彼女の生態
客観的に俺と白花の関係は強姦と窃盗の被害者加害者。そして更生したと考え積極的に手を伸ばす白花と、それに冷たくも応じる狐神。多分こんな感じだろう。でも主観的に見ればそれは大きく異なる。それを伝えられれば楽なのだが。
「別に特別な関係とかはない。あいつのお人好しは二人だってよく知ってるだろ。俺が救いようがないほどダメで、それをあいつが必死に何とかしようとしてるから周りが何か変な勘違いするんだと思う。」
「......何となくその言い方も怪しいんだよね。俯瞰的というか、第三者視点ていうか。それに何となく白花ちゃんのことよく分からないんだよね。違和感くらいだけど。」
これは色々とめんどくさい事になったな。俺がいくら体を張ろうとも結局白花がダメになってしまえば意味がない。個人的な思いだが、白花は理想のアイドルでなければ困る。
「そう思うなら本人に直接訊けば、ってのはさすがにキツいか。なら今度俺からそれとなく訊いてみる。」
その後は特に何か質問されることもなく、なんと普通にカラオケをして終わった。普通に学生みたいな事をしてしまった。きっと間に太陽が入ったのが大きかったのだろう。時々3人から別々に視線を感じたが、特になにか言われるわけではなかったので、こちらも特にアクションは起こさなかった。
「結局用件はあれだけだったのか。いや、牟田は何となくわかるが、水仙は本当にそれだけなんかな……」
「さぁね、俺に訊かれても。でもお前に友達がいて俺は嬉しい半分、それが女の子ってところで憎たらしい半分だな。」
友達、か。休みの日に一緒にカラオケに行くような関係は確かに友達と言っても過言ではないのか。第三者から見ればそうだろうが俺の友達はやはり今のところこいつだけだと思う。生徒会の人達は友達と言うより仲間って感じだし。人間関係って本当にめんどくさいな。
「……てなわけでお前、段々みんなに違和感覚えられてるぞ。いいのか?」
放課後の旧校舎、最上階の1番奥。まず普通の人が来ることはない。誰が言い出したのか、この学校の七不思議の一つに『旧校舎の奴隷』というものがある。日本が敗戦国となった際に酷い扱いを受けた日本人が未だに罰を受け続けているというもの。時々、男の叫びが聞こえるという。これが出来たのは最近で一時はそれなりに流行ったようだ。
まぁまとめるとその男というのが俺なわけで、でも俺に自分で自分を虐めて叫ぶなんて思想は持ってないわけで。普通に彼女にいじめられて時折我慢できない程の痛みで叫んでしまうというのが真相だ。
「だってつまらないんだもん。これだけ大きな学校だったらもっと刺激的なことあると思ったのに。それなのにこっちはずっと『アイドル』を求められる。はぁ、疲れちゃう。」
「大変だな、みんなの理想を映す存在になると。」
ピシャン!!
縛られて動けない俺に容赦のないビンタが入る。
「……知ったような事言わないで。勝手に同情されるのホントムカつく。」
顔をぐりぐりと踏まれる。不幸中の幸いはこいつがそんなに力がない事だ。少なくても道具を使われなければ耐えられる。けれど当然心は穏やかでない。みんなの前でも敢えて俺に接近し裏で俺がボコされることを楽しんでいる。ストレスが溜まればこのように裏に呼び叩く蹴るなどしてくる。
でも俺はこいつには逆らえない。窃盗と強姦の件もあるし、妹についても昨日調査が済んだらしい。その時のこいつの顔と来たら子どもがサンタからプレゼントを貰ったような顔をしていつもの何倍もキツかった。……まぁ理由は他にもあるが結論から言って俺はこいつの奴隷として過ごすしかない。
「ほんっとにあんたって虐められてる時いい顔してるわよね。どんなにやられても『いつか復讐してやる』って眼がすごく素敵。」
これから本番と言わんばかりの笑顔で詰め寄ってくるが、ここで「白花さん、そろそろ」と声がした。廊下を見るとこいつのマネージャーが立っていた。酷いことにこのマネージャーも別に白花の行為を止めようとはしない。寧ろこれが白花にとってストレスの発散になるなら、と時たま手伝うまである。どいつもこいつも俺を何だと思ってるのか。
「あら残念。せっかく今日は新しいおもちゃを持ってきたのに。でもだいぶ体は軽くなったわ、ありがとね。また遊びましょ、子豚ちゃん。」
手足を縛るバンドを切り、白花は鼻歌を歌いながら笑顔で仕事へと向かった。
「何が子豚ちゃんだよ、馬鹿かよ。」
みんな俺の話など聞いてくれなかった。俺は違うとしか言えなかった。何で財布を拾って届けただけなのに俺が犯人にされなくてはいけないのか。「中身だけ取って落し物コーナーに置いとけばバレないと思った?」だっけか。確かそんなことを言われた。そんな馬鹿なことするわけないだろ。盗んだのならそのまま家に持ち帰って捨てた方がよっぽどバレない。それに白花なんて目立つやつに盗みなんかするか。そのくらい俺みたいな馬鹿でもわかる。
『君がどれだけ頑張ってるか、僕は知ってるよ。どれだけ泣いたかも、どれだけ笑われたのかも。僕にはどれだけ辛いことかは想像することしかできないけど、だけどそれでも夢を追う君の背中はかっこよかった。』
「……ほんと馬鹿だな、俺。」