仲間への裏切り 2
しりとりの流れとしてリンゴの次はゴリラというのがあると思うのだが、これは多分違う。なんか黒いよくわかんないのがたくさんある。えーっと、……あ。
ミイラの絵を描いて後ろに送る。
「ちょっと。」
「っ!?」
こいつシャーペンの書く方で刺しやがった。何とか声を押し殺したが、もう少しで叫ぶところだった。
「何でミイラ?私ゴマを書いたんだけど。」
「いや、俺はゴミの絵だと思った。というかその絵自体ゴミみたいなもんだから二重の意味で正解だろ。ダブルミーニング……ごめんなさい。私が悪かったです。」
人の耳たぶでホチキスを咥えるのやめて。あのね、微妙に針が当たってるの。君たしか内気で恥ずかしがり屋な設定じゃなかったっけ?
「次はないよ。」と武器を下ろすとミイラに続いた、またよく分からない何かが来た。なんだこれ?ビックリマーク?が逆さまになって?先端から草生えてるんだけど。
やがて授業が終わり、俺は何とか生き残った。水仙の方を見ると何だかんだ楽しかったらしく、少しだけ笑みを零しているのが見えた。
「で。何で俺とこんな事してんだ?」
別に授業がつまらなければ寝たり、想像に更けたり、別の誰かと話したりとわざわざ俺と話す必要なんかない。今こいつが何を考えているのかよく分からない。よからぬ事を考えてなければいいのだが。
「大した意味はないよ。もう一度、偏見も何も無く狐神君と話そうと思ったの。出会いは最悪の形になっちゃったけど、今からでもちゃんとあなたを知ろうって。」
予想外の言葉につい目が泳ぐ。頬をかく。言葉に詰まる。動悸息切れ激しい目眩。更年期かな?やかましいわ。いや落ち着け、こいつは俺を陥れ、淀川を脅し、結果包丁を手に持ったまでした女だ。簡単に騙され笑顔可愛いなおい。
「あ、あー俺生徒会あるからじゃあ!!」と逃げ出した俺は「チョロいな」と自分自身に思った。だってしょうがないじゃん男の子だもの。
そうして廊下に飛び出すと生徒会室に向かおうとした。
「キャー!!」
その悲鳴はお遊びといった類いのものではなく、本当にやばい時のものだった。その向かう先には多くの人混みがあり、その中央あたり、よく知った頭が一つ抜けてあった。俺もその事態が気になりそこへ向かう。
「二度とこんなざけたことすんな。」
「どうしたんだ?」
禦王殘の見下ろす先には一人の男子生徒が倒れていた。顔を殴られたらしく、頭と鼻から出血している。その量は大したものではないが絵面としてはやや不味い。
「狐神か。こいつがつまらん事してきたから軽くはたいたんだよ。……おい、立てよ。邪魔だろ。」
「いやこれ以上は周りの目が不味いだろ。それにもしかしたらそいつ……」
「ああ。大鵠の仲間の一藤だ。そういや今の生徒会をぶっ潰して新たな生徒会役員になるっつってたな。その為に恐らく俺の立場を危うくして中から瓦解させようと思ったんだろ。やっすい挑発してきたもんなぁ、おい。」
まさかそのやっすい挑発にのってボコしちゃったんですか。煽り耐性ゼロですか。それじゃあ相手の思う壺じゃないすか。
「そのやっすい挑発に俺からもさらに特売大安売りの挑発で返してやったらまんまとのってくれたよ。わざわざ大衆集めたのにその前で俺に刃物向けてくるんだからつい怖くなってな。」
うっはー楽しそうな顔。だからカッターを足で踏んづけてるのか。あの時の悲鳴は刃物を出した一藤に向けられたものであって、周りの人間も刃物を持った相手を軽く潰す禦王殘に畏怖と憧憬の念を持つといった感じ。
すると遠くから誰かが走ってくる音が聞こえた。見ると真弓先生と男の先生がこちらに向かってきた。そして現場を見て真弓先生が一藤の治療と男の先生が禦王殘や周りの人から話を聞いていた。まぁ、問題はなさそうなのかな。
やがて事態は収束し、俺と禦王殘は生徒会室に向かう。時間は遅れたがきっと事情を説明すれば大丈夫だろ。
「そういやなんて挑発されたんだ?」
何となく大鵠が後ろにいるとなると不安が残る。今回は禦王殘がターゲットだったが、それがいつ自分になるかも分からない。
「くっそくだらねぇ事だよ。俺とあいつは本家と分家だからそこいらの事で煽られただけだ。」
それがどれほどの事なのかは俺には全く分からないが、恐らく数少ない禦王殘の弱点らしいものなのだろう。俺の弱点はたくさんあるが、やはり此方の事を持ち出されたらきついな。
「そういや前からお前に客が来てるぞ。」
そして着いた生徒会室を扉を開けるとやや懐かしい人物が迎えてくれた。
「彼方せんぱーい!」
「うわなんか来た。」
先に扉を開けた俺が避けたので必然的に禦王殘に抱きついた。禦王殘は一瞬蹴り飛ばそうとしたが、流石に相手が女じゃそうはいかないのかな。
「……違う。」
「だろうな。俺は狐神じゃなくて禦王殘だ。」
「え?誰ですか?何で彼方先輩以外が私に抱きつかれてるんですか?」
「1-5、生徒会副会長、禦王殘 宿儺だ。あんまり名前では呼んでくれるな。それよかてめぇが勝手に懐入ってきたんだろうが。お前の獲物は向こうだ。」
俺を指差すとこころの顔もこっちを向く。それはまるで獲物を見つけた虎のように。