鶴の仇返し 14
「まぁ兜狩君は残念だけどここからは出れないけどね。」
「......はったりだ。ここはあんたが鶴の成長を展覧できる、あんたにとって大切な場所。そんな場『ドゴォン!!!』」
下の方から鈍い爆音が聞こえた。そして煙が下から登ってくる。位置的にこの建物の半分くらいの位置だろうか。下にいる人たちに被害がなければいいが。
「いいかい、確かに思い出を回帰する場所は確かに大切だ。でも別に建物や箱庭にそこまでの価値はない。データは他の場所にいくつも保管してあるし、ここもボロいからね。そろそろ取り壊しを行おうと思っていたところなんだよ。......さて。」
また鶴たちのいる部屋に戻り。まるで自分がラスボスのように、逆光の中不気味に嗤った。
「残り1分半。私を倒さないと君は何も守れないよ?」
正直あの爆弾を脅しのために用意しただけという可能性もある。だがもしこいつの言う話が本当だった場合、事態が起こってからは何もかも手遅れになる。正直今からこいつの階段のボタンを奪取しても間に合う気はしないが、それでも何もしないわけにはいかない。あくまで冷静に、でも可能な限り早くこいつを仕留める。こいつの言う通り、やらなきゃ何も守れない。
右足の蹴り、左足の蹴り、顎を狙った右アッパー、回り込んで肘打ち、そのどれもがやはり届かなかった。
そして向こうからこちらの不意をついた一撃を鳩尾に喰らう。息が上手く出来ないでいると、背中を足で踏まれた。無様にもそれをされるだけで起き上がることが出来ない。
「残り45秒。齷齪する姿にはとても元気づけられたが、これでもうお終いだね。君は結局何一つ守れずにここで寝っ転がってるのがお似合いだよ。あそこで跳ね回っている狐神君のように……あれ?どこに「あぁ、もう終わらせよう。」」
油断しきっていた十一さんの背中から、動けないように万力の力で拘束する。覆い被さるようにしたが、向こうも必死に抵抗して、すぐに俺が下になってしまった。けれど絶対にその手は離さなかった。今は時間がもう残されていない。何か言いたそうな兜狩に叫ぶように伝えた。
「この人はここから脱出するためにパラシュートを隠してた!それは鶴のすぐ側に置いてあるから鶴を連れてその窓から逃げろ!!」
「けどお前は「俺はもう背中に担いでる!2人が飛んだの見たらこの人も連れて俺も飛ぶから!!早く!!」」
一瞬迷いが見えたが兜狩はそれを振り払うと、急いで鶴のところに行き拘束を解いた。そして急いでパラシュートで飛ぶ用意をした。素人なんかにいきなりパラシュートで飛べなんて無茶な話だが、今はそれしか生き延びる方法がない。
「よし、鶴!急いで......」
その刹那。
ザクッと、何かが突き刺さる音がした。
そこから流れ出る血は次第に俺の服を染めていく。
痛みというよりも、不快感が全身を一気に覆った。
カラン、と音がする。
鶴は自分が握っていたナイフを落とした。
「な、なんで……狐神君が?私は......その人を......」
「……だいぶ前、俺の妹に、虐待していた爺さんが目の前で死んだ話をした……その時に、鶴はいつもと明らかに様子が違ってた。……鶴の事情を知って……もし、こんな機会があれば、この人を殺そうとするんじゃないかって……」
口から血が滲み出る。……いよいよ俺の悪運も尽きてきたか。
「鶴……気持ちが分かるなんて、言ってやれないけど……こんな奴を殺して……鶴が本当に良くない人になっちゃうのは……嫌だな」
「狐神君……狐神君……!」とわなわなしながら俺に近づいてくる。けれどもう時間がない。
乱暴だが右手だけで何とか十一さんを拘束する。そして血に染まっていたが、その手で優しく鶴の頭を撫でた。その白絹のような髪を紅く染めた。
「鶴……俺は大丈夫だから。まずは……ここから出て、それから話をしよっか。……兜狩……鶴を頼む。」
「分かった……お前も必ず来いよ!!」
そう言うと鶴をお姫様抱っこして窓越しから飛び出して行った。鶴は「ダメ!狐神君!!」と叫んでいたが、それを押し切って兜狩はそこから飛び降りた。それはまるで映画のワンシーンのように美しいものだった。
2人を見送ると十一さんを解放した。俺が刺された辺りから、この人ももう暴れることはなかった。そして下の方では一気に爆発をが始まった。
「元々パラシュートを私が使って鶴を担いで降りる予定だった。君たちを確実に亡き者にするために、予備のパラシュートなんてなかったはずだが。」
「1つのパラシュートで3人は降りられないです。とはいえ他の方法を探すことも、3人で納得いく結論を出すこともできないです。......俺は2人に幸せになってほしいんです。」
「美しい自己犠牲だけど。それをみんなはきっとすごい怒るよ?」
だろうな。「また勝手に自分で全部背負いこんで」ってノアに怒られそう。今度は怒られるなんて可愛いものじゃないか。でもそれを聞くこともないんだろうな。ここの高さは落ちて助かる高度じゃないし、クッションになるようなものもない。このまま血を流しても、爆発に巻き込まれても全ては同じ結果に帰結する。流石にここまでかな。……でも後悔はない。
「……じゃあね、鶴。出会えて本当に良かった。どうか柔らかな温もりが、あなたを悪い夢からずっと守ってくれますように。」