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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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忍び寄る影 4

少しはそんな気はしていたのか、ただ静かに「そうですか……」と呟いた。それ以上は何も言わず1口水を飲む。

「もしかして、春風さんのこと、好きだった?」

表情こそ暗くしていたが、内心はニヤニヤが止まらなかった。ここで「好き」と言えば傑作だからだ。大爆笑ものだ。必死に堪えつつ、次の言葉を待つ。

「いえ、特には。友人としては良かったですけどそこまでです。それにもしあなたの言うように私の猫を葬ったのなら……ただ憎むだけです。」

つまらない答えだな、と思う反面、あまり冷静さは失われてはいないと大鵠は感じた。大切なペットを失い、その犯人が友人だと言うのに。それにあの含みのある言い方。 念押しする必要があると考え口を開く。

「あんまり関わりがなかった俺の言葉を信じられないのはわかるけど、もし春風さんに連絡取ろうと思ってるのならやめた方がいいと思うよ。あの人がたくさんの女と遊んでることがバレてると知ったら何するかわかったものじゃないから。少なくてもしばらくは関わらない方がいいと思う。」

しばらくなんて言ったもののどうせそのうち連絡なんて取らずとも「最愛のペットを殺し、私を弄んだ人」と勝手になるだろう。人間いつまでも待ち続けるより決めつけるものだ。


別れを告げるとそのまま帰った。これで春風を痛めつけることはできただろう。

「儚い恋でしたね。」

春風はとりあえずこんなところで、次は瀬田をどうしようかと、ほくそ笑む大鵠だった。


翌日、大鵠が学校に登校するやいなや教室にいた春風に「ちょっと来い」と旧校舍の裏へ呼び出された。

「お前昨日あの子に会ったよな?」

「会いましたけど何か?」

「俺があの子猫を殺したことにしたらしいな。」

「別にそうは言ってないですよ。もしそう取られたのならあの子が春風さんをそう見てたんじゃないですか?普段の行いもあまり褒められたものじゃないですし。」

春風の怒りが一気に爆発し胸ぐらを掴む。けれど確かにあまり良くないことをしていたのは事実。

「話は終わりですか。」と大鵠が春風を突き飛ばすと力を無くしたようにその場に尻もちをつく。それをつまらなそうに見送ると携帯をポケットから取り出した。


事はその日の放課後に起きた。何人もの2年生を連れ勢いよく扉を開けた大鵠が言った。

「瀬田会長、あなたをリコールします。」

突然の宣言に対し瀬田はあくまで冷静に「理由は?」と答える。春風の事を聞き自分にも何かしてくるだろうとは思っていたが、ここまで大胆に攻めてくるとは思ってはいなかった。

「何人かの生徒が脅迫じみたメールが送られたそうです。あなたが座るそのパソコンから。」

今やほとんど使っていない机の中のパソコンを指差しそう言う。けれどそんな事生徒会室に入れれば、それこそ職員室から鍵を借りれば基本誰でも入ってこられる。このパソコンにだって特に何も重要なものはないからロックだってしていない。

「『そんなの誰でも出来るだろ』そう言いたいんでしょう?でもここでの問題はその脅迫じみた内容を知る人は被害に遭われた当人以外にほとんど知らないはずらしいんですよ。」

そもそも被害者ってのもどうせこいつと手を組んでいる奴だろう。それならそこを突けばいいだけ。

しかしそう上手くはいかなかった。

「ずっと気になってました。春風さんがなぜあの女にあれほど固執するのか。けれど理由ならありました。それはあの女が校長の一人娘だからでしょう?そこから上手くあの女を利用して、瀬田さんがこの学校の内部に侵入し個人の情報を盗み脅す。なるほど、流石のコンビネーションですね。脱帽します。」

この言葉を受けても瀬田の冷静さは失われなかった。春風を見るとどうやらその女がそんな大それた娘である事は知らなかったらしい。でも春風が本気で好きになった人をそんな動機にされるのは腹が立った。

「お前がその被害者と手を組んで俺を陥れるって方が遥かに信憑性はたかそうだが。」

「......残念ですけどこの世の中、たとえ事実と違くても世間がそうだと思えばそうなるものでしょう。俺の後ろにいる人は少なくても俺の味方です。」

その発言から大鵠が仕組んだことは明白。そうなるとやるべき事はどうやってそれを証明するか。

冤罪をどう証明するか。

「……あくまで戦争を望むんだな。俺だって別に争いが嫌いなわけじゃない。だったら一昔前までのお前の思い出を全部捨てて、大鵠、てめぇを潰す。」

「そうですか、頑張ってください。」


『瀬田生徒会長職権濫用!?生徒の個人情報を握り脅しをかけた疑い。校長の娘に取り入った可能性。』

翌日、大鵠が新聞部に書かせた記事の影響でこの件に関することは全校生徒に知れ渡った。勿論その情報は先生にも行き渡り直ぐに呼び出しを食らう。

しかし瀬田はそもそも生徒からの好感はかなり高い。生徒会役員として1年以上よく働き、それを結果としてきた。先生達もその事をよく知っており、瀬田をあまり疑ってはいなかった。それゆえ、あまり教員側はこれを問題視しなかった。けれど生徒の中には刺激があまりない、規則が厳しくなった、もう少し自由にやらせて欲しいと言う者もいた。恐らくそれらの生徒は大鵠につくだろう。

生徒会担当の式之宮先生に呼び出された瀬田は一通りの事情と考えを伝えた。式之宮先生は最後まで真摯に話を聞き瀬田の意見を十分に理解した。

「君の考えはよく分かった。私もそれを信じよう。だが、春風がずっと自分を責めてあまり話してくれないんだよ。『知らなかったとはいえ校長の娘と付き合おうとした』『自分のせいで瀬田に迷惑をかけている』とか。悪いが私からは彼についてこれ以上の助けにはなれないと思う。」

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