな。でも最近なんか部活の方が忙しいらしいんだよね。多分それでも話は聞いてくれるだろうがあまり負担はかけたくないし。次に相談出来るなら生徒会だけど内容的に無理だしな。式之宮先生や九条校長も同様に。というかそうなると学校関係者は基本全員無理じゃね?大鵠に情報いかないとも限らないし。そうなると......。
「なんでだからって俺なんだよ。ざけんな。」
「知ってるよ、深見。そういう一見つっけんどんみたいな感じでも来てくれるような人を世に言うツンデレというものだ。」
庶民の味方のファミレスの一角でそんな風に話し始める。
「お前さ......なぁ、俺がお前にしたこと忘れたわけじゃないよな。確かに安川を気に入らないって理由で一回は協力したが、俺は散々お前にひどい仕打ちしたんだぞ?そんなんで今更友達みたいに相談しあうなんて無理だろ。」
あったりまえだ忘れるわけないだろ。あんなことしやがって。……なんか今思い出しても腹立ってきたわ。やっぱ一発殴ろっかな。
「......なんていうか、少なくてもあの文化祭以前は俺はお前をまともに見ることもしなかった。殴られても蹴られても目を合わせることさえしなかった。俺は被害者だと思うが、こっちにも非がないかって言われると今はわかんない。殴られてるのが必ず被害者とも言えない可能性だってある。それにお前と文化祭の件で本気でぶつかったら、案外伝わるものもあった。それだけだ。」
「......なんだそれ。……まぁここはお前の奢りだから飽きるまではいてやるよ。で、とりあえず話聞かせろよ。」
うはー、チョッロいなこいつ。
そこからなんだかんだいって何時間もの間、深見はご飯を全く頼まずに俺の話を聞いてくれた。なるほど確かに体の悪い母の代わりをやっているだけのことはある。こっちも予想してたよりもずっと話しやすかった。そしてアドバイスも的を得ていた。
『いやお前、そもそも新生徒会の一員になる事は知らんが、一体協力しろって何するんだよ。その中身によってはしたい、したくないじゃなくて普通にできない可能性だって十分考えられるだろ?』
確かに「協力してくれ」とは言われたが具体的な事は何も言われていない。鶴、禦王殘、ノアの弱点を教えろ、なんて言われてもそんなもの俺は知らないし、俺にできることなど正直何があるって話。
それを翌日、またもお昼ご飯を食べている頃に大鵠が来た。そして向こうが何かいう前に今度はこちらから質問した。
「協力の具体的な内容?」
「言っておきますけど他のメンバーの弱みとかは知らないですからね。」
「そういえば言ってなかったね。別に大したことはないよ。伝言をお願いしたい。」