表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
557/596

取り戻したもの、失ったもの 11

要は伽藍堂のお家はここら一帯の神社、寺の総轄をしているというわけか。確かに俺もあんまり寺と神社の違いとかも分からんし、仏教と神道の違いもわからん。このご時世お布などで生きていくのも大変だろうし、仕方がないとはいえ少しずつこういった文化は廃頽(はいたい)してしまうのだろう。

「ここの神社ももうすぐなくなるのか?」

「それを視察しに参った次第でな。しかしそうだな......長くは持たないだろう。」

遠くを見つめる伽藍堂の瞳に何が写っているのかはわからなかったが、それを憂いていることは分かった。とはいえ俺らができることもない。それも伽藍堂は分かっているだろう。

「そう気にやむでない。諸行無常ともいうであろう。変わらないものなどあるまい。どれ、こうして其方らにあったのも何かの縁であろう。御籤(みくじ)を引いていくといい。勿論金などいらん。」

多分深い意味はないんだろうけど、変わらないものなどないという言葉に哀愁を感じた。確かに世界は回っていて、終始変化し続けているけれども、変わらないものだってあるのではないのだろうか。伽藍堂もそれを信じたいのではないだろうか。そんなことを思った。

一応おみくじを引く前にまずは参拝を済ませることがマナーということで、社殿正面の鈴緒(すずお)を上下左右に振った。そして手を合わせる。今更何を願おうかとも考えていたが、一つだけ叶ってほしい願いならあった。そしてそれを期待せずに祈ってみた。


『凶』

『凶』

『凶』

「伽藍堂。この神社もうだめだと思う。サービス精神がまるでない。」

「......神社ってサービス業なの?」

願望、叶わぬ。待ち人、来ず。去り人、数多数(あまたすう)。探し物、二度と見つからず。商売、不振。健康、生存は叶う。学問、努力しなければ危険。縁談、不可能。家庭、崩壊。方角、闇の中ではその意味成さず。

「この野郎......お?」

恋愛、叶う可能性あり。

まぁこんなものはあくまで楽しむ程度で受け取っておくのが一番だしな。適当な縄にでも結んでおくとするか。にしても恋愛ね。俺からは縁遠いものかと思っていたけれども案外そうでもないのかな。個人的にはそれよりも学問とか上がってほしかったところだけど。

「ほう、恋愛が一縷の望みありか。」

「人のおみくじ見るとか仮にも神社の息子がしてもいいのか?」

「......狐神君独り言漏れてたよ。」

それはこっぱずかしいことをしてしまった。

「だが夏休み学長の命により集うた際に狐神殿にも想い人がいると話してただろう。存外的を得ているのではないか?主の周りには何かと女性が多いからな。女難の相なんてものも項目にあればよかったのだがな。」

女難の相というか、人間関係そのものに問題があるというか。樫野校長は基本的に嘘を言う人ではないだろうけど、あの言葉はちょっと信憑性薄いんだよな。俺が特定の誰かにそういった感情は持ってないと思うんだけど。それこそあの数か月先の修学旅行で白花に嘘の告白したときのことを言い当てたのなら、それはもう未来視とかそんな次元のものだけど。


その後伽藍堂はまだやることがあるということで、俺と鶴だけ神社を後にした。今日は大した予定もないし、もしかしたら色々な人に出会うかもしれないな。年内最後の日を友達や恋人と過ごすために町に出る人も多くいるだろう。鶴と一緒に歩いているだけでも怖いが、これで俺の家に2人で入っていこう姿を見られたのなら、俺の命はそこまでかもしれない。鶴と楽しく大晦日を満喫するつもりがとんだデスゲームが始まってしまったものだ。

「......ちなみに本当に気になっている女の子とかいないの?白花さんとか、ノアちゃんとか。」

距離感で言えば間違いなくあなたが一番気にはなりますけどね。もうそりゃあドキドキですよ。

「鶴の恋愛への興味は人並みにあって安心した。でも今のところそういう人はいません。」

それこそ白花や水仙、京やこころなんかは俺へ好意を向けてくれていたとも思うけど、今そこらへんのは全部ぶっ壊れてるだろうし、多分ノアは俺のことをそういったもので見たことはないと思う。

「......そうなんだ。」

そういう鶴はどうなんだろうと思ったけれど、その顔を見るにどうやら意中の相手はいるような気がする。多分その相手は兜狩だろう。俺が前に兜狩のことを意識させることによってその気持ちに気付いたとかそんな感じだろう。後で兜狩には感謝してもらわなければ。何を奢ってもらおうか。


当初の目的であった神社への参拝も終わったし時間は丁度お昼ごろ、どうせならこの足でどこか行こうか考えていた時だった。

「あれ、狐神君......と鶴ちゃん?」

不味い、誰かに見つかった。殺される前に殺さないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ