脚光の下、残されたマイク 17
色々とあったが、斎藤の件はこれにて終了となった。
当然だが斎藤は白花のマネージャーを外され、少し早いが深見が榎本と兼任する形になった。言うてあと一週間もなかったから早くもないか。榎本は事の成り行きを知ると、改めて白花と時間を取って話したらしい。俺があそこで斎藤にアクションを起こさなければ、白花に直接手を出すは白花が復帰した直後、もしくはその少し後くらいかと思っていた。単純に自己管理能力のなさや周りへの迷惑を自覚した後が最もこころを折りやすいから。しかし案の定白花は現状あの人からは何もされていなかった。
そして相手事務所の新規アイドルは可哀想なことにたった一週間で話題にも上がらなくなっていた。トレンドやバナーで深いところまで探さないと出てこないほどに。会社は大赤字、その件で社長は斎藤に裁判を要求しようとしたそうだが、どうやら白花を辞めさせるために動いていたことがバレると不味いため、それ以上動けずにいた。まぁその後のことなんてどうでもいい。
白花と榎本のユニット『恋空エノキ』は先のアイドルとは比べ物にならないくらいにヒットした。デビュー曲もまた流行のアニメに採用されたようで、一般層は勿論、アイドルに関心が薄い傾向が少し強いアニメ業界にも多大なヒットをした。大域的を狙ったわけではないが、結果としてそうなったのなら別に問題ないだろう。最初のスタートとしては十分過ぎる効果だった。一部アンチは沸くだろうが、そんなものの駆除してたらきりがない。また活動としては、事務所を退社し、現在深見が立ち上げた会社でやっているそう。白花もだが、それ以上に榎本が『これ以上私の白花先輩に手を出させない』という気持ちが強かった。そのため深見は現在文字通り死ぬ気で働いている。多分1カ月はまともに休めないんじゃないか。でも深見もやりたいと言っていたことだしそれは別にいいか。活動としてはライブや動画での活動を主として、テレビには基本的に出ない方針にした。
「恋と空は分かる。エノキはないだろ。なんで菌類?」
「エノキは漢字で『榎』。落葉高木の一種だよ。想像しているキノコのエノキは、キノコ菌がそこにくっついたもの。で、榎はそらちゃんから取ってきたもの。そして榎は白い花を咲かすの。それが私のところからとったもの。あとは榎の花言葉はその強い生命力から『独立』『自立』って意味があるんだって。そこも今回の私たちにぴったりだよね。」
まぁまず絶対に聞かれることだろうから、その辺りの受け答えはばっちりか。なんで白花が俺に対してアイドルモードで接してきてんのかは知らんが。
「例えば英語でなんかかっこいい感じの名前とか、漢字たくさん書いてかっこいい感じの名前とかは単純に覚えられづらいんですよ。『あぁ、あのなんか英語のやつね』とか『あぁ、なんか漢字いっぱいのやつね』とか。だからちょっとかっこ悪くても覚えやすい方がいいんですよ。あと例えば『恋ノキ』とか略称立てやすいのもいいですね。」
榎本もまた分かりやすい解説を入れてくれる。確かに細かいことかもしれないけど、その辺りも宣伝とか名前を売るには大切なことなのか。大衆認知論とかなんか学術的なのでありそうだな。
ここで白花に聞こえないように榎本に耳打ちをした。
「なんで今日の白花俺に対してアイドルモードなの?京都の時はなんとなく思いあたる節あったけどさ。」
それに対して榎本は何故か俺に対して敵対心に満ちた視線を向けた。俺に感謝こそすれ、そんな視線を向けられる謂れはないんだが。
「分かんないですけど、斎藤って人をどうやって追っ払ったか説明したらあんな風になりました。単純に狐神先輩に感謝だったらいいんですけど、それ以上の感情なら私はとても複雑です。」
「成程、とりあえずりょうか「あと特に深い意味はないですけど、榎ってどうやって増えると思います?」」
「それは種子植物なら雄蕊から出た花粉が風媒花とか虫媒花とかで......今調べます。」
圧がなんかすごかったので、その場で携帯で調べてみた。
『榎は雌雄同株で両性花と雄花を咲かす。また雌雄同株ということで自家受粉はできるが、先に雄花を咲かすことで自家受粉を防いでいる。』
「」
「雄がいなければ私と小石先輩は自家受粉ができるんですよ。」
「俺はただお前が怖いよ。」
俺と榎本がずっとこそこそ話していることが不服だったのか、白花が寄ってきた。しかしその顔は怒りとかではなく、寧ろ多分逆。
「あと、狐神君。今回も私のためにすごい頑張ってくれたって聞いて......その、あ......ありがと。」
いつもなら悪態の一つでもついているところだが、その表情に情けなくも押し黙ってしまった。
「ほんともう......食べちゃいたい。」
「ちょっとお前は本当に黙ってろ。」
その後榎本にキンゼイスケールだのジェンダー二元論の否定だの色々言われたが、俺にはよくわかんないので頭がバグる前に逃げ出した。
因みに鏡石に今回の件を伝えたところ、イヤリングを技術室のクランプて潰した。そして一言。
「きもっ......」
現場からは以上です。




