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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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化け狐 9

翌日は土曜日ということで、その足で鶴をうちに招待した。鶴は先ほどお腹があまり好いていないと言っていたから、うちのお手伝いさんである堀さんには少なめでお願いした。堀さんは私が友達を家に招くことが珍しかったのか、何やら嬉しそうな顔をしていたのは少しこそばゆく感じた。

ご飯を食べた後は少し雑談をした後、お風呂が沸いたということで一緒に入らない?と誘った。同性とはいえ、流石に恥ずかしいという感情は持ち合わせていることが多いが、これに関しても鶴は「......狭くないかな?」と言うだけで一緒にお風呂に入った。

あまり考えてはいないが、先ほどのナンパ男性然り、もしかしたら異性ではなく同性に想いを寄せる可能性を考えた。禦王殘なんかは私が見てもかなりいい男性だと思う。不愛想には見えるけれど、恐らく一人の女性を愛し抜くタイプだと思う。スペックも言わずもがな当然良い。しかし鶴は一切反応を見せなかった。

あくまで確認するだけ。もしそれでこの子が少しでも元気が出るならそれはそれでいいし、生徒会長の座も得ることができる。あんまり気乗りはしないけれど、相手を篭絡させる方法は既に学習済み。相手が男性の場合は勿論、女性の場合にも備えはある。時には大胆に攻めることも大切。

「にしても鶴って背中とか髪とか本当に綺麗ね。......ちょっと嫉妬しちゃうわ。」

無作法にも相手の背中や髪を撫でるように触ってみる。

「......そんなことないよ。私はノアちゃんの長くて綺麗な脚とか、引き締まってるけど柔らかそうなボディラインとかすごく羨ましいよ?」

私は家の関係で品種改良みたいな感じだから、ある意味魅力的な体は設計図を基にした上にある。だから自慢というわけではないけれど、この体はある意味当然のもの。......そう、当然なのよ。なんで逆に私の方が顔を赤くしているのよ。けれど分かってはいたけれど、こっちの攻めに全く動じてないわね。私だって羞恥心はある、攻めが足りていないことくらい分かってはいるけれど......鶴に淫らな女性なんて思われたくないわね。

「......大丈夫?顔赤いよ?」

「で、出ましょうか......」

これが天然たらしというやつなのかしら。


お風呂を出ると寝るまでの間、女子高生らしく恋バナに華を咲かせていた。基本的には私が話す一方。鶴はそういった話はないとのことだった。鶴は間違いなくモテるでしょうから、そういった話自体あるとは思うけれど、話したくないことを聞くようなことはしない。

私が一方的に話した形となったが、それでもあまり誰かに言えなかった感情を、鶴に相談兼愚痴を零せたのは素直に嬉しかった。私もそろそろ結婚を考えなくてはいけない年齢。それは分かってはいる。それでもやはり人間である以上、相手は数値で決めるのではなく出来れば己の感情で決めたいところ。

「この人ととか見てよ!年の差30歳よ!?イケメンとか免疫云々とかどうでもいいわよ!!サーチュイン遺伝子のせいで若々しく見えるのがより嫌だわ......」

「......流石にお父さん以上の年齢の人とは考えにくいよね。」

「それでこっちの人は同い年くらいだけれど、ドイツの旧家でEU関連で国境問題に寄与している、と。......ドイツにはあまりいい思い出がないから、言葉も少し忘れちゃってるかもしれないわね。私は個人の実績を書いてほしいといってるの。『寄与』とか『貢献』とかなら誰でもできるでしょう。」

それすらも理解できていないのは論外ね。まぁそれよりも中途半端についた筋肉を誇示している写真を見た段階でこの人はないと思ったけれど。

「何かしら、遺伝子が優秀だとそれに比例して性格が拙劣になるの?イケメンにまともな人間が少ないこともい同じ原理なのかしら。いっそ研究か何かで発表しようかしら。多分変数間が線形だと思うからピアソンで、でも一応スピアマンでも依存度とか調べて。Quatsch,Es ist mir Wurst......」

「......ソ、ソーセージ?」

「ごめんなさい。あまり良くない言葉が出ていたわ。でももし鶴にそういった話が今後あったら聞かせてほしいわね。」

「......うん、頼らせてもらうね。」

こんな会話をしていく中で、私には特定の誰かがいないことを印象付けた。そして男性に対して比較的強い言葉罵倒。それなりに準備はできたのかしら。恥ずかしくもあるけれど、私個人として戦いに負けたままじゃ嫌なのよ。

「......それじゃあそろそろ寝ましょうか。」

そう言っていつものように服を脱ぐ。まぁきっと他の人からしてみれば普通ではないと思うけれど。

「......なんで服脱いでるの?」

「あ、ごめんなさい。私寝るとき基本的に服着ないのよ。裸族ってやつなのよね。自分でもふしだらとはわかっていても、気持ちいいのよね、これ。肌に直接擦れる感触が特に。」

状況が読めていないのか、一応目は背けてけているけれどポカンとしている表情をしていた。

「......でも、布団一つしかないよ。」

「......鶴は、嫌?私と寝るの?」

そこでようやく意味が分かったのか、表情にこそあまり出ていないが声にならない声が少し聞こえた。しかしここで返事を待つ時間を作らせない。あくまで優しく、でも少し強引に鶴の上に跨る。照明を落としておいてよかった。出なければ今の私の紅潮した顔も見られてしまう。そして言葉の中に嘘と本音を混ぜ合わせる。

「あなたを初めて見た時から、特別なものを感じたの。最近はそればかり考えていたわ。どうにもあなたの前だと普段通りにできなく、正直私らしくもないことをして恥ずかしい気持ちもたくさんあるの。......でも、それでもあなたのこと、多分、その......好き、なんだと思う。」

まだ夏前の春の夜。少し開けた窓からは少し冷たい空気が流れ込んできた。けれど私の上がった体温を下げるにはまだ至らない。ここまで心拍が高鳴るのは久しぶりに感じる。嘘でもこんな真っすぐな告白したことがなかった。唯一あのバカにした時でさえ言葉はかなり濁したのに......この後はどうすればいいのかしら。

「......私も好きだよ、ノアちゃん。」

「え!?あ、そうなのね。ええと......」

「......うん、これからも生徒会のメンバーとして一緒に働けて嬉しい。私、愛想あまり良くないと思うから、こうして普通にお話できる友達が欲しかったんだ。でも今日は少し冷えるから、もう寝よっか。」

「あ、うん......」

そうして私は鶴に抱き締めながら、同じ布団で夜を明かした。

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