幼気な女子高生を侍らすカス人間の日常 5
「ねぇ、あの男になんて言ったの。」
「この2人の維持費はやばいよって話した。」
「嘘つき。」
嘘つきではあるかもしれないが、それで実際あんないかにも女性を取って食ってそうな悪漢の手から逃れられたのであれば上出来だろう。それともなんだ、鏡石の指示通り血祭りにあげたほうがほうがよかったのだろうか。こんな大観衆の中でそんなことしたら、この後のショッピングなんてできたものじゃないが。
あの男がいなくなってまとわりつくものは一瞬いなくなったが、時間が経てばまた湧いて出てくるだろう。極力早めに場所を変えたほうがいいな。
「あ、もしよかったらモデルとか興味ありませんか?」
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいんですけど、俺あんまりそういうの興味なくって......いくぞ。」
そういって手を取り人込みをなんとかかき分ける。先ほどの男も強引に手を引いてたし、今の俺もあんまりあいつと変わらないのかな、なんて思いつつ。
「こんなもんでいいか。悪い、急に手を引っ張っちゃって。......あれ、水仙は?」
「あんたが急に私の手を引っ張るから驚いて離しちゃったの。」
てっきり水仙の手は鏡石が握っていたから、鏡石の手だけ取ってきてしまった。少し閑静な場所に来たが、水仙には悪いことしたな。後で詫びを入れておこう。
「じゃあ戻るとするか。」
「......ちょっと待って。」
はい。
「ここら辺人多いから電波なかな届かないの。とりあえず行こうとしてたところを今みおーちゃんになんとか送れたから、とりまそこで集まる感じで。」
まぁこの人混みの中、特定の誰かを探すのはちょっと難しいか。それに水仙だってそんな子どもじゃないし、目的地に行くくらいなら何とかなるか。さっきのナンパが極端な例なだけで、普通に断れば済むだけの話だもんな。にしても先ほど手を繋いだのがちょっとまずかったのか、さっきから全くこっちを見てくれない
「......はい。」
「はい?」
手を差し出されたからとりあえずお金を渡したがどうやら違ったようだ。先ほどの罰金かと思ったのに。万札でもダメだなら通帳でも渡せばいいのだろうか。
「あたしをなんだと思ってるの......。これ以上はぐれると厄介だからってだけ。それに手を繋いでおけばナンパだってされないでしょ。」
「確かにこの人混みだとはぐれる可能性は全然ありそうだな。それに恋人には見られんでも、レンタルって分かれば声を掛けてくる連中もいなくなるか。......でも、嫌じゃないのか?演技とはいえ。」
「嫌だったらわざわざ提案なんてしない。はい、いく。」
そう言ってまた人混みの中に突っ込んでいった。今度は鏡石が俺を引っ張って。その顔はなんだか困っているようにも、楽しそうにも見えた。
目的地までは大体1キロくらい。都会ということで歩けば3分くらいで着くと思っていたが流石にそこまでではなかったらしい。道すがら、ずっと無言というわけでもなかった。てっきり俺の暴走のことを聞かれると思ったが「今はもう大丈夫そ?」だけしか聞かれなかった。大丈夫かどうかと聞かれれば、握られた手から緊張で汗が出ていないかが心配だったが、それ以外は大丈夫だった。
「一応あたしさ、梶山と同じようなポジで女子のまとめ役的な感じじゃん。それでさ、やっぱり狐神の追い出そうみたいな動きがあるんだよね。」
まぁあるだろうな。実際他の人からすれば、またいつ爆発するか分からない不発弾のような感じだろうし。
「その、さ、もし必要なら、あたしがその女子たち黙らせとこっか?全部は無理ゲーかもだけど。一応あんたとはそれなりに関わりもあるし。その、斎藤?にストーキングされてた件も何も返せてないし。」
「斎藤の件は別にいいよ。道すがらって感じだったし。申し出は嬉しいけど、わざわざそのせいで鏡石の評判を落とすのはよくないと思う。それに別に全員から好かれたいわけじゃないし、一定数から嫌われても別にあんまり気にしない。鏡石なんか上手くやれてると思うけど、実際そりが合わない人間はいるだろ。」
「そりゃあね。なら余計なことはしないようにしとく。あと、話は変わんだけどさ......白花さんから『もう私はアイドルじゃないから鏡石さんも好きにしてね』て言われたの。これって、そういう意味だよね。まぁ今まで別に何されたって程のことはしてないけど。」
鏡石が一度モデルとして活躍の機会を与えるから、白花に従うという契約みたいなものの廃棄だろうな。とはいえ俺が知る限りでも別に鏡石にそんな酷なことをさせたという記憶はないが。でも別にアイドルじゃないって、確かに今は動画配信者という立場だろうが、今の時代アイドルの在り方だって様々だろう。俺からしてみれば今やテレビのアイドルよりも、ネットのアイドルの方が人によっては人気あるんじゃないかと思うし。
「じゃあこれからは普通に友達として接したらどうだ?俺はあんまり知らないが、多分配信は配信ですごい忙しいんだろうし。鏡石は学校で白花の裏の顔を知ってる少ない人間なんだし、相談とか愚痴とか聞いてもらったらすごい助かるんじゃないか?」
「狐神が聞いてあげないの?」
多分何気ない言葉なんだろうけど、この鏡石の言葉に一体なんて答えればいいのかわからなかった。別に彼氏でもない、友達とも違う気がするし、恩人なんてものは厚かましいし、相棒なんて訳ないし。
「俺は別にいいよ」それだけ返した。




