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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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化け狐 23

下駄箱を開けると、死んだ昆虫や枯葉が上履きの中いっぱいに入っていた。それらをどかしても錐や彫刻刀か何かで穴があけられており、まともに履けるものではなかった。仕方がないので、スリッパを職員室で借りたが、その時にも俺の顔を見てあまりいい顔はしていなかった。誰か感づいたのだろう、俺が学校に対して何かあっても直談判をする気がないということを。確かにこれを俺が学校側に言えばそれは間違いなく問題になる。今度はもう取返しがつかないほどに。だがそれでは俺もみんなに対して直接的な復讐ができなくもなる。で

パコンパコンとスリッパの音を響かせながら教室へと向かった。


クラスのロッカーや机の中も似たようなものだった。教科書は破られているものや、そもそもどこにも見当たらないもの。落書きがされているもの。低俗な嫌がらせだなと感じつつも、実際教科書などはないと困る。深月に見せてもらうことも考えたが、それがずっと続くとなるとそういうわけにはいかなくなる。帰りに本屋さんに行って買うとしよう。

今日だけは深月に教科書を見せてもらった。ルーズリーフとペンは購買で買った。ノートは便器に捨てられていたものを取り出してはみたものの、当然書ける状態ではなかった。ちなみにペンも同じ場所にあったが、こちらは壊されているため、しっかり分別してゴミ箱に捨てた。

「ごめんな。明日には新しいの買うから今日だけ耐え忍んでほしい。」

「別に構わないわ。......。」

何か言おうとしていたが、終ぞその言葉を聞けることはなかった。思うことは色々あるのだろう。しかし実際何か言ったところで、対局が変わるわけではないだろうし、その発言で自分にも矢が向けられるかもわからないだろう。勿論過去に俺がどんな目に遭っていたのかは伝えたことはあったが、いざそれを前にすると何もできなくなるのは、それはある意味しょうがないものだと思う。


昼食は外で食べていたが、どこからか投げられた泥団子が見事にクリーンヒット。春巻きとかオレンジとか比較的固いものは洗って食べられたが冷食のグラタンなどは捨てるほかなかった。さっきの筆記用具もそうだが、シンプルにもったいないからやめてほしいんだけどな。どうせなら俺に直接手を出せばいいのに。......そんな度胸もないからこんなことするのか。

「狐神先輩、少しお時間よろしいでしょうか。」

振り返ると恭しく頭を下げつつも、複雑な表情の桜介君がいた。まぁ間違いなく姉のことで来たんだろうな。元々桜介君は俺のことを冤罪の件から知っている。今はなくなったとはいえ、その時あった殺意がまた煮えくり返ったのだろうか。そうなった場合には甘んじて受けるとするか。

「うん、大丈夫だよ。お姉さんのことだよね。俺が酷い言葉を言って傷つけたこと。」

「......まぁ、姉のことと言われればそうですね。でも狐神先輩を知らずに、ただ怒りに満ち満ちていたあの時とは違います。今は狐神先輩のことを知っています。......今の立ち位置も。」

急いで隠したつもりのお弁当もバレていた。

うーん、先輩として後輩に気を遣われ、また心配されてしまうなんて情けない限りだな。先輩というのも難しい。どうすれば瀬田さんとはちょっと違うけど、後輩に頼られるような先輩になれるのだろう。

「姉は昨日より部屋から一向に出てきません。でも私も含めて誰のことで悩んでいるのかは直ぐに分かりました。ここ最近、名前こそ出していませんでしたが、狐神先輩をどうしたら励ませるのか、相談してましたから。案の定、狐神先輩の名前を出すと、怒鳴られてしまいました。」

いや本当に面目ない。

「狐神先輩」と、柔らかくも強い意志を感じる言葉だった。覚悟とでも言うのだろうか、後輩なんてことも忘れ、その言葉に聞き入った。

「私は狐神先輩のことを信じています。そして、姉に掛けた言葉が狐神先輩の感情の全てではないと思います。......姉の方は私の方で何とかしておきます。ですので、狐神先輩が何と戦っているのか......誰のためにこんなにキツイことをしているのかは計り知れませんが、それが終わったら、少しだけ姉とお話する時間を設けてもらってもいいでしょうか。」

「......桜介君て普通にモテるでしょ?」

「え!?あー、まぁ......そういったお話をもらうことは確かにありますけど。」

だろうな。桜介君欠点ていう欠点まるでないもんな。謙遜気味ではあるけど、不愉快になるほどなんてことはないし、言わずもがなかっこいいし、気遣いできるし。こんないい後輩に嫌われたくなんかないよな。

「困るなぁ......」

「?何か言われましたか?」

「決意が鈍るって話。じゃあ俺はそろそろ行くよ。」

「あ、お時間いただきありがとうございました!!」

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