VS集いし強者 15
「違う......違う......」と代永は独り言のように何やら呟いていたが、もうそんなものはどうでもいいので、俺もその場を後にする。代永だって冷静になれば俺の言っている戯言なんて真に受ける価値がないことくらい直ぐに分かっただろうに。ノアが弱っている以上に、それを気にしていた代永の方が弱くなっていたという簡単な話。そんなことでしか代永に一服盛ることができない自分の非力さに、何度目かの嘆息が出る。
「本当に気持ち悪いな。」
クリスマスイブ。
少なくても夕方までは皆学校があり、その雰囲気に浸かれるのはその後だろう。最近は駅前のイルミネーションなんかもすごい綺麗になっていて、今日なんかは多くのカップルがそこに行くことだろう。きっとバイト先も混雑してんだろうな。俺はシフトに入っていないからいいが、深月なんかは今夜が正念場だろう。安らかに成仏してくれ。
『母さんと此方大丈夫そう?』
『あぁ、今は二人とも落ち着いてる。だがふとした瞬間に思いつめることがあるから、まだそっちには帰れなさそうだ。』
『了解。』
『彼方は大丈夫か?』
父さんのメッセージに指が固まる。大丈夫、と文字に打とうとしてもなかなかそれができなかった。その代わりに何が面白いのか、笑っているスタンプを送る。
『今、話せるか?』
わざわざメッセージではなく電話をするということに不安が過ぎった。
「どうしたの?」
「すまないな、忙しいのに。……言おうか迷ったんだがな、実は母さんが……」
用件を聞くと電話を切った。幸いというか、別に母さんが死んだとかそういうのではなかった。逆に今その話を聞けて良かったまであった。感覚が壊れている今だから耐えられてる気もするし。
「これで家族と逃げるルートもなくなったわけか。」
自分は今どんな顔をしているのだろうか。窓を見てみるがそこにはどんよりとした灰色の雲が重なるばかりだった。今日はホワイトクリスマスかもしてないな。
休み時間、2組を訪れ兜狩を呼んだ。この時期俺に呼ばれたことで何を意味するかは分かりきっている。2組の連中も「絶対に行くべきじゃない」と必死に止めていた。しかし兜狩は「大丈夫だから」とそれを制し、俺と2人きりになれる場所へ移動した。警戒こそしていたが、生徒会でも長い時間共に過ごしていたこともあってか、あまり俺のことを敵対視している様子はなかった。
「随分と真正面切ってきたな。今のお前の立場なら何されるか分かったものじゃないぞ。俺が直ぐに気付いたからいいが。」
兜狩が教室にいたことは確認してたし、もしいなければ直ぐに俺も身を引くつもりだった。肩だってまだ全然治っていない。そんな状態でことを起こす気はない。
「感謝するよ。」
「だったらもう少しそれっぽい顔をしてくれ。」
「......兜狩は何も知らないからそんな風に今もいれるんだよ。」
「なに?」と少し視線がきつくなったのを感じる。でも多分それは嫌悪とかではなく、危機感からくるような感情だと感じた。実際俺が今の状況でそんな冗談を言ってるとは思わないだろう。
「今日はそれを説明しに来た。」
「......分かった。聞かせてくれ。」
俺の抱えているものを伝えると兜狩は一人にしてほしいと言い、その後早退したらしい。恐らく明日は学校に来れないだろう。長ければ1年半以上、俺よりも近くに居て、俺にはない感情を持っていたにも関わらず、それに今まで気づかなった。それは人によっては自分を責めるには十分すぎるものなのだろうか。
「なぁ、兜狩がお前に何したよ。生徒会で一緒に働いた仲間じゃなかったのか?」
「少し話をしただけだよ。そうだな、短い間とはいえ、俺も生徒会の仲間だと思ってるよ。」
俺の胸倉を掴む手により一層の力が入る。流石は団結力が一番高いクラスだけある。己の感情もあるかもしれないが、何より兜狩を傷つけられたということに直ぐに行動を起こしてきた。
「.......あいつがどんな顔で教室に戻ってきたか知ってんのか?少し不愛想だけど、いつもクラスのためにどんなに頑張ってるか。俺らだって伊達に今まで同じクラスで授業受けてんだよ。......あいつのあんな顔、見たこともなかったし、見たくなんかなかった。」
他の取り巻きは今にでも殴りかかっていそうな雰囲気だったが、今おれの前に立つ2組の男子はまだ冷静を保っていた。しかしそれももう限界か、正直今はあんまりやり合いたくないんだがな。
「......何してるの。」
視線を横に移すと少しだけ険しい顔をした鶴が立っていた。特に決まっているわけではないだろうが、兜狩がいない今、クラスを引っ張るリーダーのような役目は鶴が持っているのだろう。鶴が何か言うよりも先に胸倉を掴む手を解いた。
「鶴だって知ってんだろ!こいつのせいで兜狩があんな顔になるほどショックを受けて早退した。何をこいつが言ったのかはわからない。でも誰彼構わず傷つけるとは聞いていたが、生徒会の仲間だって手を出すとは思ってもいなかった。どうして兜狩が傷つけられて黙っていられるんだよ!!友達だろ!!」
「......私は兜狩君から『狐神君から傷つけられた』なんて言葉は聞いてないよ。」
「......確かに俺もそう聞いたが、でもこいつと会った後に兜狩は「憶測で大切なクラスメイトが、生徒会の仲間だった友達を傷つけたと知ったら、誰が責任を一番感じるか考えてね。」」
穏やかではあるものの、鋭い言葉の刃が連中を黙らせた。流石はノアや兜狩の元で1年以上一緒に育んできただけはある。......強いな、本当に。
連中が去り、鶴が近づいて来た。肩の怪我を心配していたが、鶴が来てくれたこともあり、俺はこれといった被害は出ていない。
「すまんな、兜狩がいなくなったことで鶴にも負担がいくかもしれない。」
「......それは気にしなくていいけど、でも兜狩君に何て言ったの?自分を責めていたけれど。」
「......悪い、それは兜狩から聞いてくれ。俺の口からは言えない。」




