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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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鶴の仇返し 6

クリスマスが明けた12月26日。学校は残すところ今日含めて残り2日。学生らはクリスマスの話題から大みそか、新年の話で盛り上がる人が多く見られた。そんな盛り上がる理由はどこかの誰かが休んでいないから。願わくばこのまま今年は学校に来ませんようにと願う人さえいた。彼を気にする人間も一定数いた。しかし触らぬ神に祟りなし。それ以上誰もその話題に触れようとは思わなかった。


そして今年最後の学校となる12月27日。この日も彼は来なかった。遠井先生が連絡はしているが家は留守電。携帯も出なかった。正直並みの高校生であれば一時的な気持ちで学校に来たくないとか、終業式がめんどくさいぐらいだろうが、彼の場合はどうなのだろう。確かにめんどくさい気持ちはあるだろうが、それだけで休むとは思えない。やはり今の状況の中、学校には来れないのだろうか。

「何か知らないかしら、鶴。」

ノアの質問に対して鶴は首を横に振る。しかし鶴が嘘をついている可能性は大いにある。多分嘘をついているのであれば直ぐに分かるだろうけれど、ノアから見た感じだとそんな様子は見えなかった。

「......私はもう狐神君に洗脳じみたこなんてしてないし、私から連絡しても全く返事がないんだ。」

狐神との通信記録を見た。そこには確かに鶴の『大丈夫?』『今どこにいるの?』といった言葉に返事も既読もなかった。

「......鶴が指示して狐神を有能な駒として使おうとしていた計画は分かった。私もそういったことをやれと言われたことがあったから。でも私は誰かを使って王になる気は無いわ。なるなら自分の力で証明する。」

『王になんて、お願いされても願い下げだけれどね。』とも付け加えて。

「......ノアちゃんは強いね。私もそれなりにね、頑張ってみたんだけど、結果この程度の人間にしかなれなかった。だからこんな姑息な手段に出たんだよ。」

自分を卑下する鶴に対して慰めの言葉は掛けなかった。この程度というが、それではあまり遜色ない私や禦王殘などはどうなるのか。詳しくは分からないけれど、きっと血のにじむような努力をしてきたのだろう。同情はするが、それで狐神を巻き込むことは絶対に間違っているから。でも今は何よりも彼の安否が気になる。

「ねぇ鶴。本当は分かってるでしょ、彼が誰の手によって監禁されているか。私たちリーダーたちがさっき調べ事が全部終わった。後は乗り込むだけよ。......もしあなたが狐神に対して贖罪をしたいのであれば、あなたが一歩踏み出さないと。」

「......一歩。」

その一歩があまりにも重いことくらい、ノアだってわかっている。今でこそ鶴は生気を持っているが、高校入学の時はやはり異様なまでに透明に見えた。その原因があのお爺さんだってことも。でもそれを踏み出さなければ、過去の自分のまま、そして今度は大切な友人さえ失ってしまうかもしれない。

「勇気なら彼からたくさんもらったでしょ?それもすごい近くで。1年半以上も。」

「.......そうだね。本当に。」

自分が彼に強要してきたものの重さが今ようやくわかった。洗脳が切れた後も自律で復讐を辞めない彼に安堵さえ覚えてしまった。『自分の指示なしでも十分に動いてくれる優秀な駒』

「......ノアちゃん。」

「何?」

「......家に帰ろうと思うんだけど......良かったらノアちゃんもうちに来ないかな?」

鶴の手は震えていた。怖かった、今まで歯向かったどころか意見したことすらほとんどない。それが当たり前だと思っていたから。でも今真正面からそれをしようとしている。けれど高校生なら反抗期があって当然。ノアが言うように、勇気なら彼からもらった。溢れんばかりに。

「......いいわね、久しぶりに遊びましょうか!」

しばらく曇っていたノアの顔も晴れ渡っていた。ようやく友達を救うことができる。


「そうと決まれば早速会議よ。」

リーダー全員で総攻撃を仕掛けてもいいが、それではあまりに人数過剰になる気もするし、念の為に守りををゼロにするわけにもいかない。そんなわけで鶴の家に押し掛ける人はノア、伽藍堂、明石、鶴、兜狩となった。誰も行くことを躊躇う者はいなかった。気になった点は襲撃チームで唯一狐神にダメージを負わされた兜狩だった。一応狐神から傷つけられた人は外そうと考えていたが、寧ろ誰よりも率先して手を挙げた。

「別にあなたが行くのは構わないけれど、理由を聞いてもいいかしら?」

「……狐神にも少し言いたいことがあるが、何も知らなかった自分に苛ついてな。安心してくれ、必ず力になる。」

「……あなたは特にそうなのかしらね。意図した訳じゃないけれど、あなたの気持ちは分かってるわ。そうしたら一緒に行きましょうか。」

「感謝する。」

そう言うと綺麗な姿勢で頭を下げた。その目には確固たる意志が垣間見てた。

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