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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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脚光の下、残されたマイク 9

実際のとこどうなんだろうとは思った。確かにあんまりそっちの方面でアイドル活動をしている人は見ない。女装が直ぐにバレたというわけでもなかったし、女装と言わなければばれなかった。話題性とかはありそう。......いや、別に受かることが目的でないし、絶対に受かりたくはないから落としてもらっていいんだが......でもそう上手くいくものか。

「そもそも書類上性別とかは誤魔化せない......誤魔化す必要はないのか。それを売りにするんだから。......うん、悪くない考えだと思う。それが俺じゃなければ。言っておくが俺は絶対にやらないからな。」


「えー、では、名前と番号を教えてもらええるかな。」

「はい!狐神彼方と申します!受験番号は8番です。」

「......君は他の子たちとは少し変わった事情だね。正直言われなかったらわからなかったよ。いや、今は多様性の時代だからね。私としても新しいものはどんどん取り組んでいこうと思ってるよ。」

「ありがとうございます!そう言っていただけて少し緊張が和らぎました!!」

試験官が全然知らない人だから逆にその優しさが辛い。頼む、早く楽にしてくれ。


「誰があんたの専属メイクアップアーティストよ。」

「でも前よりも早くより綺麗にできてんだよな。忖度なしに初見男って分かる人、ほんとに少ないんじゃないか?」

「いよいよ女装趣味を隠せなくなってきたわね。......ほい、よさげテンあげセットお待ち!」

鏡を見てみると最早誰か分からない女子がそこにいた。よくコスプレする人とかが「自分とは別の人間になりたくて」とか聞くが、これはまさしくそんなかんじなのだろうか。

そして鏡に映った鏡石を見る。彼女もごくわずかとは言えどもモデルとして芸能界に身を置いていた。一応聞いてみるだけ聞いてみるか。

「ありがと。生まれ変わった気分になった。聞きたいんだが、一時モデルをしていた時に『斎藤』って名前に聞き覚えとかあるか?多分ないとは思うんだが。」

「先に『多分ない』とか『無理ならいい』とか言わんほうがいいよ。聞かれてんのに否定されるの、マジ下がるから。なんなん?ってなる......あー、あんまり思い出したくない名前ね。」

「知ってるのか?」

言葉の通りあまり思い出したくない様子だった。流石に嫌なら無理に、とは思ったが、それではさっきの言葉がそのまま刺さる。どうしても話したくないのであれば『知らない』と一言言えばよかっただけなのだから。

「.....また『無理に話さなくても』とか言うと思った。したらルージュとグロスでめちゃくちゃにしてあげたのに。」

「それ間接キスにならないか?汚くなる以上にそっちの方がずっと嫌なんだが。」

「死ね。......斎藤、確かそんな名前だったわね。現場で何か別の人に用事があったらしくてね、私の撮影している近くで話してたのよ。『人の顔しか伺えない人間が連れてきた奴なんてどうせすぐ潰れる』って。実際その通りだからなんも言えないけど、マジでキモイ。生理的に無理。」

言葉はあれだがやっぱり人を見る目はあるのだろうか。それとも単純に鏡石のことが嫌いだったのだろうか。後者は正直分からんでもない。俺も最初の印象は最悪だったし。

「あと、これはあたしの勘だけど、白花さんに靡かない人間は珍しいと思った。確かに逆張って『興味ないわ~』とか『どうせ裏では~』みたいな人間はいたけど、実際本人前にすると秒堕ちだかんね。あんたと斎藤、結構似てんじゃない?」

「確かに目は二つあるし、口も同じ数ある。耳は二つってところも同じだし、鼻の構造も非常に類似する。そうだな、珍しく鏡石と意見があったな。」

「納得に限りなく近い否定......」

当たり前だろ、なんで俺があんな人と似てるんだ。

それ以上特に鏡石から情報を得ることはできなかった。期待してなかった、というと言葉が悪いが、そもそも鏡石にはこの格好にしてもらうことが目的だったわけだから、普通に感謝だな。

「.......待って、てことは今メイクしてもらってるこれらの道具って全部鏡石の私物?それはマジで申し訳ないから金払うよ。」

「別にいい。あたしも実験材料として考えてるし。それに白花さんのためにやってるんでしょ。それなら私は協力する。」

本当に鏡石は白花に対して敬服してるな。案外見た目の割にかなり義理堅いのか。

「そう言ってもらえると助かる。したらアクセサリとかも参考にしたいんだが。」

「はぁ、勝手にすれば?」


分かってはいたがオーデションはレベルの高い人間が本当に多く、その中でも一芸に秀でた者が多くいた。しかし原形を留めていない廃棄レベルの野菜を、鏡石という一流のシェフが料理した俺という料理は存外悪くなかったようだった。何より大型事務所の女性のオーデションに『心は乙女です』なんて言ってその門を叩く馬鹿がいるとは夢にも思わないだろうしな。

「いや、でも彼女......彼、男の人でしょ?確かにぱっと見女子にしか見えないけど......」

「でも今そこらへん昔とは結構在り方違いますし、普通に可愛い女の子出すより意外性とか時代に先駆けてるってことでいいかもしれないですよ?それにあのルックスでちゃんと男の子ってお得.....いえ、一定の層から人気出そうですよね。」

結局お偉いさん方の話し合いの結果、そこに現れた一人の人間に判断を委ねられた。個室に連れていかれて座らされて一言。

「お帰り願おう。」

「ですよねー。」

斎藤からそう言われた。

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