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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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英雄と槃特の境界線 15

「直近はやっぱり所属する委員会、部活だよね。今はなんか一藤と一緒に風紀委員でこき使われてるとかは聞いたけど。......だめだ、めっちゃ面白い。あいつ何してんのほんとに「そろそろいいですか。」」

声のする方を向くと遠井先生が若干不機嫌そうな顔をしていた。口ぶりからして多分何かしらの約束を大鵠さんとしていたのだろう。しかし遠井先生は受け持つ学年が違うから、大鵠さんとあまり関わりがないと思っていた。

「実はね狐神君、俺がここに戻ってくるにあたって、いくつか条件はあったんだけど、そのうちの一つである委員会に入ることが決まっていたんだよ。」

「それが遠井先生に関係があると?」

確か遠井先生は委員会の顧問を受け持ってはいなかったと思うが。

「そう。その顧問が遠井先生でね。委員会の名前を更生委員会っていうんだ。所謂退学レベルの人間が送り込まれる委員会で、生徒、教師問わずありとあらゆる仕事を押し付けられる。学校としても退学者、なんて出したくないからね。俺の場合は生徒の誰も仕事を任せてくれる人がいなかったから、遠井先生のヘルプに入ってたんだよ。」

「ちょっとお腹痛くなってきたんで「気のせいだよ。で、君は今実質無所属、そしてこの委員会に呼ばれる十分な理由を満たしている。というかほぼ拒否権はない。」

「絶対嫌なんですが。というかそこらへんはボランティア部とか生徒会で仕事してたと思うんですけど。」

確かにうちの学校は生徒数も多いから問題もそこらへんに転がっている。でもそれらに対応する人間も多くいる。教師陣も勿論いる。それにそんな委員会は生徒会にいた時にだって聞いたことがない。はったりに決まっている。

「あんな綺麗な仕事じゃないよ。それにそんな奴隷制度に近いものを学校が公にするわけないじゃん。『学校に残りたかったら泥水啜っても「そこまで野蛮じゃないです。」」

でもそれに近いことはさせるというわけか。まぁ樫野校長を普通の校長として考えるのはちょっと無理って話だし、遠井先生が来ている時点で冗談というわけではないだろう。

「そういうわけで、風紀委員での仕事が終わり次第、あなたの身柄を更生委員会顧問である私が引き取ります。」

「あ、そういえばそろそろ風紀委員の仕事に行かなくては。行きたくないんですけど、これも仕事ですからね。」


口ではああいいつつも、狐神も自分がしてしまった責任は感じていた。それは大鵠も遠井も一見しただけでよく分かった。とりあえず入会の運びとなったことにある種安堵のため息が出た。

「ありがとうございます。俺の無茶を受け入れてくださって。」

「何が更生委員会ですか。あなたがもうすぐいなくなって、ようやく監視する必要がなくなったというのに。私も暇じゃないんですが。」

「まぁ狐神君を好きなだけこき使っていいですから。......多分今の狐神君をどこかのグループにいれれば、間違いなくいじめに遭う。クラスですらそんな状況なのに、放課後までそんなことになれば、学校に本当に居場所がなくなってしまう。クラスと委員会、両方のカバーは大変だと思いますけど、頑張ってください。」

大鵠の笑顔に愚痴を言いたい様子だったが、担任として、彼の現在の状況の責任の一端はある。それは自覚しているし、彼の言っていることがきっと本当になってしまうことも予測できた。だから不承不承ながらも彼の提案に乗ることにした。生徒会を離れてしまった彼を守れる手段を、せめて不器用なりにでも提案してみた。ここから彼を守り続けられるのか、正直自信はなかった。でもやらなければ今度こそ彼を守れない。


「それではお前ら2人の風紀委員最後の仕事だが......どうした狐神?」

「このまま俺を風紀委員で雇ってやくれませんかね?」

「いらない。最後の仕事は落とし物の分別、廃棄を頼む。」

学校の落とし物というのは1か所に集められて、そこで大体半年くらい置いてある。それでも誰も落とし主が現れなかったりした場合、その廃棄やものによっては利用されたりする。やはり生徒の数が数だけに、半年もあれば溜まるのなんの。

「消しゴムなどはまだ使えるものではありますが、いささか数が多すぎるため廃棄しちゃいましょうか。ボールペンも同様に。筆記用具関連の落とし物はやはり多いですね。」

「ハンカチとかポケットティッシュも結構あるな。カッターは使えなくもないけど、この辺りは全部廃棄かな。時計とかはちょっとわからないから一旦保留で。......何これ、くっさ!?多分これホルムアルデヒドじゃん!!理科系の部活の誰かだろ。化学系の人間が薬品廃棄適当にやんなよ。シックハウス症候群とか出たら洒落にならないぞ。」

ゴミに近いものや、落とし主が絶対にわからないお金があったり、いらないものの廃棄には時間は要さなかったが、処理に困るものにはどうしても時間を取られた。

「......終わった」

時間は19時手前を指し示していた。この学校の最終下校時間は知らないが、ぼちぼちその時間は迫ってきているだろう。時期もあり、窓の外は真っ暗な景色が広がっていた。金木も途中何度か様子は見に来ていたが、「終わったら勝手に帰っていいぞ」と残して帰ってしまった。俺が残る理由もないから帰るとするか。

大きなため息をつくと、後ろから迫ってきたカッターを弾き胸倉と袖を掴み一本背負いをする。しかし一藤も体を無理やり捩じって着地をした。不意打ちのカッターが使えなかったと分かると、それをこちらに投げつける。危ないのでこちらも躱すと少し距離を空けた。ここで話を聞ければよかったのだが、向こうにその気はないらしく、空けた距離を瞬時に詰めてきた。その動きはまるで蛇のように、若干の気持ち悪さを覚えた。そのわずかな油断を見逃すことはせず、『グニョン』と効果音がつきそうな動きで俺のは背後を取った。そして首を絞められそうになったため、何とかその手を静止させた。しかし向こうも力が相当強く、このままでは勝てないと判断して、相手の足を絡めてそのまま後ろに倒れた。置いてあった段ボールの角に後頭部が来るように調整したが、流石にそれはさせてもらえず、拘束していた手を素早く離すと俺の下地になる前に急いで絡ませた足を解き距離を取った。

「満足か?」

俺も何とかバランスを戻し転ぶことはなかった。またここから仕切り直しもできるだろうが、そんなこと相手もしないだろう。仮にも格下の相手に不意打ちして、それでも倒せずまだ俺が立っている時点で既に勝負としては負けている。

「いやー、噂には聞いていましたが、やはり前よりも強くなってますね。リーダーたちがあなたと戦ったと聞いて、どんなものかと思いましたが、まさか倒せないとは思っていませんでした。実に楽しい時間でした。私としては今の攻防だけでも、この風紀委員の下についただけの価値は十分にあります。改めて、襲撃を失礼いたしました。こうでもしないとあなたは取り合ってくれないと思いまして。でもきっとあの頃のあなたであれば、もっと楽しい戦いをしてくれたのでしょうか?」

何となく嫌な予感はしてたから、もし仕掛けてくるならこんな時間誰も来ないベストのタイミングで仕掛けてくるとは思っていた。しかし多分もっと攻められていたら普通に負けてるな。仮にも禦王殘の家の人間だよな。

「今後はこんなことしないでくれると助かる。」

そうしてなんだかんだ短くも感じられた風紀委員最後の仕事を完遂した。

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