脚光の下、残されたマイク 15
宛ら推理を楽しむ探偵でも気取っているのか。確かに今のところ言っていることは合っているが、その程度のことで高を括っていたら油断だって生じる。私が今考えるべきは、その綻びから逆転ができないか考えることだ。......今ここでこいつを黙らせる強攻策に出たとしても、こんな人気のない場所に呼び出したのは相手、寧ろ向こうに何らかの手があってここに呼び出したに違いない。
「あなたは鏡石の存在を知っていた。でも鏡石はあなたの存在をほとんど知らなかった。一方通行の認知だとその時点でいい予感はしませんね。しかし慕情を抱いている可能性は少ないかなと思ってました。鏡石の顔は当然いいですが、芸能界に似たようなのはゴロゴロいるでしょうし、まぁ、若干ギャルギャルが強い程度ですかね。ギャルはお好きです?ギャルとおじさんは鉄板だと、どっかのオタクに言われましたが。」
「......ふざけているのか。そんなものどうでもいい。」
「そうですね、ふざけんなって感じですよね。あいつのすごいところは、自分の好きなものに全力で頑張れて、本気で悔しがれることです。事実あいつのダンスの実力は全国トップクラスですから。あなたと比べたら椛......あ、いや鏡石に怒られそうです。」
こっちの内情にずけずけと入ってくる毎にこちらの腸が煮えくり返る。......しかもなんだ、椛なんて下の名前で呼んで仲がいいアピールでもしているのか。
「先日うちの学校で大会に向けた選抜試験がありました。うちはその辺り完全実力主義で、先輩後輩とか経験の有無は一切見ていません。モデルやってた人間にもし自分の好きなダンスでも負けてしまったら、それもふざけんなって感じですよね。」
完全に煽ってきてるなこいつ。だが今のお前の言い分は穴だらけだ。
「モデルをやったのが1年の最初、だがオーディションは先日だったんだろう。私がその鏡石に接触した理由がオーディション結果の不満なら因果関係が逆になる。それにお前の話だと私の知り合いが鏡石にオーディションで負けたみたいになっている。そんな人物いるのか?いるのなら名前を挙げてみろ。」
いるはずがない。私は一介のマネージャー業に勤めるだけの人間に過ぎない。こいつの学校に通う知り合いもいないし、個人的に立ち入れる場所でもない。もしこいつがここで適当言うようであれば、そこを切り口に反撃する。
しかし目の前の男はそこは冷静だった。
「残念ながらあなたとの関わりのある人物については誰も出てきませんでした。ご年齢は分かりかねますが、もしお子さんがいればとかも思いましたがそれもなし。時系列もそうです。ご都合主義とはいきませんでした。」
じゃあそこ止まりじゃないか。私がその鏡石という人物に接触した理由、勿論こっちもそれを話すつもりはない。よく頑張った方じゃないか。
「ですので切り口を変えました。」
「......いい加減しつこいぞ。」
「?あなたが今自分に何が起きたのかわからないと言ってたので、順序立てて説明しているんじゃないですか。それとも『色々あって俺の勝ち』で納得されます?だったら俺もこんなめんどくさいことしてる暇ないんで行きますけど。」
クソガキが。
「鏡石に接触できた際に生まれた疑問として、どこからその情報をあなたが得たか。既知の通りあなたは白花事務所と関わりを極力断っていたため。それなのに雑誌1ページの小さなスペースに移る少女のことをどうやって知ったのか。それも当日突然行ったと聞きました。仮に写真撮影の人たちが連絡したとしても間に合わないかと思います。......それこそ、リアルタイムに鏡石の動向を知ってでもいない限りは。」
「......要は私のことをストーカーとでも言いたいのか?」
「重度の、ですね。しかもそれで本人目の前に罵倒するって、どんだけツンデレ拗らせたらその領域までいけるんで「いい加減にしろ!!」」
自分が大人とはいえ、いくら相手が子どもとはいえ限度というものはある。ここが街中でなくてよかった。どんな事情があるにしても大人が子どもを怒鳴りつけることはよく思われない。
「ガキにはまだわからないだろうがな、キャリアを積んだ大人と、親の助けなしに生きられないお前とでは社会的地位が違う。あまりこれ以上怒らせるなよ、名誉棄損、不当解雇、虚偽告訴諸々で今度は法廷で会うことになるぞ。」
「......もう、いねぇよ。」
何か私の発言に思うことがあったのだろうか、小さな声で何か言ったような気がしたが、次の瞬間にはまた厭味ったらしい笑顔に満ちていた。
「もう次会う約束ですか。普通に嫌ですね。......あぁ、ツンデレ。」なんてほざきつつも、何やら携帯で動画を見せてきた。映像は去年の冬前ごろ。場所は恐らくカラオケの一室だろうか。声はこいつのものと鏡石の声らしきものが音楽の中に聞こえる。
『「して、本日はなぜカラオケに?」
「部活がないから自主練よ。ダンス中にも声を出すのはあるから。勿論歌うのは私、金出すのはあんたよ。」
「左様でございますか。」』
映っているのは踊っている人物の後ろ姿。こんなものを見せられて一体何だというのか。
「これが一体......っ!」
カラオケの内部を写した映像であればそれは暗くて当然。歌っているその人のシルエット程度しか見えないが、その耳元にぼんやりとした青色の光が見えた。カラオケの照明という言い訳は流石に苦しかった。
「鏡石のイヤリングについて、この春、鏡石と雑務を担当の先生から押し付けられた時にも少し違和感はありましたけど、これって盗聴器兼GPSですよね。いかにも鏡石が好きそうなギャルギャルしてるデザインです。そして鏡石から先日借りて、機械が得意な人間に渡して逆探知したところ......今、その人物は俺の目の前にいるとのことです。」
......。
「ではどうやってこの盗聴器型イヤリングを鏡石に渡したか。そこからは簡単でした。鏡石が所属しているダンス部ではファンのプレゼントが基本オッケーです。生徒会も軽くそこに立ち会いますが、案外直ぐに見つかりました。」
ファイリングした紙には鏡石がつけている、全く同じイヤリングの写真が写っていた。




