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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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猫と彼女と先輩と 3

「一回としてチャンスなんてありませんでしたよ?」

うわキツ。え?きつない?笑顔で「端からお前に惚れた事なんてない」と言い占めるそれはこの子のイメージと大きく離れてるな。春風さんもこれには目が点になってるし。

「残念ですけどあなたをいい人以上に思ったことはないです。……それに今は他に好きな人がいますから。」

「……はい?」

ちょっと、なぜそこでこちらに視線を移すんです?今話しているのは春風さんなんだから春風さんの目を見なさい。ちょっと、なんでそんな照れ顔するんです?君と俺との間には何もない。そのはずなんだ。ちょっと、なんでこっちに来るんです?

「この子を助けてくれてありがとうございます。」

こころは布団の中にいたシュパリュを抱き抱えると深々頭を下げた。

別に見返りを求めて助けたわけじゃない。……ただ気に食わなかったから助けただけだ。

「なんで俺がその子を助けたって知ってるの?」

「それはこの子の様子を見れば分かりますよ。私以外に懐くことなんてほとんどないのに、あなたを見れば途端に走って行っちゃうんです。それで散々甘やかせれてもらって……けもn、ペットのくせに生意気ですね。」

ほっぺたを軽くつねり上下左右に引っ張る。何か変なことが聞こえた気がするが聞こえない。

「この子を助けたお礼はしたつもりですが、個人的にはまだ足りないと思っており、何かして欲しいことがあればなんでもどうぞ。」

「お礼?」

だから君と会ったのは初めてだと思うのだが、何なの?俺もうボケてきてるの?そのうちご飯を食べたことさえ忘れちゃうの?

「あなたの退学の処分を停学1ヶ月にしました。お父さんにお願いして。」

「……。そういえば前に式之宮先生が誰かが俺の処分をうんたらかんたら言ってたな。え……こころさんだったの?」

「はい!『必死に自分の無罪を訴える人より噂なんて姿かたちのないものを信じるお父さんなんて嫌い!バカ!加齢臭!』って言ってやりました。あと、もう1回、さん付けはなしで名前を呼んでもらっていいですか?」

言っちゃいましたか。何か間接的に領さんの事傷つけちゃったな。というか加齢臭って地味にお父さんの立場としてキツいこと言ったな。

「よくそれで領さんも俺に施しをくれたな。」

「無視しないで欲しいです。あ、照れ屋さんなんですね。もちろんそれだけではありません。……嫌でしたけど、あなたの助けとなるならばこの体を犠牲にすることくらい……」

「犠牲にするって、まさか体を犠牲にしたのか!?やっぱりいいだけの人なんかいないのか……。人間だもの、しょうがない。」

そこまでいったところで扉のノック音がし、被疑者である領さんが入ってくる。

「ご飯が出来たから食事にしよう。それとこころ、物事はきちんと最後まで言いなさい。私は学校に行くことを約束させただけだよ。」

ですよね俺は最初から領さんがそんなことするはずないって信じてましたよ。……にしても、となるとこころは不登校なのだろうか。だとしたらそれは簡単に踏み入ってはいけないのかもしれないな。


「いいじゃん!もう中学の範囲は全部勉強したの。それならあんな猿みたいな連中と同じ檻にいる必要なんてないでしょ!お父さんなんて嫌い!バカ!堅物!」

「あの、こころ?少しは領さんの気持ちを汲んで上げたらどうだ?」

「あぅ、狐神先輩がそう仰るのでしたら……。お父さん!大好き!!」

随分と凸凹の激しい子だな。不登校の理由も単にめんどくさいだけならあまり気を遣う必要もないか。というかさっきから春風さん全く会話に入れてないけどいいのかな。

チラッと様子を見てみると春風さんは優しく笑いながらこころの事を見ていた。その姿に少し複雑になる。俺は別に春風さんの恋路の邪魔をしたかった訳ではない。でも結果としてこころのベクトルは多分俺に向いてしまっている。その事を春風さんはどう思っているのだろうか。

「狐神君が気にする事はないよ。」

まるで俺の心を見透かしたように春風さんは言った。けれどそう言われて「はい分かりました」とはならない。略奪愛は見るのは好きだが関わるのは嫌だ。それも奪う側なんて言えばもっとだ。

「どうしたの狐神君?あ!もしかしてあんまりお口に合わなかった!?ごめんね、私そんなに料理上手じゃなくて。」

「いえいえ!!そんな滅相もないです!!どれもとても美味しいです。自分も料理をたまにするんですけどこんなに美味しくは作れないので尊敬しちゃいます。」

勿論本当は味など一切分からないが、これらが美味しいであろうことくらいはわかる。一汁三菜とバランスよく、旬のものを使い、一人ひとり細かく分量まで違っている。よく考えられている証拠だ。

「彼方さんは料理もされるんですね!カッコイイですね~。今度彼方さんの家でご相伴に預かりたいです。あ、勿論2人きりで。」

なんでこの子は俺と春風さんのダブル特攻なセリフを言うかな。それに家族の前で言うのは色々まずいですよ。


でも結果として夕食は和気藹々とした空気で進み、食べ終わる頃には9時頃になっていた。あまり帰りが遅くなってしまうのも悪いので、お言葉に甘えさせてもらい送ってもらうことにした。何故か奥さんまで同行していたが、その理由はもう少しだけ俺と春風さんと話したいかららしい。けれども俺は程よい車の振動と膨れたお腹が原因で、まもなく寝てしまい、次に目を覚ますと春風さんが降りる直前だった。急いで別れを言うと「またね。」と言ってくれた。


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