取り戻したもの、失ったもの 12
「......お久しぶりです。春風さん。」
「久しぶり、2人とも。」
良かった、春風さんならまだ鶴と一緒に歩いててもいきなり殴ってくるなんてことなんてことしないか。俺も拳が若干出てしまっていたが、それを振るわずに済んだ。たしか体育祭以来だろうか。随分と久しぶりに感じる。にしても、やはりというべきか、俺の12月の行いに関しては既に大まかに連絡が言っているそうで、直後に瀬田さんの分まで含めて叱られた。『自分を大切にしなさい』『人を頼りなさい』と以前誰かに同じことを言われた。
「と、まぁ過ぎたことをいつまで言っていても仕方がないし、詳細も聞きたいところ。。それで、2人はデートか何か?」
立ち話もなんなので近くのお店に入ることにした。奢ってくれると言ってくれたのでそこは大変うれしかったが、前に京の件で近くの喫茶店を調べた時、ここは女性を落とすのに持ってこいの雰囲気と書いてあった気がする。まぁ奢ってもらう立場の人間なのでそこは黙っておくが。
そして俺の感情も含めての詳細を改めて話した。
「またそれは......まぁ事情が事情だし、これ以上俺から口出しすることはちょっとできないかな。ところで鶴ちゃん、俺のとこに来ない?狐神君のとこよりいい生活を保障するよ?」
「春風先輩のその一直線さ嫌いじゃないですよ。」
ある意味当然ではあったが鶴の返事はノーだった。それはたった数日とはいえ俺の家でお世話になって、もっといい物件があったのでそっち行きますなんて言われたら普通にそんな人間嫌だ。鶴がそんな人間でないことは知っていたが。
「安心した?」
「何がです?」
「鶴ちゃんが狐神君の家に居たいって言ってくれて。」
「そうですね、春風先輩の毒牙に掛からなかったと聞いて安心しました。」
「狐神君は俺のことなんだと思ってるのさ......」
「女性であれば選り好みせず全てを食らわんとする鯨飲馬食の大食漢。」
頭にチョップを食らった。そしてそのタイミングで料理が運ばれてきた。成程、見た目こそ確かに女性受けしそうな感じだが、きっとカロリー計算とか栄養考えたらあまり良い料理とは言えない感じだな。メニューによっては小さくアルコール濃度が書いてあるのがまた卑しいところだ。
「ま、鶴ちゃんも分かってるでしょ。友達とはいえ、一人の男性の家に泊まる意味。狐神君はいい子だから気にして言わないかもしれないけど、もし何か起きてもそれは鶴ちゃんの責任でもあることだけは忘れないように。」
俺の思ってもなかなか言い出せなかったことを言った、というよりかは言ってくれたという方が正しいか。自分が汚れ役になることなんてわかっていただろう。でも大切なことだ。そういったところに先輩としてのかっこよさが見えた。
そしてその発言を受けて鶴は小さく「......はい」とだけ零していた。
「そういえば春風先輩大学で彼女できたんですか。」
俺の発言はあまり良くなかったのか。口に含んでいたコーヒーを盛大に零していた。
「あっ、ごめんさなさい。やっぱ大丈夫です。」
「何も大丈夫じゃないよ。勝手に謝らないでほしいな。」
そこから春風さんの大学事情をたくさん聞いた。大学の授業システムについても勉強になった。うちは単位制高校じゃないからいまいちそのシステムが分からなかったところではあったが、選択と必修、楽な授業と難しい授業の違い、研究室やゼミでの勉強、今は文系でも卒論を必修としているところも多くなってきているとか。あとかなり重要なのは縦と横の人脈の確保は必須と話していた。定期テストでは主に先輩などから過去問をもらって勉強することが多いらしい。そして先生もそれを見越して過去問を見ただけでは解けないような問題を出す人もいるとのこと。逆に言えば人間関係を構築していないボッチはただただ難易度の高いテストを受けさせられる。そして当然のように落単はある。正直それはテストとしてどうかとは思うが、確かに全ての先輩生徒の行動を取り締まることなどできないだろうし、人脈構成も社会人には大切なスキルだ。時代と共に大学に行くのが普通になっていってるとは見たが、目の前の大学生を見るとマジであんまり行きたくないな。
「......その中でね、誰でも彼でも人脈を広げるのはよくないって話。特に同性なら『お前とは合わないわ』で終わるんだけど、異性は本当にめんどくさい。」
俺も鶴もそこは聞いていないのに勝手に話し始める。春風さんだってまだ未成年だし、アルコールを含むものは口にしていないと思うんだけどな。
「新入歓迎会、別名新歓があったんだけどさ、まぁ大学生なんて大人みたいなもんだからさ、みんな飲んだんだよ。」
ほんとにダメなヤツじゃないですか。確かにちょっと前に成人は18歳とかにはなったけど、確か飲酒とか喫煙とかはまだ20じゃなかったっけ?
「だんだん意識もなくなってね......次に目を覚ました時には女の先輩のベットで寝てたんだよ。同じ1年生の女の子も一緒に3人で。しかも本当に何したのか全く記憶になくて......」
反面教師という言葉がここまでしっくり来たのは初めてかもしれない。




