VS集いし強者 12
安全な場所にたどり着くとマジで怒った。水仙の時もだが、自分の命は本当に大切にしてほしい。しかもそれを俺のためなんかに危険に晒すな。しかしどちらかというと今は安堵の方が大きかった。俺は怪我を負ったがそれは放っておけば勝手に治る。でも治らないものだってある。まずはそれが回避できてよかった。
脱臼に関しては先ほどまでドーパミンが出ていたのもあってか、ちょっと不味いくらいに痛かった。怪我の様態を見ようにもまず肩が全く上がらない。とりあえず病院に行ったが、レントゲンやMRIを取り、少なくても手術の必要性がないということで少しの間、三角巾を巻いて安静に過ごすよう言われた。今まで3年や2年との喧嘩でもここまで怪我をしたことはないのに、まさか一番の重傷を鶴に負わされるとは。
病院から出ると既に夜になっていた。
「......時間も遅いし、ご飯のお風呂も難しそうだから、今日はうちに泊まる?少しは責任を取らせてほしいし。」
脱臼になることは分かってはいたことだから、利き腕じゃない左腕を犠牲にした。だからかなり不便ではあるが、頑張ればどうにかなる。というかどうせこれが何日も続くようだからその間ずっと泊まるというわけにもいかない。
「いや、大丈夫。早くこの生活に慣れないのもあるし。責任を取るというのなら、二度とあんなことをしないことだな。」
......多分近い将来、鶴は更に自分を犠牲にするだろうから、少しでもそのストッパーになればいいが。
「あれ?狐神君じゃないか。......どうしたんだね、その怪我は。」
「ほう、うちの孫がそんなことを。......鶴、この後少し時間もらうよ?」
「はい......」
うーん、まぁ育ての親として説教は必要か。俺も鶴のあの行動に関しては擁護できないからな。
鶴のお父さんがあの件でこの世からいなくなった時に、お母さんはどうしているのだろうと思った。けれどそこで鶴のお爺さん、十一さんが出てきてなんとなくの事情は察した。そしてその予想は当たってしまい、現在鶴は十一さんと2人で暮らしているそうな。
「でも実際本当に大丈夫なのかな?腕がほとんど上がらない状態では日常生活でもかなり不便だろう。」
「名誉の勲章とでも受け取っておきますよ。」
奴らに暴力的な手段で復讐できなくなったことと、俺に迷惑な弱点ができてしまったことは痛手ではあるが、そもそも復讐自体よくない事だからな。逆にこれを機に復讐なんて止めろという天啓かもしれないな。
まぁ止める気はないが。
「とりあえず時間ももう遅い。今日は夜はうちで食べていくといい。帰りは私の車で送るとしよう。」
目上の人間の気遣いをそう無下に断るのもあまりよくないと聞いたことがある。これが気遣いかはわからないが、そのくらいなら厄介になろう。
「カレー。」
「利き手は無事だけど、それでもお箸よりはスプーンの方が食べやすいかなって。」
そうだね、利き手が無事でも料理を食べるときは基本的に両手を使う。片手だとどうしても支えるものがないから、その分カレーとかだと食べやすい。後はレタスとトマト、キュウリのサラダ、あとは春雨スープ。
「なんでよりにもよって春雨スープ。これスプーンでどう食べるの?こんなとぅるんとぅるんしたもの。」
「賞味期限がギリギリで......。でも狐神君は食べづらいと思うから、口だけ開けてもらえれば、私があーんし「ズゾォォォォォ!!」掃除機?」
実のお爺さんの前でそんなイチャイチャしたの見せられるか。血圧と血糖値両方上がっちゃうよ。鶴は十一さんと長年一緒だから問題ないとは思うけど、俺はそんな恥ずかしいことできない。
「元気があって大変結構。それで狐神君、学校の方はどうかな。少しずつ改善はしてるかな?確か前に話を聞いた時には水仙さんと京さんと距離を置けたと聞いたくらいだったかな。」
改善という言い方をしているが、要は俺の復讐についてだ。大人としてどうなのかはわからないけれど、初めにこの話題をしたときに、十一さんは俺を否定しなかった。『君には復讐の権利がある、誰か一人くらい君の味方がいてもいいはずだ。私がその誰かになろう』と言っていた。それからは主に鶴を通して力を貸してくれている。
「クラスの人間は大方処理できました。クラスの中核となる人間と接触していたのが功を奏しました。男子では梶山という人間がそれを担っていますけど、彼は良くも悪くも容易に動けないため、放っておいても問題ないです。......あとは各クラスのリーダーたちをするかですね。」
「そんなに彼らはすごいのかな?鶴?」
「そうですね。一線を画すといった存在かと。」
「八島なんかは明確な弱点があったからいいものの、それが見当たらない人たちは本当に困る。まぁそれは後々考えるとしまして。」
次の標的は代永かな。




