幼気な女子高生を侍らすカス人間の日常 6
「そういえば、女装しばらくしてないけどいいの?言えばデコるよ?」
「......あのね、別に俺女装趣味別にないからね?作戦とかでしょうがなくしてたけど、俺が一度として嬉々としてお願いしたことがあったか?」
「んー、それはなかったけど、『し、しょうがねぇな......』的な感じはあったかも。」
やめろ、そんなツンデレみたいなセリフを俺が吐いたとなると、色々別のものも吐きそうになる。もう冤罪も解決したし、鶴の件も解決したし、俺が何かしなくちゃいけないことはないはず......そういえば、あいつのこと調べなきゃな。禦王殘とも大晦日話したけど、あいつ今どこで何してんだよ。
「とりあえず、もう頼むことはないと思う。勿論鏡石が協力してくれたのはめちゃくちゃ助かったし、それは素直に嬉しかった。この俺があんなに変われたんだから、きっと鏡石の腕は本物だよ。冗談抜きで、将来そういった仕事似合いそうだな。」
「......あんましそういうの、言わんほうがいいよ。」
『そういうの』というのがどういうのかはわからなかったが、とりあえず「すまん」と軽く謝っておいた。その顔は少し寂しげにも見えた。確かに俺と鏡石を繋ぐ数少ないものだし、その繋がりがなくなってしまうことに寂寞を感じるのだろうか。別に同じクラスなのだから、これからも接点はあるだろう。でも確か星川が合唱祭の時に言ってたな。女子が欲しいのは唯一感と共感。この場合、唯一感が消えることが、鏡石の表情を曇らせてしまった原因だろうか。
「でも、ファッションのこととで相談とかあったら、頼らせてもらっていいか?女装は多分もうしないが、普通の男性ファッションについて、出来たら鏡石に頼りたいなと。」
「......全く、しょうがない。男性のファッションはあたしもあんまし自信は無さげだけど、アドバイスくらいはできるかもだし。ファッションに興味持つのはいいことだし、暇だったら......待って、もしかしてあんたって、好きな女の子できたの?」
「ん?あぁ、できた。やっぱわかるか?」
ファッションに興味を持つのは好きな異性ができたときというのはよく聞く。鏡石の質問もきっとそこからだろう。俺に好きな女の子ができたなんてものは真っ赤な嘘だが、そのリアクションを見てみたくなった。にしても、よくもまぁそんな一瞬で顔を真っ白にできるものだな。これで「お前のことだよ。」なんて言ったら多分泡拭いて倒れるだろうな。しかし俺がそんなに誰かに恋することがおかしいのだろうか。確かにだれがどう見ても人間不信は否めないが。それに鏡石も自分の顔の良さは自覚してるだろう。俺レベルの顔面の男子がこうして普通に話してるだけでも、勘違いして告白する人はいてもなんらおかしくないぞ。......ちょっとイタズラしてみるか。
「お前、って言ったらどうする?」
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」
普通に過換気症候群になりかけていたので、紙袋を口に当てて何とか呼吸をもとの状態に戻した。やはり俺の告白は殺傷力抜群らしい。そしてすぐにそれを嘘だと言うと、今後は紙袋を俺の口に突っ込み、俺の方が呼吸できなかった。
「そういう洒落にならないのマジでやめてほしいんですけど。」
「すまなかった。もうしない。」
「もうしないじゃなくてさ」と、俺が謝ったことに何故だが一番怒っていた。
「私、冗談とかで告る奴ホント嫌い。『付き合っちゃう?』とか『お試しでいいから』とか。来るなら全力で来てほしいわけ。だからあんたも、するなら全力で来て。......そしたら、少しは考えたげる。」
「『考えとく』の係助詞は打消の活用語が来ると思うんだが。」
「茶化さないで。」
「お、おう。」
思いのほか鏡石はマジな顔をしていたので、俺もつい気圧されてしまった。確かに鏡石はギャル味があるから、多分同じような雰囲気の男性に迫られることも多くあったのだろう。確かにそんな男性がその場のノリで告白っぽい言葉を言うのは想像に難くない。
「じゃあ、もし俺が鏡石に告白するとなったら、俺の全身全霊をかけて俺の想いの全てを鏡石にぶつけるよ。」
「なんか、きも。」
なんでや。
「でも......気長に待っててあげる。」
鏡石は普通に男子にモテるだろう。気長に待っててもらうのは嬉しいっちゃ嬉しいが、俺よりもいい物件なんてそこら中ありふれている。もしも俺が鏡石のことを好きになって、その時に鏡石が誰とも付き合っていなかったら、その時は思いの丈を綴らせてもらおう。
「......ふっ。」
「は?何人の顔見て笑ってんのよ。」
「いや、なんかもうやり取りが将来付き合う恋人みたいだなと思って。」
「......きもいっての。」
表情は見えなかったが、多分笑ってくれていたと思う。
「遅いんですけど......」
「ごめちょ!狐神がちょっとあたしに告白紛いなこと言ってきて、ちょっと過呼吸ってた。」
先にスイーツ屋さんで待っていた水仙が不機嫌な顔で俺を睨む。向かいの席に座るが、何故だが鏡石もこっちの席に座ってきた。椅子ではなくベンチみたいな感じだったのでどんどん俺の方に迫ってくる。逃げたくても活路は見いだせなかった。「はよ座る」と急かされたので、特に反論せずに奥に詰めることにした。だが流石に体が密着するくらいはどうかと思う。なんなの、俺のことを圧殺しようとしてるの?
「なっ!?椛ちゃん私のほうに座らないの!?」
「えー、みおーちゃんてば大胆~。あたしに隣来てほしいの?あたしはみおーちゃんの可愛い顔を前から見たいだけだよ?」
嘘だ、男性は本来誰か座ってご飯などをするときは、面と向かって座ることが多い。それは旧石器時代より、マンモスなどの敵と相対したとき、敵を常に視界に入れることから起因している。逆に女性は敵を前にするではなく、同じ女性と横並びに情報を交換していた(井戸端会議の由来だったかな)というので、横にいることに安心感を覚える。つまり今鏡石が水仙に持っている感情は敵意。
「こっわ......」




