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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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彼女の生態 5

2日目からは言われていた通りマネージャーがおらず、俺がマネージメント兼ストレス発散として文字通り馬車馬の如く働かされた。途中何度か前に白花が言っていたドラマが入り、俺もそのガマガエルを何度か目にした。思っていたよりガマガエルだった。そして確かに白花にボディータッチしていた。いつも俺をいじめ倒すあいつが苦しむ事は喜ばしい限りだが、その発散が俺に行くこと、そして何より周りの連中が見て見ぬふり、もしくはあいつを生贄にして自分は逃げていることは気分のいいものではなかった。芸能界年数や過去の栄光というのはここでは特に大切に扱われる。そういったもので成り立ったドラマや映画がお茶の間で放送され、みんなの笑顔に繋がるならいいのか。ここで働いて得られた教訓は芸能界の新たな知見を得られたってところだな。


「なんでそこまでしてアイドルであり続けるんだ?よく知らんが芸能界だと『学業に専念したい』とか言って引退する人だっているだろ?」

「あんたに話す必要ある?」

今日は白花の椅子ですよなんか文句あるか。お昼ご飯食べ終わるまでずっと四つん這いよ。しかも頭と尾骶骨辺りにヒタヒタのあっついお湯が乗っかってるせいで体勢も動かせない。

「雑談でもしてなきゃきついからだよ。」

「……私もよく分かんない。何か小さい頃は漠然と可愛い女の子に憧れたり、誰かの笑顔に繋がるならー、とかは考えてたような気はするけど。」

「よくそんな曖昧な気持ちで続けられるな。俺なら絶対に無理だ。」

「そうね……。あー、なんかしんみりしちゃったじゃない。なんか音楽流して。」

「いや、あの俺四つん這い。」

「だったら三つん這いにでもなったら?片腕離せばいいじゃない。」

いやそんなの無理に決まってんだろ。……いやでも上手く腕を真ん中に持っていけばいけるか?

「はっ!!」

ドッーシン!バッシャーン!「あ゛っ゛づい゛!!」

そりゃあ無理だろ。俺そんな筋力に自信ないし、こいつだって別に軽いわけじゃないし。俵みたいなもんだろ?

「ねぇ、誰が椅子をやめていいって言った?……ん?顔びしょびしょじゃない。今拭いてあげる。」

こいつ、セリフだけならいい事言っといて人の顔踏んづけてるだけだろ。くっ、口に足を突っ込むな。

「オ……オエッ。……ウッ……オオエッ……」

「ふふふっ。汚ったない。もうこのタイツ使わないから好きにしゃぶっていいわよ。ん?いらない?じゃあ洗っておいて。」

履いていたタイツを咽ぶ俺に被せると、意気揚々と部屋から出ていった。俺はそのタイツを頭から取ると後片付けをしてその後を追った。それから真弓先生に連絡をして。


そしてようやく俺のマネージャー最後の日であり、ドラマの最終日。今日の予定はこれだけなので午前中には終わる。そしたら俺は晴れて自由の身。早く終わらないかと心をウキウキさせながらドラマの撮影シーンを眺める。

病院のベットで優しく微笑む一見美少女の白花。その彼氏役の……なんかこう……微妙な顔の男。その父親役のガマガエル。母親役のババア。なるほど、これが今とても期待されているドラマなのか。とっても楽しそうだな。

で、台本によるとこの後なんか最後の別れみたいなのをベラベラ言った後、白花がゆっくり目を閉じて死んでみんなが泣き崩れて「わー感動」ってか。ほんと面白そう。

「ごめんなさい、遅れてしまって。」

「あ、真弓先生。いえいえ、来てもらっただけでもすごい心強いです。さすがにこれで救急車とかは呼べないんで。本当にありがとうございます。」

真弓先生は少し息を切らせて俺の横で白花の演技を眺める。一応お茶を渡したが「大丈夫。」と言われたので置いとく。一方の白花は全く真弓先生に気がついてはいないようだ。まぁ、気づけるはずもないよな。

「本当はあいつをあそこに行かせるべきじゃなかったんですけどね。でもきっと邪魔したらあいつにキレられるだけじゃすまないでしょうから。」

「例え意思は強くても、体がそれについていけないなんてことは彼女のように強い子ほどあることよ。今は無事終わることを願いましょう。」


そしていよいよラストシーン。白花が目を閉じみんながその手を強く握る。徐々にカメラが遠くに行き、やがて監督から「カット」が入って終わった。そしてみんなが「お疲れ様でした。」と声を掛け合う。

「どうやら無事終わったみたいね。よかったわ。何ともなくて。」

「そうですね、ほんと……」

……。

……っくそだめだったか。

「すみません真弓先生、やっぱり限界だったみたいです!」

急いでステージに上がり、他の連中を押しのけ目を閉じたままの白花の体を揺さぶる。もう演技はする必要が無いのに目を覚まさない。俺の大声にも全く反応せず、やがて異常を察した周りの連中が集まり始める。

白花の体からは異常なまでの汗が吹き出し、息も激しいものとなっている。急いで袖口などで拭くが次から次へと滲み出てくる。

そこでようやく白衣を纏った真弓先生が群衆を押しのけ入ってくる。体の様子を軽く見るとすぐ白花を別室に移すとみんなに伝え、俺は白花を背負いこいつの控え室に向かった。



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