化け狐 17
「この部屋に呼び出された理由については理解しているか?」
「まぁ、もう今週も呼ばれるのは3回目ですからね。今回もあの教頭だと思いましたが。しかし式之宮先生も大変ですね、こんな問題児の面倒みたり、保護者からも色々話が上がってるみたいですし。」
とはいえ保護者の方は大丈夫だろう。樫野校長が例えば全て都合の悪いことを秘匿したうえで入学説明会などをしていたら問題だが、そこらへんに関しては包み隠さず話していたことは知っている。勿論学校としては恥ずべきことなので大々的には言えないが、そこらへんは説明した上で1年生は入学した。説明や多少のクレームはあるだろうが、校長が首になったりはしないだろう。そしてそれは学校の先生たちも同様。辞めさせられることはないが、精神的負担はあるだろう。まぁここを辞めて他の学校で楽しくやるなんて逃げ道許さないが。......しかし式之宮先生にまで迷惑がいってしまうのは避けたい自体ではあるな。
「ざけんなよてめぇ!!よりにもよって1年生がいる中あんなこと言いやがって!!これで各方面から文句言われたらお前のせいだからな!!どうすんだよ!!」
「どうするも何も、一生徒の俺には対応なんてできないですよ。」
「今訊いてんのはそんなことじゃねぇんだよ!!舐めてんのか!?」
別になめてなどいないが。あくまで冷静に言葉を返しただけなのだが。
「というか私はここに呼ばれたんですか?」
机を勢いよく叩いて自分の恐怖を植え付けているつもりなのだろうか。随分おっさんなのに考えが可愛いな。
「お前が喧嘩を起こしたからに決まってんだろうが!!」
もうすでに決まっているのか。確かに俺は先輩方や同級生と少しやんちゃしたが、あくまで俺は喧嘩を吹っ掛けられた方なんだが「とにかく!!」
「これ以上は問題を起こすな!!」
「じゃあ反撃せず、思うがままに殴られろ、ということですか?1年生の頃のように。それとも逃げ回って問題から逃げると?」
「いや......それは、そういうことじゃない。とりあえずこれからは問題を起こすな。いいな!?」
1、2回目まではあの教頭だったから今回もまたあの教頭に色々罵詈雑言を浴びせられると思っていた。にしてもあの人は本当に教師向いてないな。感情に任せて言葉を発するとことか。怒ることと叱ることの違いも分からないものなのか。しかも具体的な話も聞かず、偏見で物事を決め、しかも問題を先送り。つくづく嫌になるな。
「......傷は大丈夫か?」
式之宮先生の手が俺の頬に伸びる。一瞬だけ俺の肌に触れると、俺は少し距離を置いた。
「別に、こんな傷あの頃に比べたら大したことないです。」
「そう、か。......お前は復讐と言っているが、とても苦しそうだな。」
多分それは式之宮先生の前だからだと思う。正直他の人であればこんなに苦しい思いをしなくて済むんだがな。成程、ノアの鶴に対する心境が少しわかった気がする。
「......」
「狐神?」
式之宮先生には極力影響を与えたくない。でも学校に勤めている以上それは避けられない。俺もあんまり式之宮先生に時間を割きたくない。上手く式之宮先生にだけ影響を与えずにする方法。式之宮先生がもし学校に来れなくなったら、もっと自由に動けるようになる。......式之宮先生が学校に来れなくなる状態にはどうすればいいのか。
周りに人はいない。足音は遠い。時間帯的に人も来ることは少ない。力で負けることもない。虚を突くことも容易だから、そこから一気に攻めれば。
「大丈夫か?」
「......すみません。失礼します。」
ダメだ、式之宮先生に被害がいかないようにすると考えていたのに、その方法の中で式之宮先生に被害がいっては何の意味もない。最近だんだん自分のことが制御しきれていないような気がする。だめだ、判断が鈍る。やるからには徹底的にしないと何もかも中途半端に終わってしまう。
「まだまだ......もっと......」
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「今更そんなこと蒸し返しやがって!!」
「ダークヒーローにでもなったつもりかよ!!」
日に日に体の傷は増えていき、クラスでも前みたいに話しかける人はいなくなった。先生たちでさえ俺に触れることはなくなっていった。そして段々と俺に喧嘩を吹っ掛ける人も減っていった。しかし思ったよりも向こうから来る人はいなかった。けれどそれでよかったのかもしれない。ぼちぼち俺も体力の限界だった。いくらこの1年半近く復讐の努力を重ねていたとはいえ所詮は俺。人の何倍も努力してようやくくらいだ。
『次は内側から崩しに行くとするか。』
クラスを眺めつつそんなことを考えてみた。
「傷、大丈夫そう?」
俺がこの1年半頑張って貯めた好感度をようやく使うことができる。青春とかいう、明確なゴールはないが、戦略が成り立つこのクソゲーで保たれていたナッシュ均衡をぶち壊してやる。




