冷狐策の見た夢 4
「別に俺も詳しくは知らないが、その包装からして友達に上げる感じじゃないだろ。結構手が込んでるもんな。」
「ねぇ、もう行っていいかしら。あなたが思っているようなものじゃないわよ。」
「だったら誰に渡すか言えるだろ。」
傍から見てるとよく分かるが、あんな感じで強引に迫って好感が持たれるとでも思っているのだろうか。前に何かの動画で見たけど、強引に迫って女子がキュンとなる、なんてことないと思うけどな。普通恐怖心の方が勝ちそう。
ここで都合よく榊原などがいればよかったものの、その姿はここらになかった。どうやら彼には主人公適正がないらしい。俺がここで変に正義感出して現れると、話がまた厄介な方に行くのは既に履修済みだし、見て見ぬふりがいいのかな。流石に学校だし宇野も変なことしないだろ。
「お、ちょうどいいところに......あー」
周りを探したときに、生徒会長であるノアがいたのでここはノアに任せようとしたが、そのすぐ後ろにもう一人の人物が見えた。その人物は俺を見ると明らかな嫌悪感を出していた。最初のときより明らかだな。
「どうしたの、一瞬嬉しそうな顔したら今度は曇って。......あの子たち?」
流石ノア、状況把握が早くて助かる。「俺が言ったら絶対に拗れる」と伝えると、こちらの意図も汲んでくれて「成程。任せておいて。」と言ってくれた。
「いえ、ここは私がいきます。」
その声はノアの側近のようにいた代永のものだった。代永は俺の復讐以降、明らかに敵意むき出しろくに話さえしない状況だ。「こんなことでノアさんの手を煩わせるな」とノアには聞こえないように言うと、そのまま2人の元へ向かった。野球部とガタイがいい相手にも一切物怖じせず、やがて宇野が渋々去っていくところを見ると、仮にもリーダーだけはあると感じた。
「ごめんなさいね、あの子曲がったこととか大嫌いだから、どうしてもあなたの考えと合わないところがあると思うの。」
「別に気にしてないよ。それに感情はどうあれ、困ってるうちのクラスメイトを助けてくれたことは事実だし。」
「ありがとね。あの子の持ってるもの、誰に渡すと思う?」
ノアのネットワークがどこまでかは知らないが、含みのある言い方、多分榊原との三角関係を知っているのだろうか。であれば答えは決まっていると思うのだが。
「うちのクラスの榊原じゃないか?まぁそんなの宇野も知ってはいるだろうけど。」
「そうかしらね~私は「いきましょう、ノアさん。」あ、もう......」
そういって少し強引にノアの手を引っ張っていった。少しでも早く俺から去りたかったのだろう。俺も特に留まる理由はなかったためそこを後にした。
結局本来の目的である戌亥を見つけられたのは、俺が放課後更生委員会として保健室のシーツなどを洗濯しているときだった。洗濯機の『ガゴンガゴン』いう音を横に、開けた窓越しに話をした。
「今日は取り付く島もないって感じだ。明らかに避けられてる。普段だったら多分こんなこと気にしないんだろうが、俺も腹くくったからか、全然余裕なくなってる。毎年バレンタインなんてめんどくせぇくらいにしか思ってなかったのにな。」
鶴の方から相手の進捗はメッセージでも飛んできているが、あんまりその結果は芳しくなさそう。こっちもあんまりよくない流れだよ、っと。
「俺とあいつにはな、これと言って語る話がないんだ。本当に小さい頃からなんだかんだずっと一緒にいた。それが当たり前だったんだ。兄弟に近い感じかもな。でもなんだかな、最近あいつと距離空いて『あのバカがいなくなって清々するぜ!』とか思ってたんだけど、ほんの数時間で『あいつ今何してんだろうな』って考えだす始末だよ。ほんと、どっちが馬鹿って話だよな。」
いや、ほんとマジで関係が純白過ぎて、自分がどんどん滅菌されていく感じがするわ。
「別にバレンタインは女子から男子への一方通行じゃないだろ。お前の方から動き出してもいいんじゃないか?俺には既成概念言い訳にして、動かない理由にしているようにしか見えないぞ。やらない理由探している時間あったらとっとと動けと。」
「そう......だよな。」と空にむかって呟くと、ようやく自分が何をすべきか見出したように見えた。俺の最低限の役割は終わったかな、明日は二人のゴールインを鶴と一緒に、白米片手にめしうましながら眺めていると「狐神って料理得意だよな?」......おっと?




