彼女の生態 3
「俺に何期待してるかは知らんが甘い言葉をかけてくれる王子様なら他あたったほうがいいぞ。」
「ちっ、つまんない。そこは『僕だけにほんとの姿を見せてくれてる?』ってなって、なんかうすら寒いセリフ吐いて、私がそれを思いっきり馬鹿にする流れでしょ。つまんない。」
背中に一発鞭が入る。何となくさっきより力が弱まっている気がする「パシンッッ!!」あうそだ。めっちゃ痛い。
そしてここでレフェリーならぬマネージャーの「白花さん、そろそろ」とタイムアップが入る。にしてもこの人本当に人間味がないというか、機械っぽいというか。あれだ、この間街で見たペーパー君?だっけ、それの表情と声の抑揚失くした感じ。
まぁそんなことはどうでもよく、ようやく俺の体を縛るものが解かれていく。そして最後、首輪の鍵が外されそうな時、白花がとても笑顔で提案して来た。
「あ、そうだ。いいこと思いついた。」
「お疲れっした。お先失礼します。」
「まあ聞きなさいよ。私があのくっさいドブで育ったガマガエルを100倍凝縮してできたような生ける老害とドラマを共演してる間だけ私のマネージャーになりなさいよ。」
「は?何言ってんだお前。なりなさいよってお前、そんなのなるわけな」
なりました。
「理由は色々あって言えないが、一週間ほど生徒会を休ませてほしい?おいおい、こっちだってボランティアじゃねぇんだよ。困るなー、これだから最近の「少なくてもほとんど来ない会長は何も言えないと思いますけどね。でもそうね、せめてざっくりとでもいいから教えてもらえないかしら?式之宮先生などに訊かれた際にも答えられないし。」」
そうだよな、さすがに何の理由もなく一週間も休みをくださいなんて身勝手だもんな。とはいえなんといったものか。
昨日の続き。
「嫌に決まってんだろ。」
「何?私に逆らえると思ってるの?」
「あー、そうじゃなくて色々問題にされるんじゃないか。『アイドルに恋人疑惑!?』とかどっかの誰かさんは大好きなネタだろ。」
「んー、でも休憩中にでもあんたをいたぶれるのは魅力的なのよね。......まぁ首に『マネージャー』ってネームプレートでもしとけば大丈夫でしょ。首輪がネームプレートに代わるだけよ。」
「......じゃあ一つだけ条件を付けて欲しい。」
「フーン。聞くだけ聞いてあげる。」
「斑咬から妹に関することを聞いたと思うが、斑咬がこれ以上妹の事を広めないようにしてほしい。ちょっと気にしておかないと不味い気がするから。」
「へー、まー気が向いたらね。」
軽いなぁ。
時は戻って。
「......そうですね。強いて言うなら、ガマガエルに食べられそうなアイドルに暴行されることでちょっと今気になってる彼の口を強引に黙らせるって感じです。」
「ガ、ガマガエルに?アイドル?が食べられ?え?......精神の方か。うん、休んでいいぞ。お大事にな。」
「まぁ……あれね。その……そう!田舎とか!少し都会の喧騒から離れたところに行ってみたら?すごい心が軽くなるわよ。」
何故かみんなから優しい言葉を受け、今日はもう帰っていいと言われた。とはいえあいつのマネージメントは明日からだ。今日は大人しく帰るとしよう。
夕食の材料も買い、ついでに無くなりそうな洗剤やシャンプーなども買って帰った。家に帰り「ただいま」と言っても相変わらず「おかえり」の声はない。ただうちの『かめぞう』が餌を欲してバタバタするだけ。此方は一応部屋にはいるらしいが相変わらず扉を閉めてしまっている。それを無理に開けようとは思わない。段々と此方は前を向こうとしている。もしそれを妨げるものがいようものなら、例え誰が相手であっても容赦はしない。
「大丈夫、俺が守ってやるから。お前の居場所はいつだって此処にある。」
ピロン。
『ちょー、やめて?そういうキモイことは彼女が出来たら言ったり。』
キモい言うな。
「まぁ流石に初日から働けなんて鬼みたいなこと言わないわ。とりあえず今日はあいつの仕事を見て学びなさい。」
おぉ、てっきりその鬼みたいなことをやれと言うと思ったが、こいつにも多少の人間味は残っていたか。
因みにこの無給バイトは平日は放課後から夜遅くまで、土日出勤ありのウェルカム残業。さぁ一週間頑張ろう。
「それで明日からは完璧なまでに私に従事しなさい。もしヘマしたら男としてのプライド叩き潰してあげるから。」
とりあえず渡された資料を眺めてみるが、そのあまりの細かさと量に絶句した。言葉を失うって本当に言葉を失うんだなぁと思った(?)。そんな頭がおかしくなるくらいの資料をこいつは毎日こなしてるのかと思うと、絶対にアイドルにはなりたくないと思う。いや、なれるわけないだろってツッコミはいらんからな。
「なぁ、こんな『誰々の趣味を把握する』とかいるか?普通に本人に聞きゃあいいだろ。」
「は?あんたバカ?普通なことして生きていける世界なら私だってこんなことしないわよ。向上心のある人間は下なんか見ないの。常に上の人間を喰らうくらいのやる気が求められるの。」
なるほど、これは俺が舐めてたな。
まぁそっから、俺が知らない世界で生きる白花の生態を終始観察していた。笑いが求められる時に笑い、細やかな心遣いを忘れず、発言の一つ一つに注意して。カメラや出演者、客の視線も常に意識して。
「マネージャーさん。一ついいですか?」
「何だ?」
「あいつはいつから笑ってないんですか。」
「少なくても私は君の前以外で彼女が笑ったところを見たことがない。」
俺の前でって、多分殴ったりしてる時だからそれは意味合いが違うだろ。てことはあいつはもうずっと笑ってないのか。大した女優魂だこと。