敗者の末路 5
「部活を作るか。まぁそれは構わないがお前には厳しいと思うぞ?」
部活を作る際は生徒会からの許可が必要らしく、とりあえず話をするだけしてみた。
「条件は最低部員5人以上、顧問を探すこと、1年以内にきちんと成果を出すこと。これが部としての最低条件だからだ。」
確かにそれじゃあ無理そうだな。でもそうなると完全に八方塞がりなんだよな。転校するわけにもいかないし、ましてや辞めるなんてこともできないし。
「時間があまり残ってないの、分かってるよな。」と去り際に言われた。もし俺が生徒会に入りたいと言えばあの人たちはそれを許してくれるのだろうか。……俺が逆の立場なら絶対入れたくないな。
結局いい考えは思い浮かばず今日も海を眺め昼を過ごした。案の定前の猫が擦り寄ってきて少しだけ一緒に遊んだ。
そして問題は放課後に起きた。いよいよ部活にも委員会にも入れないのであの会長さんに頼みこもうと席を立った。まだ学活が終わったばかりでクラスの生徒もたくさんいる。俺は極力誰とも接しないよう扉に速やかに向かう。けれどそれは途中で遮られた。
「こ、狐神君!」
その声に俺は足を止め近くにいた何人かの視線が彼女に集まる。俺を呼び止めたその人は僅かに震えた声で言った。
「もし良かったら途中まで一緒に帰らない?……ダメ、かな?」
彼女の名前は白花小石。整った顔立ちに誰とでも隔てなく接し、笑顔が愛らしいと評判の女子だ。小さな頃から芸能界に身を置き今ではアイドル活動もしてるとかなんとか。俺にとってはどうでもいいことだけど。
「……俺もこの後用事があるんだ。悪いけどのんびりとは帰れないが。」
「ほんと!?じゃあ急いで用意するね!!」
勿論周りからは色んなコソコソ話がする。内容なんてわざわざ聞かなくてもわかる。『よくあんなのに話しかられるよね』『やっぱり小石さんはすごい』
『あいつに強姦されそうになったのに、きっと更生してくれたなんて、ほんと尊敬する』
教室を一足先に出ると後ろからトタトタと白花がついてきた。何か言っていたが気にも止めず適当な言葉を返す。こいつは俺が謹慎処分中「きっと帰ってる頃には反省してくれてると思う。だからみんなもあんまり責めないで欲しいな。」なんて演説をしていたらしい。だから少なくても白花の前では俺はあまり虐められない。その後に何倍にもなって返ってくるが。
「良かったらこの後の用事って何なのか訊いてもいいかな?」
「いい加減部活に入れってうるさくてな。」
白花は口に手を当て「んー…」と唸る。
「料理部とかはどうかな?私の友達が入ってて1回試食させて貰ったんだけどすごく美味しくて。みんないい人たちばっかりだからきっと入れてくれるよ。あ、でも女の子が多いところは少し入りずらいか。」
そうだな、友達のためにあんなに怒れる友達はきっといい人たちなんだろう。入部の申し込み時、湯煎で使ってたお湯ぶっかけられたのが記憶に新しい。原因はもう一つあるが、それがたかだか2ヶ月程の付き合いでなんだから最早こいつのは魔性というやつだろう。それ以前に料理部に入れる気はしないが。
「じゃあ私は向こうの電車だから。我儘聞いてくれてありがとね!!バイバイ!!」
そう言って手を振る彼女を見送ると人気のない所へ移動する。そして白花が完全に見えなくなったのを確認してか、今度は数人の男に囲まれた。こんな男とあんな理想的な女の子が一緒に帰ってそれをよく思わない人は当然いる。そして多少なら何をしても俺は逆らえない。何をされたかなんて言わなくても十分に伝わると思う。
「どうしてそんな顔で今までで生きてこれたの?」と、どこからか湧いた女子が俺のぼろぼろの面を写真で撮って去っていった。俺はフェンスを背もたれに暮れゆく空を眺める。とはいってもその視界の半分ほどは見えない。口の中には血が溜まっている。金品はいつも取られない。そうなるともう犯罪になるからだろうか。「白花さんに近づくな」って言われたけど俺から近づいたわけじゃないのに。それに前白花さんの誘いを断った時も同じような事してきたろ。
「……今日の夕飯はヨーグルトかな。」
今日も今日とて昼休みは海を眺める。そしてその度、この猫が俺の膝元へ来てくれる。
「お前も居場所がないのか?」
勿論その言葉に答えるわけもなく無視して寝ている。俺は猫を一撫ですると猫と同じように眠る姿勢になった。ゴロンと寝そべる。
「……こんなところで寝てていいの?」
寝そべった少し先、そこに恐らく女性が立っていた。今は太陽がほぼ真上にあるから目を開けられないが、時間が少しでもズレてたらスカートの中見えるところだが。とりあえず体を起こし挨拶。
「えっと、どちら様で……あ。」
名前は知らないが見たことはある。式之宮先生に強引に連れられ突撃生徒会をした時にいた人だ。異彩を放っていた1人だからつい目がいってしまった。真っ白な肌に真っ白な長い髪、薄く赤い目は反射してこちらが見えそうなほど。ついでに濃いトーンのストッキングを履いていたため先の心配も杞憂だったのかな。
「……ここ、学校の外だよ?」
「別に俺以外にもたくさんいますよ。それにバレませんよこんなところ。」
「……私、生徒会役員。」
あ、そうやん。いや考えなくてもすぐわかるだろ。これで俺が教頭にでも突き出されたらまたあの説教が飛んでくる。それはやだな。
「というかあなたはここにいていいんですか?でも生徒会の力は大きいと聞きますし、許可でも取れば問題ないですか。」
「……あ。」
「……え?」