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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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化け狐 6

「......狐神君、こんなこと言われなくても重々理解しているだろうけど、復讐なんて「知ってますよ。馬鹿げてることくらい。今さして不自由なく送っているこの生活を壊してまで、なんでそんな前のこと引っ張り出すんだって話ですよね。」

領さんは次の言葉を探すも、やがて押し黙ってしまった。内心ここで否定してほしかった自分がいた。それは過去のものでなく、今も尚苦しんでいるんだと。.....ほんと馬鹿みたいだな。結局情けが欲しいだけのかまってちゃんかよ、ほんと気持ち悪いなこいつ。

「......悪いですけど、もううちの学校関係者でもないあなたにこれ以上口出しはしないでほしいです。当時だって結局俺のことを救えなかった、そんなあなたには関係ないことでしょ。」

俺はそれ以上口を開くのが嫌で強引に寝ようとした。自分でもあんなことが言えるなんて思わなかった。

しかし布団に入ったものの、結局一睡もすることはできなかった。

九条家の皆さんが起きる前に家を出ることにした。恩人に対してあんなことを言って、一緒に朝ごはんを共にするなんてできるわけなかった。まだ朝日が昇っておらず、少しずつ明るくなっていく街並みはとても綺麗で、ひどく不快に見えた。

「言っちゃった......」

自分の最も尊敬する人に対して、恐らくその人が最も傷つくことを。でも、きっとあそこに戻れたとしても同じことを言っただろう。思いの外悪い気分ではなかった。言うまではきつかったが言ってしまえばこんなもの。きっと生徒会もやめるまでは辛いだろうけど、そこが終わればきっと「この程度か」と思えるはず。

公園のトイレにて込み上げてきたものを便器に吐き捨てると、軽くなった足取りで家に帰った。


学校に行ったが、別にこれといって変化はなかった。領さんが言い触らすタイプでないことは知っていたが、樫野校長などからは何か言われると思った。しかし意味深な視線は感じることはあったが、そこから俺に接触してくる気配はない。けれどそれも時間の問題だろう。何か裏で企んでいるかもしれないが、そんなこと考えても仕方がない。俺は俺で動くとしよう。

『裏切り者がいるんじゃない。裏切る者がいるんだ』

......大鵠さんはいったいどこまで気付いていたのだろう。俺自身ですらわからなかった俺の生徒会、リーダーたち、友達先輩への裏切り。沸々と煮えていたこの憎悪の感情を、あの時に感じ取っていたのなら本当にすごい人だな。


ある意味領さんに一番最初に言ったのはよかったのかもしれない。それ以外のことが小さく思えるから。

「それで新生徒会についてなんだけど、知っての通り橄欖橋先輩は3年生だから引退。橄欖橋先輩、短い間でしたがありがとうございました。」

「いえいえ~、最初はめんどくさかったところもあったけど、思いの外楽しかったよ。じゃあみんなは引き続き頑張ってね~。」

「先輩はもう受験そろそろですもんね。」

「私は推薦でイージーコースだから。勝ち組コースだよ~。」

今や大学受験の半分が推薦でいくようだしな。うちの学校も例に漏れず半分くらいは推薦で行くと聞いている。また、歴代には国公立を推薦でいったすごい人もいるそうな。いやはや、これは驚いた。

橄欖橋先輩の言葉に和やかな空気に包まれていたが、顧問である式之宮先生は一人沈んだ顔をしていた。まぁその理由には心当たりしかないが、相手がもう動いてくれそうなのでそれを待つとするか。

「狐神。」

式之宮先生の短くも鋭い声にみな不思議そうにする。

「......樫野校長が領元校長に聞いた話だ。......生徒会を辞めるのか。冤罪の復讐のために。」

「「「......」」」

随分と直球で来たな。でも変に紆余曲折するよりはずっといい。しかしみんなは何を驚くことがあるのか。いや、ノアは俺の変化に気付いてか、別に驚いてはいないな。別に俺は聖人君主ではないことぐらいわかっているだろう。冤罪吹っ掛けられて、何とかそれを解決して、そしてその報復をする。ろくに謝ってだってもらえてないし、謝られてもそれを許す気なんて全くないが。「ごめんなさい」「うんいいよ」なんてもので丸く収まったとでも?

「辞めますよ。避難用の逃げ場として使わせてもらってましたが、まだ準備はしたいですが、普通に戦えるくらいに準備はできましたし。それに今からみんなに俺がこれまでどんな気持ちだったのか伝えるのに、生徒の役に立つ生徒会にいるのは色々違いますしね。......てなわけで俺は退散するとしますか。ノア、退会届は引き出しの中に入ってるから、後はよろしく。」

呼び止める声もあったと思うが、別に今更そんなものどうでもいい。俺はこれからは自由気ままにやらせてもらうとするか。しかし生徒会、式之宮先生、樫野校長と知られたのであれば俺ももう包み隠さず動いていいというわけだな。

「うーん、普通に楽しみ過ぎるな。最初は誰から始めようかな?」

......いや、もともと刃を向ける人物は決めていたな。


翌日、最近は少しずつ学校に来れていた白花の姿が消えた。新たなユニット結成で忙しいのかな、とみんなも一瞬思っていたが、榎本が学校に来ている以上、それは考えにくかった。

「......小石先輩が学校に来ていません。何とかこっちには来てくれていますが、かなり無理しています。『学校にはいきたくない』の一点張り。......事情は小石先輩伺ってます。あなたに怒りなどの感情はないです。頼りきりにしていたのは私ですから。」

これは困った。白花に復讐することは決めていたが、その被害が榎本までいくことを全然考えてなかった。どうするか、一年生は関係ないことだし極力巻き込みたくはないけど、邪魔立てするようであればその例ではないか。

「でもそっか、榎本という心の支えができたからまだ完全に折れてはいないのか。できれば完全にへし折ってやりたいけど、どうしたものか。」

別にこうなることは予想できてたから、斎藤に協力してやってもよかったんだけどな。でもあいつ普通に上から目線うざかったしなー。なんならもっと酷い目合わせてもよかったかもな。

涙を流す目の前の少女が訴えるように懇願してきた。

「あなたが敵なのか味方なのか、もう......私には分かりません。でも、これ以上小石先輩を傷つけないでもらうには......私がなんでもしますから。」

別に白花に対して何か酷いことをしたわけではない。ただ、幼い頃一緒に過ごして、頑張る姿をずっと応援して、高校に入ってからどんな想いで過ごしてきたのか、昔と今の違いにどんだけ苦しんできたのか、それらを考えもせず俺のことを好きに(なぶ)(もてあそ)び、色んな場面で助けてきたことにろくな感謝もせず過ごしてきた今日までをどう思ってるか聞いただけなのに。

「別に榎本に何をしてもらおうとかは思ってないよ。それに学校に来ない白花をわざわざ追いかけて更に問い詰めようとかは考えてない。少し俺の気持ちを知ってほしかった。それだけ。」

もっと白花の好感度が上がる行動しておけばよかったな、榎本の支えがあったとはいえ、多分そうすれば家からろくに出れないくらいにはできただろうに。要反省だな。

「修学旅行......告白したというのは.....」

そういえばそんなこともあったね。でもそんなものわざわざ聞かなくても分かるだろうに。

「あんな外面だけがいい女の何を好きになれと。」

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