化け狐 14
正式に言えば、次期生徒会役員が決まるまでは俺は生徒会の役員という立場にいる。そのため辞めることは決まっていても、ここで全ての仕事を放棄することはできない。てなわけで生徒会室に行き、今後庶務の席に就く人に引き継ぎ書を作成することにした。引き継ぎ書は今ネットにあるものを活用しようとしたが、それは社会人向けということもあり、少し使いずらかった。しかしパソコン部が学生用、主に部活や生徒会などに向けた引き継ぎ書を作成してくれており、まんまそれを活用させてもらった。
「普段業務内容と流れ、時期ごとの大まかなスケジュール、稟議申請の方法とPDFの格納場所、関連アクセスとパスワード、現在進行中のプロジェクト共有と、使うかどうかわからないけどQ&Aとかもあった方がいいかな。」
「......あの、狐神先輩は本当に辞められるのですか?」
「嬉しい?黒瀬だって俺を辞めさせようと動いてたでしょ?」
少しだけ意地悪を言ってみた。でもそのことは事実だし。黒瀬も本当に困った様子だったので、それ以上は言ってあげなかった。
「俺はそもそも実力が認められて入ったわけじゃないからね。瀬田さんていう前生徒会長があまりに俺がみすぼらしいから入れてもらっただけ。誰がこの後生徒会に入るかはわからないけど、あんまり意地悪しないようにな。」
「......はい。」
引き継ぎ書の作成はしたことがなかったからそれなりの時間かかると思っていたが、お手本などもあってめちゃくちゃ早く終わったな。鶴みたいに論理的で分かりやすいかと言われれば、そこまでの自信はないが、それなりのものはできたと思う。でも次に入る人は誰だろうな。2年生は考えられなくもないけど、多分1年生だろうな。桜介君とこころは樫野校長から、俺がいるからダメみたいなこと言われた気がしたが、その俺がいなくなれば入ることを許されるのだろうか。もし2人が生徒会に入りたい気持ちがあったのなら申し訳ないことをしたな。
「狐神先輩......。」
この場で俺のことを先輩と呼んでくれる人は2人しかいない。となるともう一人の方か。こうして普通に接してくれるようになっただけ、俺も先輩できていたということだろうか。
「......なんでそんな泣きそうなの?俺別に今日で学校去るわけじゃないし、生徒会の仕事も短いとはいえもう少しあるよ?」
「......わかってますけど、迷惑かけまくっちゃったから......なんか最後に恩返ししたいなって......それで最後って思ったら......なんか......」
「あの、事情知ってると思うけど、俺これから2、3年生に復讐するために生徒会抜けるんだよ?『春の門出を祝って』とかとはだいぶかけ離れてるけど。」
「やめないでください......」と胸の中で泣かれた。星川の生い立ちは知っているから、これが何か考えがあってやってることじゃないことくらいは分かってはいるが、だからこそこれは困るな。
「.....こういうのは好きな人ができたらやってあげなよ。今の星川なら大抵の男子なら落とせるよ。」
「狐神先輩は落ちないんですか?」
「俺は大抵の男子なんてものに区分されない特級呪物だからな、生きる厄災よ。......俺はこれからよくないことをたくさんするから、星川も前より俺を嫌いになると思う。そしたら今みたいなことをしたことを一生後悔すると思うから早めに離れとき。」
「なんで良くないってわかってることをしようとするんですか?」
梶山も前に言っていたが、人間良し悪しで生きてはいけないのよ。感情論こそ人間のあるべき姿だとも思ったり。まぁこの後輩が今求めているのはそういったお話ではないと思うけれど。
「......なんでだろうね。俺も俺のことがよく分からないよ。とりあえず離れてください。」
少し強引にだが星川を引っぺがす。そしてそれを兜狩にくっつけようとしたが、それは嫌だったようだ。
「俺はもうすぐここから離れる身。そんな人にいつまでもくっついているんじゃなくて、新しく入ってくる人に付き添ってあげな?」
「『困ったら頼る、これでいい』って言ってくれたじゃないですか。」
「あー、それは確かに......うん、俺以外の人にお願いします。」
うーむ......思った以上に星川に懐かれてしまったな。2、3年生はその分落とすことができるからいいんだが、1年生はそうじゃないし、これは想定外。まぁ後輩に好かれることは嫌じゃないが。
仕事も終わったので、少し逃げるように撤収した。
誰にも気づかれないよう手には一つの封筒を握って。