英雄と槃特の境界線 3
「部活を作るね。まぁそれは構わないけれど、条件は最低部員5人以上、顧問を探すこと、1年以内にきちんと成果を出すこと。これが部としての最低条件だけれど......まぁ知ってるわよね。」
知ってますね、正直今の俺にはほぼ達成不可能ですね、正直言ってみただけですはい。
まぁこの話をするというよりかは、何かと理由をつけて生徒会の今の様子を直で見ておきたかったというのが強いかな。心配していたクルトと黒瀬、星川については見ている感じ前よりも打ち解けているようにも見える。親友、ってわけでは到底ないだろうが、それでも普通に話して普通にリアクションしてる。ノアもこれには一安心かな。
そんなノアから耳打ちされた。
「家でも学校でも『狐神先輩は本当に生徒会に戻って来ないんですか?』って聞いてくるのよ。私から何言っても納得いかない様子だからあなたから言って頂戴。」
そう言って星川の前に押される。向こうは俺にまだ戻ってきて欲しいらしく、ノアの言うようにだいぶ納得がいってない様子。まぁ俺も半ば強引に生徒会を抜けたからな。
「……あの、狐神先輩「気持ちは嬉しいけど、戻らないよ。」」
星川には申し訳ないが、多分話を聞いていたら同情して何を言い出すか分からない。後輩に期待させてその気はありませんでしたなんて、ただでさえこころがいるというのにそれはできない。
「......じゃあ私生徒会辞めます。前にも言いましたけど、奨学金も差し迫って必要ということもないですし、もしお金が必要になったらバイトしたほうがずっといいです。」
聞かずとも分かったが星川の目は本気だった。流石にそれを「わかった」と返すことはできず、俺とノアが止めに入った。できたら先輩からではなく、同学年の人達にも止めてほしい気持ちはあったが、そんなことを言ってはいられない。
「ちょっと落ちきましょう?」
「ど、どうしてそんなに俺に拘る「好きだからに決まってるじゃないですか!!」」
こんな形での告白なんて星川だってしたくはなかっただろう。だからこそ、涙が頬を伝い、そんな苦悶の表情を浮かべているのだろう。
「みんなが気持ち悪く感じる下卑た態度とっても気にも留めないで、後輩のくせに舐めた態度とっても受け止めてくれて、私の過去や本性知っても......寧ろ助けの手を伸ばしてくれて......男なんて女を性の掃き溜めにしか思ってないと思ってたのに......私が誰かを好きになるなんて、絶対にありえないと思ったのに......大好きなんです、狐神先輩。」
遂にその場に泣き崩れてまい、俺はとっさにその体を支えてしまった。きっとここで傍観でもしていれば少なくてもマイナスには繋げられたんだろうけれど。ノアはそこにいたクルトと黒瀬を部屋から出すと、自分も部屋を出ていった。
正直星川の気持ちに気付いてなかったと言えば嘘にはなる。俺は人に嫌われることに慣れてるから、逆に相手の嫌悪感がないことにも気付く。星川には最初からあまりそれを感じていなかったし、星川のお姉さんの治療が始まって以来は別の感情を持っていることにも気付いていた。正月、星川に呼び出されて『もしかして』とも思い、星川にその言葉を出させないために話を逸らした。それ自体良くないことだとも思うし、いつまでもそのままというわけにはいかなかった。
「告白なんて、何気にされたの初めてかもしれないな。」
「......私も初めてです。初めてどうし、不束者ですがよろしくお願いします。」
「勝手に話を進めるな。」
「......そうですよね、私みたいに既に誰かも知らない男の子ども孕んだ人間なんて嫌ですよね。」
「その言い方、俺が断れないの分かって言ってるだろ。」
「なりふり構っていられないんです。使えるものは全て使ってでも。」
うーん、正論。その姿勢はある意味あっぱれなものがあるが、やはり応えることは難しそうだな。
「それとも、狐神先輩は私のこと嫌いですか。」
「そんなことないよ。普通に俺が生徒会を抜けた後でも関わりを持っていたいくらい。」
「不束者ですがよろしくお願いします。」
ぶれないなこいつ。意思の強さで言えば、俺の知る人物の中でも多分トップクラスか。なんてこと考えてる暇ないか。向こうは一世一代の大勝負に出てるんだから。今だって俺の胸の中で顔を上げられずに震えてるし。
俺が太陽に言った言葉を反芻する。
「......ごめん。星川の気持ちには応えられない。」
俺を掴む腕から一瞬力が抜けると、さっきよりも強い力でまた握られた。
「理由をお尋ねしても......いいですか?」
「俺が星川をそういう風に見れないからだよ。俺よりも年下なのに、俺なんかよりもずっと強く生きてきて尊敬してる。口では色々言いつつも、誰かが傷つくのは見たくないところに、優しさを感じた。一つのものを叶えようと、決して折れることなく立ち向かう姿に憧憬を抱いた。」
後輩は先輩を敬うものかもしれないけど、例えば俺は安川先輩には全く尊敬の念を抱かなかった。逆に後輩である星川は心から敬服している。
「でもそこに、星川と一緒にこれから過ごしていきたいとか、デートしてみたいとか、そういったものはないんだ。だから、ごめん。」
「だから......そういうとこ.....ちなみに、じゃあ今狐神先輩が好きな人はいないんですか?」
「いないね。」
「へー......」
なんか流れ変わったか?
先ほどまで俺のシャツを握っていた手が俺の背中に回る。そしてその力は普通に強くて全然振りほどけなかった。
「「ちょ」狐神先輩に好きな人がいたら、応援しなきゃとも思いましたが、そういう人はいないんですね......。別に今恋情持ってないってだけで、これからそれは叩き込めばいいだけですもんね。」
......なんで自分で先ほど口に出しておいて失念してしまっていたのか。一つのもの叶えるために折れることなく立ち向かうと。
とりあえず倫理的に非常に危機感を感じたので、廊下で待つみんなに全力で助けを求めた。




