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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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化け狐 21

クリスマスが次第に近づいてきて、冬の寒さが本格化してきた。拳を振るう手が(かじか)み、気付けば血が滲んでいた。吐息は白く、感覚がどこか遠いものに感じる。

「......」

「随分と暴れてんだな。」

今日は何人ほど相手にしただろうか。禦王殘に戦闘の意思は感じられず、ただつまらないものを見るような眼を向けてきた。例え逆立ちをしても俺が禦王殘に勝つことはない。それは火を見るよりも明らか。

「何の用?」

「姫がうるさくてな。『様子を見に行っていい?』って。あいつ一人で今のお前のとこ向かわせんのもなんだからな。ちなみに姫はお前の復讐の対象にはならないのか。」

「......そうだな。姫は2年生になってここに来たからな。」

「そうか。お前の復讐とやらに興味はないが、一つ助言させてもらう。......恨むなら全てを恨め。『あれはいい』だの『これは例外』だの言うくらいなら、端っからそんな戯言言うな。そんな中途半端な奴ができることなんかたかが知れてる。」

それだけ言うと歩き去ってしまった。その背中は油断しているようにも見えて、禦王殘の言っていることに腹が立って、背後から思い切り殴りかかった。

「.......だから、ちゃんと恨めっつってんだろ。」


「......」

「あら、起きた?禦王殘君が運んでくれたのよ。『俺がぶっ飛ばした』って言って。とりあえず切れた唇は簡単に治療したけれど「ありがとうございました。」あ、ちょっと!?」

今は休み時間らしく、廊下に出ると色んな人が行き交っていた。しかしみな俺の顔を見ると舌打ちや憎悪の視線を向けてくる。周りの人間の対応は前のものと遜色なくなってきたように感じる。

「だから!なんで様子見てくるようお願いしたら狐神君をぶっ飛ばすなんてなるんですか!?やっぱり宿儺君にお願いするんじゃなかったです!!」

「......あいつの中の優しさが抜けてなかったからその助言をしただけだ。」

「はぁ!?もしかして恨みを助長させたって言うんですか!?アホなんですか!?狐神さんの中で葛藤があるくらい見れば一発で分かりますでしょう!?」

「中途半端に垢抜けさせたって意味ないだろ。よくも悪くも徹底的にやらせた方がいい。その過程でどれほど傷ついても、それがあいつの選んだ道だ。」

その言葉にまた姫が切れていた。しかし禦王殘の言うことは合っている。ならば話は簡単、恨め、その全てを。


「ねぇ、少しこの後時間いいかな?」

放課後、帰ろうとする俺に掛かる声があった。前にもこんなことがあった気がする。水仙は不安に満ちた目でこちらを見ていた。今の俺に話かけることのリスクや危険性は分かった上でだとは思うが。

「今日は帰っても別にやることないからな。」

教室では流石に話しづらいため、場所を移動した。てっきりどこかの教室かと思ったが、学校を出て、砂浜に腰かけた。この時期の寒さもあり、景色は美しいものの、周りは誰の姿もなかった。沈みゆく夕日はこの時期は空気も澄んでいることもあり、それはそれは美しかった。

「......翔子ちゃん、慰めるのすごい大変だったんだよ?元々狐神君には慚愧?っていうのかな、申し訳ない気持ちが大きくあったから。」

「だったら尚のことよかった。俺の目的にぴったりだ。」

大切な友達のことを傷つけた挙句、それを「よかった」と言った。それに激情を見せて怒鳴ったり叩いてきたりするかと思ったが、「ひどいね」とだけ言葉を零した。

「......私にもひどいこと、するの?」

痴漢に殺人未遂、誘拐に監禁。既に酷いことをされまくっているこいつが言うとマジでレベルが違うな。いや、どれも全部淀川がやったことではあるが。

今から口にできないような酷いことを言う、もしくはするかもしれないのに、どうして水仙からは恐怖心が感じられないのだろうか。

「......いや、特に何かするつもりはない。」

「?」

ズボンに着いた砂を払った。

「何もせず、何もされず。あの日俺が水仙を助けようなんて思って始まったこの地獄。そこに救済とかそんなもの求めてない。だから白紙に戻したい。」

「はく......し?」

言葉の意味が分からず、でもその表情は先ほど感じさせなかった恐怖を感じさせた。水仙は何かされることに恐怖を覚えるのではない。何もないことに恐怖を覚えるのだ。汚れた絵よりも、何もないただの白の方が恐怖心を持つ人はいる。

「この会話を最後に、俺とお前の関係をなかったことにしたい。『何もなかった』。俺が望むことはこれだけだよ。」

沈んだ太陽を背景に、わなわなとする可愛らしい水仙に最後は笑ってみせた。それ以上は何もなかった。


「盗み見とは、相変わらず陰気な趣味してんのな。」

「......美桜ちゃん......気持ち......知ってるの?」

「じゃなきゃもっと直接的な手段に出るよ。少なくても痴漢冤罪の時、自分に包丁刺そうとしたのを防いだ時くらいから意識はしてたらしいけどな。具体的にどこで俺なんかを好きになったのは知ったこっちゃない。相手の『好き』って馬鹿みたいな気持ちを利用しない手はない。......ちなみにお前の『友達以上の感情』を俺に向けんのは勝手だか、応えるつもりなんてない。......2人まとめて対応できてよかった。おかげで面倒が減ったよ。」

そんな目もできるんだなと素直に関心した。親友の感情を粗雑に扱われたとしても、以前だったら俯いてばかりだったというのに。しかしそれ以上のことはせず「さよなら!」......俺を突き飛ばすと水仙の元へ駆けていった。突き飛ばすというか、1、2歩後退しただけだが、京の成長を感じた瞬間でもあった。


「手こずっているようだね。狐神君。」

「すみません。」

「何、別に謝る必要はないよ。君は何も悪くないんだから。でも何か困ったことがあったら教えてね。直接は力になれないかもしれないけど、間接的にでも手助けするから。」

「はい。ありがとうございます。」

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