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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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脚光の下、残されたマイク 16

両者の間に沈黙が流れる。それは痛いほどの沈黙だった。

自分でもよく分からなかった。この男は確かな自信と証拠をもって俺を打ち倒しに来ているのだと。そして私がどうしてここまでこの男に注意を払えていなかったのかと。......いや、目の前にいるこの人間であれば間違いなく警戒して近づかなかったはず。だが前に会った狐神彼方という人間はもっと無能だった。またいつものように周りの天才に頼った?それも勿論注意していたが、そんな様子は見えなかった。学校の内部の全てまで分かるはずはないが、それでも.....。

「......お前は本当に狐神彼方なのか?」

「なんですか、狐神彼方が2人いるとでも?いたら便利なんですけど、自分の姿を見たら共倒れしそうですね。......もう一気に結論にいきましょうか。あなたの目的は白花小石を芸能界から追放。そして先日売り出したアイドルもバレない程度に手を抜き、長くないうちに失脚。注目すべきアイドルがいなくなったところであなたが独自に運営をする会社を立てて、そこで鏡石をアイドルとして誘いマネージャーとして業務を続ける。そんな感じですかね。だからあなたが書いた辞表もあなたの机の中から確認できましたし、そこから新たな会社の計画書も発見された。おたくの社長さんもそれはキレますよね。白花を辞めさせることはいいとしても、一世一代のプロジェクトが失敗するよう手を抜かれ、白花の事務所と自分の事務所が経営難なところに裏切ったあなたが活躍されたら。......あ、あと白花を脅す材料として使ってた、俺に酷い扱いをする動画なら消しておきました。パソコンデータとUSB両方。機械に強い知り合いならいるので。」

そんな簡単に......全部、見透かされていたわけか。全てこの男の掌だったということか。

「......私がどうして鏡石さんにそこまで熱を込めているのかは知っているのか?」

「根拠はないです。でもうちのダンス部はSNSに動画も多く挙げてます。それゆえに贈り物も多いんですが。そこで鏡石が人気を博しているので、そこらへんで知ったのかな、くらいです。」

成程、そんな今思いついたような意見でも、合っているとむしろ「でも俺があなたに協力するとき、白花に振られたからその復讐って言いましたよね。普通そんなの真に受けるかって思ったんですよ。特にあなたみたいな堅物の人に。でもそれで納得したってことは、あなたも誰か強く思う人がいたのかなとは思いました。どんな事情があるかは知りませんが。正直詳細については分かりません。別に俺は探偵とかではないので。」

......結局私も異性に気持ちを寄せる普通の人間だったというわけか。でも詳細までこいつに知られてなくてよかったかもな。この気持ちは他人に知られず、私だけが大切にしまっておきたい。そしてしっかりと方をつけたい。

「......私は一度家に向かうとするよ。今はこれ以上何も考えたくないんだ。なに、別に今更逃げようとかは考えてないから安心してくれ。正式な謝罪は後日。」

ここまで完膚なきまでに負ければいっそ清々しく思えてくる。感じてなかったつもりだったが、重責やら罪悪感が一気になくなるようだった。足取りが軽い。さて、明日からどう生きるかな。

「おめでとう、君の勝ちだ。」



「鏡石は今、家にはいないですよ?」

歩き出した私にそんな言葉が届いた。

「......何を言っているんだ?私は家に向かうと「誰の家に?」......」

......。

「先ほどは晴れ晴れとした顔だったのに、また一気に曇りましたね。さっきも言いましたよね、白花に復讐しようとした、そしてそれに納得したって。」

......。

「俺が貴社のオーディションに参加する際、鏡石にメイクアップしてもらいました。俺ももう少し考えてあなたのことを聞けばよかった。配慮が欠けてしまっていたせいで、あなたの大好きな鏡石から『マジでキモイ。生理的に無理。』なんて、盗聴器越しに聞かせてしまったのですから。まだ面と向かって振られた方が良かったですよね。いやはや、ほんとーすんませーん。......というかそもそもなんですけど、あなたのアイドル勧誘に椛が本気で乗るとでも思ってたんですか?」

「......忠告はあの日したよな。そんなんだといつか刺されると。大人の忠言はしっかりと受け止めておくべきだぞクソガキ。」

忍ばせておいたペティナイフを相手に向ける。仮にもいくつもの修羅場を超えてきた者か、慌てる様子はなかった。しかしこんな高校生相手に負ける要素がない。相手はあの学校でも直ぐに天才なんか言われてる連中に頼るようなカス。こんなゴミが一人いなくなったところで。

「......あなたの言葉には『大人』と『子ども』を明確に優劣つけたがる傾向があります。多分子どもの頃とかに強く言い聞かされてきたとかですかね。それもきっと高校生くらいの時に、恋愛について強く拘束されていた。だから大人になった今、その拘束が解かれ、その時の感情のままに女子高生に恋してるとかですかね。知りませんが。俺のことをクソガキというのは別に構いませんけど、『大人』のあなたが俺と同い年の『クソガキ』に恋してるのはどうなんです?」

最早反論する言葉すらも思い浮かばず、思いのままにナイフを振りかざした。


「普通に考えてこの場所を指定したのは俺なんですから、俺の味方が潜んでいることくらい考えましょうよ。社長に怒られてから崩れるまで早かったですね。」

斎藤は最早俺の言葉には何のリアクションも起こさなかった。ナイフを振りかざした時点で既に殺人未遂となるため、それが俺のところに届くより早く、梁さんが斎藤を拘束してくれた。雲仙さんも念のため待機してくれていたが、梁さんと一緒に斎藤を車に連行していった。そしてなぜだか俺のことをじっと見ていた。

「ありがとうございます。わざわざ皆さんに来てもらって。」

「一応生徒を守るためだからね。梁君と雲仙ちゃんのことも気にしなくて大丈夫。......でも、守る必要があるとは思わなかったけど。」

「梁さんや雲仙さんがいたから俺も気丈に振舞えたんですよ。普通に1対1だったらもっと人がいる場所で話します。今回の話も相手が冷静さを欠いていたからどうにかなりました。」

「スローペースな話口調、舐めた態度、相手が気にしていることへの神経の逆撫で、相手に優越感を与えた直後の挫折、反論する度の煽り口調。話そうとした直後に被せての会話。気になっている異性へのマウント取り。もしそれが相手の冷静さを欠かせるための作戦なら分かるけど、私はあなたがそこに悦楽を感じていると思ったわ。」

「......俺そこまで性格悪く見えます?」


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