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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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彼女の生態 6

「……あれ?ここは?」

「お前の控え室だよ。原因はお前が一番分かってんだろ。」

「はぁー、ダメだったか……」とため息混じりに呟く。別にドラマは撮り終わったんだし、ダメではないと思う。耐えきれなかった、という意味ならダメだったかもしれないが。

俺の後ろにいる真弓先生を見ると少し考えるような表情をする。

「どうしてわかったの?」

「前にお前にタイツを頭から被せられた時、すごい濡れてたんだよ。お湯がかかったのかなとか、もしかしてこいつ漏らしやがったか?とも一瞬考えたがどう考えてもそれは冷たすぎた。それにキツい汗の臭いもした。この時期にそんな汗普通は掻かないと思うし、それよりずっと思い当たる節があったからな。」

「……変態」

「っせーよ。」

「それで私が狐神君に相談を受けて念には念をってことであの場に居合わせてもらったってこと。」

頭では『もう終わるから』、『絶対に失敗はできないから』と分かっていても、体はとっくに限界を迎えてたんだ。自己管理くらいして欲しいものだか、それを分かっている上で止めなかった俺もマネージャーとして大概か。

「とりあえず発汗はもう収まってるし心拍も落ち着いてるわ。十分な水分補給とその原因人物との距離をよく考えてね。お大事に。」

ありがとうございました、と頭を下げる。隣を見ると白花も頭を下げていた。何となくこいつが頭を下げているのが意外だった。けれどその理由も何となくわかる。いつもこいつは他人に迷惑をかけず、望んだように振舞ってきた。だからこうして誰かに迷惑をかけ頭を下げるところなんて見たことがなかったからだ。

「じゃあこれで俺はようやくお役御免だな。」

「えぇ。またいつでもここに帰ってきていいのよ。」

二度とごめん被る。俺も自分の荷物をまとめて帰るとするか。久しぶりにのんびり過ごすことができる。

「……頑張った忠犬にはご褒美をあげてもいいと思うんだが。」

「ん?いいわよ。踏んで欲しい?叩いて欲しい?」

わざわざそんなことを要求するわけない。折角の機会だ。少し踏み込んだ質問をするとしよう。

「うちのクラスを実権を握ってるのはお前だよな?」

「そうよ。じゃなきゃカンニングの時に絹綿や牟田にあんな命令できないでしょ。」

そうなんだよな、何となくそこまでは分かってる。問題はそこから。そんなクラスの支配のようなことをしているにも関わらず、こいつに対して誰も嫌な顔ひとつしない。演技だろと最初は思っていたが、白花がいない時、例えば深見がいなくなった直後の時だってみんなこいつの事を讃頌(さんしょう)していた。そう考えると何となく別の考えが浮かぶ。

「お前には優秀な部下がいると思ってる。そいつらが間に入り命令する事でお前がボスである事が隠されてる。だからみんなお前に対して笑顔で接してる。」

「へぇ。」

人が話をしている時に携帯ポチポチすな。

「で、その優秀な部下が誰だって話だが、こればっかりはわからん。何となく男女それぞれいた方がいいとは思う。そして人数も極力少なく一人ずつ。でもある程度顔は広くないといけない。そのくらいだ。」

「それを教えて欲しい、と。別にそれは構わないけれど知ってどうするの?」

「俺が学校で暮らしやすくするために知っておきたくて。」

「なるほど。その為には私に関する冤罪も払拭する必要があるから、そのヒントにでもなればって感じ?」

ええ、ごもっとも。いやまぁ正確には少し違うが大体合ってりゃええやろ。俺をボロカスにした連中へ復讐するためにはこいつは大きなピースだ。今はドブネズミのような扱いだとしても窮鼠猫を噛むとも言いますし。

「いい感じに当たってるわ。男子の方は梶山。あいつはあんたと違って真性のマゾね。みんなの前だとすごいいい人演じてるけど。」

オイオイまじかよ。女子の白花男子の梶山と称されるあいつがそんな性癖を持ってたのかよ。え?きも。

「それで女の子方は……」


これまた難しい提案が出たものだ。ある程度の人物なら何とか近づこうとは思えるが、その範囲外も範囲外。簡単に言えば陽キャ、パリピ、ウェーイ系。言葉通じる自信すらないわ。マジつらたん。さげぽよ。ガン萎え。つらみが深い。

「鏡石椛か。とりあえず名前だけ教えて貰ったってことで後回しにしよ。」


一方その頃。

土曜日の学校と言えど部活で賑わう校庭とは対局に、薄暗く静かな教室で大鵠は将棋をうつ。相手はいない。顔から相手が何をしたいのか何となく分かってしまうから。

「俺に夏川、壬生、一藤。それとあの女。それが瀬田さんがなくかった後の新たな生徒会だ。さて、その為にはどう攻めたものか。」

持ち駒の性能だけなら向こうの方が分がある。単純なぶつかり合いなら勝てないのは明白。しかもこちらは『ミスったら退学の可能性』という大きなリスクも背負っている。出来ることはせいぜい牽制か指示を出すことだけ。

「......あぁ、彼を使うとするか。」

穴熊のように王を囲む陣形の一つの『歩』を勝手に裏返す。そして向きを180°変え『金』を取る。そこから陣形は崩れやがて『王』も取られる。

「待っててくださいね、瀬田さん。もうすぐであなたのところへ行きますから。」


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