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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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幼気な女子高生を侍らすカス人間の日常 11

「高校になると調理実習ってないから少し新鮮だな。大人げなくも若干心が浮ついている。」

「なんで俺らがPTAのババァ共の飯作らなくちゃいけないのかは本当に謎だけどな。どうせすることなくて時間余ってるんだからお前らがやれよ。」

「何事も友達とやれば案外楽しいんじゃないかしら?」

というわけで、買い出しに行ってきた翌日には食材の加工を始めた。作業としては別に難しいことはないが、如何せん量が多い。PTAの連中だけかどうかは知らないが、相撲部屋の料理を作ってる気分だ。一体何人の力士が来るのだろうか。

役割分担として、俺とノアが切る、クルトが洗う、黒瀬と兜狩が分配、星川と鶴が食器準備・片付けという役回りで仕事をしていった。星川は昨日少し調子に乗ったことをノアから叱られたらしく、今日は大人しく仕事をしていた。鶴は用事がなかったからと手伝いに来てくれた。そんなわけでいつもより賑やかな生徒会のメンバーにノアも楽しそうにえぐい速度の包丁捌きを見せていた。俺も水仙との料理対決や深月のバイトなどでそれなりに料理には自信を持っていたが、あれはそんな次元じゃなかった。

「生徒会は今のとこ大丈夫そう?勝手に離れた俺が何言ってんだって感じだけど。」

「別にあなたが謝ることじゃないわよ。正月にあのバカのことも気にかけてくれたのもあって、今はだいぶ気楽に仕事ができてるわ。勿論あなたが帰ってきてくれるともっと嬉しいけどね。」

「あら、これは嬉しい。だが残念なことに俺には更生委員会という最底辺の仕事をしなくてはならないのだよ。」

流石に生徒会長ということでその存在は知っていたようだった。大鵠さんが何をしたのかはわからないが、「ご愁傷様」とだけ言われた。一体樫野校長とかは何をさせたのだろうか。

「ノアには申し訳ないと思ってるんだ。1年生の頃にいた俺と鶴と禦王殘が全員生徒会からいなくなっちゃって、多分寂しい思いさせちゃったのかなと。」

「......」

特に返事が返ってこなかったため、てっきり怒っているのかと思ったが、その表情は少し驚いたようなものだった。

「確かにみんながいなくなって感じるものがあったけれど、そうね、私は寂寥感せきりょうかんを感じていたのかしら。」

ノアは食材を全て切り終わり、まだ仕事が終わっていない俺の方から野菜をいくつか自分のまな板に置いた。自分の感情は案外他の人から見たほうが分かる場合もある。特にノアは自分の感情を置いて履行しなくちゃいけないこともたくさんあっただろう。今回の件でノアの弱点らしきものが分かった。利益勘定を含めた感情の動きは何も問題ないだろうけど、多分そこらへん何も含めない感情のぶつかり合いは苦手なんだと思う。いっそ禦王殘のように少し力任せな心掌握術の方がいいかもしれない。しかしそれではノアの良さが完全に消えてしまうし、そんな弱点をノア自身が把握・放置していないわけがない。俺が何を言える立場ではない。

「というか、私のことはいいのだけれど」と少し耳打ちに俺に話かける。

「家でも彼女だいぶ拗らせているのだけれど、あなた返事はいったいどうするつもりなの?」

そうだよな、一緒に家で暮らしているノアからしてみれば、毎日悶々としてる星川を見せられれば感じるものはあるよな。......ノアはどうだろう、恋愛相談とかは得意なのだろうか。モテはするんだるけど、あまりに高嶺過ぎる気もしなくないけれど。


話してみた。

「恋愛感情の欠如、ね。確かに少数派ではあると思うけれど、今やアセクシャルとかノンセクシャルとかは一定数いるわよね。ちなみに性的欲求抱くのかしら?」

少し恥ずかしい質問ではあったがノアは真剣に相談に乗っていくれているわけだし、実際重要なことではある。思春期の男子が思春期の女子には答えづらくないと言えばうそになる。

「......ありますごめんなさい。」

白花と田舎に戻った時とか、白花の風呂上りの姿を見た時とか、ノアのマッサージを受けた時とか、鶴と一緒に寝ようとなった時とか。もうほんと性に忠実な獣のように思えて自分が嫌になる。丁度ここには首を落とせそうな中華包丁もそれを扱える人もいる。一発いっておくか?

「別に謝る必要はないと思うわよ。普通って言葉は今は使い方はが難しいけど、でも異性に対してそういう感情を持つのは普通なんじゃないかしら。」

ごめんノア、俺はノアにもそういった感情を抱いたことがある。

「でも恋愛感情の延長線上にあることがやっぱり望ましいわよね。あなたのその原因は解決できそうなのかしら?」

前の俺ならここでノアたちに頼らず後で迷惑をかける感じになっていたと思う。でも色んな経験を経て俺も成長できている。そういう意味で今回も答えは同じになってしまうが、ある程度自信を持って言える。

「うん、大丈夫だよ。......わかってたけど全然信じてないよね。」

「あれだけのことがあって簡単に信じることはできないわ。それだけ信用というのは構築しにくく崩れやすいのよ。」

その辺はよく知っているつもりではいる。勿論ノアほどでもないけれど。


そうして当日となった。

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