脚光の下、残されたマイク 10
「理由は分かるだろう。我々が募集しているのが女性だからだ。」
「別に受かりたいがためにここに来たわけじゃないですから別にいいですよ。......でもあなたが直接ここに来てくださって、あなたが白花をつぶすためにこの事務所から送られた刺客ということが確信に変わりました。.....それに、次の目的である、あなたのことを詳しく知るという課題で、こうして2人っきりで話せるんですからよかったです。」
.......これよく考えなくてもだいぶ不味い発言したんじゃないか?女装した男が二人っきりの個室で『あなたのことを詳しく知りたい』ってもう完全にそれじゃん。
「......いくらだ?」
?
「いくら君にお金を渡せば白花さんから距離を置いてくれるのかと聞いている。私も暇じゃないんだ。時は金なりではないが、君にお金を渡してそれでこの問題が解決するにであればそちらの手段に出たいと思っている。」
「マジですか、じゃあ10万円ほど。」
「......呆れたものだな。分かった、それで君が満足するというのであれば「白花は今日カニ漁のロケで他県にいるはずですけど、どうしてマネージャーであるあなたがここにいるんですか?」」
席を立とうとする斎藤だったが、俺の言葉に席に座りなおす。どうやら俺がここに遊びで来ているわけではないことを悟ってくれたらしい。話が早くて助かる。
「いいんですか、時間がないんですよね?俺なんかが本気でアイドル目指して頑張ってる彼女らに勝てるわけないじゃないですか。俺の落選の印を押すのは誰かがやってくれますよ。」
「君が問題を起こさないか心配でね。ただの馬鹿なら私も放っておくけれど、周りの被害を考えない阿漕な人間......もしくは馬鹿を演じる三枚目であれば、そうはいかないだろう。」
やっぱりこうして対面してみたが、この人の腹の底が見えない。相手は大人だし、白花にどんな被害がいくかもわからない。相手も白花の両親やマネージャーみたく馬鹿丸出しという人間ではない。樫野校長みたいな人と対面してまじまじと感じたが、恐怖が目に見えて分かる人よりも、それを一切感じられない人の方がずっと怖い。
「今日のロケをどこで知った?」
「不躾だとは思ってますよ。白花と榎本がユニットを組むってなった時、白花のスケジュール表を見るタイミングがあったので、それをたまたま覚えてました。」
「なるほど、大した記憶だな。そう、私はそれで君を落とす為に戻ってきた。」
「御冗談を。俺が万が一にでも受かる可能性はないです。それにそんなこと遠方でも電話とかで伝えればどうにでもできたかと。……恐れたことはあなたの情報が俺に少しでも伝わること。俺が会社の人と接点を持てばどんな情報が漏れるか分からない。」
「だとしたら私がみんなに伝えればいいんじゃないか?狐神君という人が来たら私の情報を言わないように。今はプライバシーも厳重だしね。」
「少し違和感はありますけどそれでいいと思うんですよ。でもやっぱり自分で確実に不安の芽は摘んでおきたいじゃないですか。白花も同様に、その首が落ちるまで。」
とんとん拍子で行われていた会話もここで初めて止まった。相手は表情には見せていないが、なんとなく察しているんだろう。それなりの準備をして俺が今ここにいることを。姫が言う通り、多分この人は俺が前に見事に言いくるめられて負けたから油断していたんだろう。もしそうでなければ再募集の俺の応募を断るに決まっている。そこまで目を通してなかったか、白花の仕事が忙しくてそんな余裕がなかったかもしれないが、ここまで入り込めた以上どちらでもいい。その油断のおかげで直接この目でこの人がこの会社の人間ということの確証は得ている。
しかし実際ここまできたが次点でどうしたものか。俺の本来の目的はこのオーディションに参加して少しでも斎藤の情報を得ること。本人と接触はできたが、どうせならもっと情報は得たいところ。敢えて直接聞いてみるのもいいか。どうせ俺がこの事務所から出るまでは斎藤だって俺からは目を話せられないはず。警備員など呼んだとしても今日はアイドル募集として参加したからそんな強引な手もできないはず。
「......こちらとしても実は君と会いたかったんだ。こうして二人だけで。」
おっと?ここから先は遠井先生BL好きを押し付けた時に嬬恋に教えてもらったことがあるぞ。18歳未満は閲覧禁止の領域だから具体的な描写は知らないが、色々咲き乱れると聞いたことがある。
「手を組まないか?」
......へぇ?




