鶴の仇返し 5
これがもし女の子だったら、きっと2人は傷つくでしょうね。ずっと想っていた人に、その人の人間性を構築した人物がいるということですから。きっとその人は狐神君にとって誰よりも大切な人でしょう。.....ただ反対に気になるのは、そんな空想上の人物、今まで全く影を現したこともないんですよね。架空の存在ということも十分に考えられます。
「でもさ、その誰かさんを探す目的はあくまで狐神の復讐の足止めだろ?それに時間がかかるようじゃ本末転倒じゃないか?」
「それは私も思った。それなら先に原因を叩きに行った方が早くない?大方の検討はついているんでしょ?」
「あくまでサブプランでいこうと思います。お2人の言う通り、時間的に厳しいため。メインプランはある程度決まっています。私たちの考えと、今は亡き鴛海さんが考えはほとんど一緒だったため、多分合っているかと。気になる点はどうして狐神君が従っているか。やはり狐神君は物欲に惹かれて、というわけではないため、何かを脅迫材料にされているのかと......どうかされましたか?京さん、水仙さん?」
まぁ何となくは察しますけどね。これも2人にここにいてほしくなかった理由の1つです。
「.....同い年......でも、すごいなって......」
「さっき啖呵切った割に、話にすらついていくこともできなくて。ほんとに、情けないなって。」
きつい言い方をすれば、あくまで我々がこの2人を呼んだのは、狐神君の抑止力になり得る可能性があっただけ。それ以上のことは望んでいない。そして先の件が断られたのであれば、どんな感情を持っていようとも私たちの足枷にしかならない。その他大勢に埋もれないからこその私たちリーダーなのだから。私はリーダーではありませんが、一心同体の宿儺君がリーダーなら私も実質そうでしょう、知りませんが。
「......もう今日は遅い。解散だ。」
禦王殘君の言葉にみんな席を立った。戌亥君と貓俣さんは一緒に帰るとのことだったが、私と龍ちゃんは先ほど不良の人に絡まれたということもあり、禦王殘君の車に乗せてもらった。断ろうにも断れる空気ではなかった。お店を出ると黒塗りのリムジンに、頭を下げて待機していた体中傷だらけのお兄さん方がいた。
「ここを通るルートで帰る。」
「承知しやした、頭。そこでそこの譲さんら下ろす感じですね。」
禦王殘君が話している相手、どんな人なんだろう。『頭』なんて言葉、まるで任侠映画とかでしか見たことないよ。まさかそんな高校生がヤクザの一番偉い人なんて訳ないよね。......ないよね?
怖い見た目の割にその運転はとても静かなものだった。けれど逆にその静かさがより気まずかった。一瞬だったけれど。
「でもこうしてお2人と一緒に帰れて良かったです!宿儺君リアクション薄いですし、運転手さんは皆さん堅物といった感じですし。良ければガールズトークしましょ!!」
もうそこからは姫さんお独壇場だった。どうやって2人は今の関係になったのか、今流行ってるものは何なのか、新しく出たリップはどんな感じなのか、禦王殘君をもっとゾッコンさせるにはどうすればよいうのか。正直お店での話は重苦しい会話だったけれど、今の会話は甘すぎてこれもなかなかきつかった。
「また今度遊びましょう!!」と別れの言葉を最後に、車から降りて家に着いた。お母さんには事前に遅くなることを連絡していたから別に怒られるなどはなかった。寧ろ最近私が情緒不安定になっていたから心配してくれていた。ベットに体を預ける。ふかふかの布団は優しく私を包み込んでくれた。
「狐神君の起源となる人、か。」
あの人達が考えても分からないのであれば、私がいくら考えても分からない。正直途中、いや、かなり最初の方から話にはついていくことすらできていなかった。姫さんや貓俣さんはきっと狐神君に恋愛的好意はないと思う。けれどそんなものなくても、私よりずっと深い事情を知っていた。それに比べて私は、こんな感情を持っていて、1年半以上同じ教室にいるのに......。
「話、聞かなければよかったかも。」
暗い部屋にて。
「それで鶴、今後についての話なんだけど......鶴?」
「すまないね、狐神君。」
しかし事態は一変した。




