脚光の下、残されたマイク 11
「順を追って説明していこう。君の考えている通り、私は白花さんをアイドル業界から抜けてもらいたい。理由は単純、あの子がいるとうちの事務所の利益に甚大な被害が出ているから。これについては納得いただけると思う。」
そうですね。こっちに回ってくるはずだった仕事を多分全部ぶんどってますもんね。
「しかし君も知っての通り、彼女に欠点らしい欠点が見当たらないんだよ。仕事量を相当に増やしてもこれといった弱みもなかなか見せてくれない。わかってはいたが想像以上の固さだと痛感しているよ。」
「それでなんだかんだ白花の傍にいた時間が多い俺に協力を仰ぐと。......そうですね、俺なんかに協力を仰ぐくらいですから相当参っているんですね。......内容次第かと。」
「直ぐに否定から入らないことはいいことだ」と言葉にすると、今度は携帯を手にして俺に断りを入れると一通の架電をした。盗み聞きするつもりは毛頭ないが、個室でそれを聞くなという方が土台無理な話。向こうもそのくらいわかっているだろうし、別に聞かれてもよい内容だったのだろう。相手は白花、自分がいなくてもロケは進めてもらうように話をしていた。
「すまなかったね。電話の必要はないと思ったのだが、それはこちらの都合だ。」
お気になさらず。報連相の重要性は生徒会にいるときから身に染みているので。さて、それで具体的な話というのは......?
「本日はお時間をいただきありがとうございました。特にアイドル志望の皆さんには茶々を入れるような形となってしまい、すみませんでした。」
「気に病むな。それで落ちるのであればその程度ということだっただけという話だ。帰りは気を付けたまえ。......あぁ、最後に一つだけ。」
足は止めたが振り返ることはしなかった。
「そんな方法を取っていたら、いつか刺されるよ。」
「でしょうね。」
「とりあえず斎藤が向こうの事務所の人間てことは確証を得たと。」
「もっと有益な情報を得られれば良かったんだけどな、すまん。白花を辞めさせることは考えているらしいが、実際まだ何も行動を起こしているわけでもない以上、所詮俺の妄想と言われてしまえばそれまでだし。」
俺と斎藤が話した交渉については話さなかった。
そして俺の言葉に榎本も怒るなんてことはしなかった。そもそも俺は作戦に協力した身、きっと動いてあまり大した成果を上げられなかった俺よりも、何もできなかった自分に嫌気が刺しているといった感じだろうか。
大鵠さんがやった桜、飯島、荒井への事件が起こる前の先手の時を思い出した。しかしあんなことは今回のような事態には使えない。俺が白花へ変なことをするな、という牽制できるものがない。
「.....そうしたら深見さんを白花さんのマネージャーにします。どうせあともう少しで私たちのマネージャーになるんですから問題ないはずです。」
相手はそんなこと見越してると思うけどな。何もできない自分がなによりも嫌なのだろう。
そして榎本の案も却下され、無情にも何もできない日が続いていった。榎本だけでなく、俺や他の人も同様に。
やがて向こうの新規アイドルのニュースが世に広まった。それなりに力を入れていることもあってか、CMや広告でもその日から宣伝が色んな場所で行われていた。しかし榎本の評価ではそこまで脅威ではないというものだった。ちょっと違うとは思うが、サッカーや野球でも試合中はファンは盛り上げっているが、その結果についてニュースで流れてもあまり盛り上がらないようなものだという。極一時的な盛り上がり。
ということで残すは榎本と白花のユニット発表のみとなった。この時には既に白花は学校に来ておらず、芸能界にて多忙を極めていた。しかし映像越しの彼女を見るに、榎本は「多分まだ何もされてはないと思います」と零すだけだった。恐らくだがこのまま白花と榎本がユニットを組んでもいい結果は生まれないような気がする。寧ろお互いが変に足を引っ張ってしまいマイナスに働く気がする。
かくいう俺も生徒会選挙の動きも始めなければならないため、最近はそっちのことはあまり関与しなくなっていた。白花には白花の道があるし、俺には俺の道がある。幼馴染などの関係はあったが、それが互いを縛るものになってしまわないようにするだけ。
白花が体調を崩してしばらく休むことを榎本から聞いた。本当に体調不良の可能性は勿論あったが、榎本は半ば決めつけるように「ついにあの野郎やりやがったな!!」と怒髪冠を衝いた。しかし何度も言うように榎本だって立場がある。深見が代わって動いてくれているらしいが、案の定、目ぼしいものはなかった。
「いいの~?白花ちゃんのお見舞いとか行かなくて?」
俺がパソコンをカタカタ打っている中、自分の仕事は終わりのんびりアイスを食べている橄欖橋先輩にそう言われた。俺がお見舞いになんて行ったところで風邪?かは知らないが体調が良くなるわけでもあるまいし、かえって迷惑になることも考えられる。特に女子はあまり体調が悪い時に来てほしくないとも聞いたことがある。
「どうせ他にお見舞い行く人がいますよ。」
「『君が』行かなくていいの?」
お仕事が残ってるので。




