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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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鶴の仇返し 8

地下、というメッセージを受け取ったノアはそれを素早く他のメンバーにも共有。そして兜狩と一緒に鶴の家の玄関のインターホンを鳴らした。祖父が出なくても鶴は家にいるはずだから、インターホンが鳴れば少なくても誰かから反応はあるはず。しかしその反応はしばらく待ってみてもなかった。

「つまり鶴もおじいさんに捕まった可能性が高いってことか。」

「メッセージが送られてまだ時間は1分と経ってないことを鑑みると、多分捕まるギリギリで送ったことになるわね。私たちも行きましょ。」

鶴にはあらかじめ部屋の鍵をいくつか開けてもらっていた。そして狐神を含めて全員が地下にいる状況であれば、多少の視線などは気にせずに家に侵入することができる。一応伽藍堂、明石チームとは反対の方向から侵入をした。

しかし『地下』だけでは直ぐにそこに行くことは難しく、見渡しただけでもその入口がどこにあるのかわからなかった。とはいえ時間もあまりかけたくないところ。下にいるにであれば、上階にいるノアの足音などはより聞こえやすい。足音に極力注意しつつ、可能な限り地下に通じる道を素早く探していった。

「やっぱり鶴を助けたいの?」

「何の話だ?」

部屋を探しつつ、隣にいる兜狩に小声で話を投げかけた。ノア以外にも気付いている人は多くいると思うが、あくまで兜狩は知らないふりを続けていた。作戦会議の時はみんなの前ということもあったし、具体的な言及はしなかったが、今は2人しかいないことだし、それなりに重要なところではある。

「夏休みに校長に集められたときの話とか、新たな生徒会発足の時とか、その辺りで気づいている人は多くいるでしょ。あなたがあの子に好意を持っていることくらい。」

「......それにも関わらず、俺は鶴が入学当初精神的に追い詰められていることに気付けなかった。そして狐神に言われるまで鶴が家で大変な思いをしていると知らなかった。そんなことも知らずに色恋に現を抜かしていた自分に腹が立って仕方がない。お前が聞きたかった俺の今回の作戦の具体的な理由だ。」

「......ねぇ、その鶴の家で大変な思いをしてるって、具体的にどんな」

ノアが言葉を言い終わる前に、向こうのチームから地下に通じる道を発見したと連絡があった。ノアと兜狩は何も言わず視線だけ交わすとそこへ向かった。


地下への道は階段のようなものではなく、大きめのクローゼットの服の中に隠れた梯子から通じていた。木製で古い梯子は一段降りる度にギシギシと小さな音が鳴った。埃など被っていない感じ、ずっと使われているのだろう。きっと鶴もこの下にいるはず。

下に降りるとそこは見通しがよく、恐らくフロアの全てを見渡すことができ「降りてきちゃだめだ!!」


誰かの話し声が聞こえたから、てっきり鶴と十一さんが戻ってきたのかと思ったが、3人以上の声が聞こえたからみんなが来てくれたのだとすぐに察しがついた。けれどここはその梯子しか地上に出ることができない閉ざされた空間。ここに来た厄介者を閉じ込めておくには持ってこいの空間だ。急いで声を上げたが、次の瞬間に梯子がこのフロアに落ちてきた音が響いた。きっと上にいた十一さんが梯子を外したのだろう。ここは電波も断絶する空間。閉じ込められたら助けが来ない。

「大丈夫よ狐神。伽藍堂は上に残してあるし、他のメンバーにも情報は伝わってる。......にしてもここにはあなた一人だけなのね。無事、とは言いづらいけれど、少なくてもあなたの生存が確認できて安心したわ。」

ノアの言葉に若干安堵した。上に残っていたのが兜狩なら、鶴への気持ちを利用される可能性が大いにある。明石が残っていたら変な口車に乗せられる可能性がある。伽藍堂はその辺偽りや欺き、騙し、誤魔化しといったことは平気だと思う。......そうしたらここには用事はないだろう。

「......ここは廃棄処分場みたいなものだよ。使い捨てられた、使い物にならない馬鹿が1人いるだけ。鶴と十一さんは多分2階の鶴の部屋にいると思うから早く行ってあげて。」

俺とノア、兜狩、明石の間には堅牢な鉄の柵のようなものがある。まるで刑務所のような片腕だけなら出せそうなほどの間隔の檻。檻には鍵がしっかりと掛かっており、決して強引に開けることはできない。そしてその鍵は今、俺の手の中にある。

「何言ってるの。あなたも来るのよ。特に縛られたりしてないんでしょ?早く鍵を開けて私たちと来なさい。」

その通り。縛られることすらなかった。だってそんなことしなくてもこんな壊れたガラクタ、放っておいてもなんも問題ないのだから。

「一体どうして俺がそっちに行けるんだよ。ここまで散々なことしてきて。」

ノアとしてはここで狐神を見捨てる選択肢はなかった。彼女を守るため、石を投げられ続けてもその役を投げ出さずに演じきった彼を責めるなんてことはできなかった。少し時間は惜しいと感じつつも、実際まだ不明瞭な部分もあったため、そこを確認することにした。

「じゃあ狐神、あなたが今何と戦っているのかを教えてくれないかしら。」

ノアの言葉に狐神ももう隠しておく意味がないと、ぽつりぽつりと零し始めた。

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