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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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取り戻したもの、失ったもの

その後建物は大きな音とたくさんの破砕物を撒き散らしながらゆっくりと倒れていった。既に警察は呼ばれており、樫野校長を何故か先頭に、梁さんや雲仙さんも来たらしい。とはいえ既に事態は終わったこと。警察は事故の原因とその後始末をする流れとなった。表沙汰には建物の劣化に伴う倒壊となった。樫野校長や梁さんはノアたちから全ての事情を聞いたが、わざわざそれを世間に発表して鶴を追い詰めるようなことはしなかった。他のリーダーたちは現場検証などもあって来ることができないし、別に来たところで何ができるわけでもないということで、兜狩から事の次第をメッセージで受け取った。

建物内部からは2人の帰らぬ人が見つかった。一人はこの家の持ち主である蓬莱殿十一。今回の事件の犯人となる人物。しかしこちらは体や顔面など、倒壊した際の衝撃のせいか、一見した判別はできなかった。DNA検査をしたところ、当人であることが確認できた。

そしてもう一人はどうやら鶴の母親にあたる人物だったらしい。こちらは綺麗な状態で発見された。ずっと行方が分からなかったそうだが、どうやら地下で冷凍保存されていたとのこと。とはいえその命はずっと前に途絶えており、鶴曰く「もし私がどこかへ失踪したりした時に備えて細胞だけでも取っておいたのかも」と言っていた。言葉は少し淡泊にも感じたが、何年越しに遭えた母親を見て鶴は涙を零していた。鶴の父親もそうだが、鶴にとって記憶の中の両親は、今は無きあの写真のようにとても愛おしいものだったのだろう。



というわけで、俺は何故かあの状況から生還することができた。体の至る所に傷はあったがそこまで大きくなく、鶴に刺されたところは縫合された痕があった。俺があの絶望的な状況からどうやって助かったかは別に考える必要もないだろう。結果今俺が生きていることが何より重要なのだと、きっとあの人ならそう言うだろう。

「......」

「......あの、おはようございます。」

「......あぁ、おはよう。」

目を覚ますとそこにはぶっちぶちにキレている鴛海の姿があった。どうして俺のことを見ていてくれていたのかと思ったが、多分これ監視的な意味合いでそこにいるんだろうな。相手が読書をしているため、ここはどう話をした方がいいのだろう。

そんなことを考えていると、キリがいいところまで読めたのだろう、本を閉じて鞄にしまった。そして何やら俺と機械と繋ぐコードを見始めた。

「これでいいか。」

そういうと何かしらのコードを抜いた。次の瞬間、ドラマとかで見る患者のアラーム音がけたたましく響いた。そして間もなく外からは誰かが走ってくる音がした。その足音はすさまじく、陸上部育ちの看護師さんでもいるのだろうかと思った。

「大丈夫ですか!?彼方先輩!?生きてますか!?」

「あれ、こころ?とりあえず俺は大丈夫だよ。」

何をしたかったのかはなんとなくわかった。後ほど来た看護師さんにも「コードに足が絡まって抜けてしまった」と言って軽く謝っていた。しかしこれには俺も反省しなければ。

「分かったか?たとえ君が自分の命を軽視していようが、その危機と知って本気で心配し、それを憂う者はいる。二度とあんな真似するな。」

俺が高梨に指示して、千幸君にしたことを言っているのだろう。最悪千幸君から「ただコードが抜けただけだって」と言われたとしても、鴛海にとっては本当に心臓が締め付けられる思いだっただろう。そしてそれは今俺ではなく、俺の隣で心配そうに見てくれているこころも同じ感情を持っていると思う。

「もう僕は行く。精々学校の人間になんて言い訳をするのか考えておくんだな。」

「鴛海。」

鴛海は不機嫌そうな顔で俺を見てきた。けれどそこには俺に失望や嫌悪といったものは感じず、ただただ純粋な怒りがあるように見えた。

「本当にごめ「蓬莱殿さんの事情は聞いた。君の行為の適否について、僕は言及するつもりはない。しかしそれと感情論は別問題だ。......はぁ、今度弟の誕生日なんだ。プレゼント代くらい出してもらおうかな。」

「......3000円くらいまでなら「ん?」4000円くらいまでなら「ん?」4500で何卒......」

ま、不味い。最近バイトあんまり入れてなかったからお金の余裕がない。いや、だが昼食を抜けば何とか......。

「嘘だよ。誕生日プレゼントを買いに行くときに男子として助言が欲しい。その1日だけもらえるか?」

「......おっけ。必ず空けておく。」

最後に少しだけ口角が上がると部屋を後にしていった。そして次に瞬間首が折れたと思うほど、直角に首を曲げられた。頭頂部を回転の中心に左90度の回転。「ケ゚ッ」なんて変な声が出た。あれか、鶏が食用として加工される際にもこんなことされんのか?

「狐神先輩もうほんとに大丈夫なんですか!?身体もそうですけど、こう......精神的にと言いますか?」

「とりあえず大丈夫だから少し離れてもらえると嬉しい。」

とはいえそれだけ俺のことを心配してくれていたのは嬉しかった。みんなに復讐をするとなった時、こころがどう動くか分からなかった。俺の復讐を止めるのか、手伝おうとするのか。だからこそというわけではないが、最初に領さんの前で俺の復讐のことを伝えることにした。そして俺に対して危機感を持った領さんはこころに近づかないように指示した。きっとこころは反発しただろう。でも事実今日までこころから接触は全くなかった。きっとその指示を聞いていたのだろう。......まぁそのリバウンドが今来ているわけだが。

「嫌です!私が今までどんな想いで狐神先輩と距離を取っていたのか、それを分からせてあげます!!」

分からされた。

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