脚光の下、残されたマイク 6
「成程ね。確かに以前よりも忙しくなったことは認めるわ。その影響で学校に来れていないのも事実だし。でも別にあのマネージャーが問題かと言われればそんなことないわよ。あの人を悪役にしたいのかもしれないけど、事実仕事の成果はうなぎ上りね。それにどうせ一か月半の付き合いだしね。」
こういわれては榎本も何も言い返せない様子だった。
「俺らから言えることとしては、無理はすんなよ、何か困ったことがあれば言えよ、くらいだな。」
「そうね。何かあれば言うわ。言う時間すらなかなか取れないのが現状だけれど。」
少なくてもマネージャーいない時よりも、精神的に余裕があるのだろうか。時間的余裕はないと思うが。
そう言っている間に刻々と時間が過ぎていく。白花が学校にいる時間は更に減り、最近ではいないことが普通になっていった。クラスの人たちも沈んではいるが気持ちは少しずつ変化していた。『これが本来のあるべき姿なのかもしれない』『今までが普通ではなかった。』テレビにも雑誌にもいない日はないくらい忙しい彼女が、その席で座って一緒に授業を受けていたことが。
「その割にはなんだか不服そうな感じなんですけど~。」
「別に不服ってわけじゃないです。クラスの空気のコントロールを担っていたからそれが不安定になって少し気になるだけです。」
「エアコンの調子が悪いって話?」
「え......あ、はい。そっすね。ははは。」
上手いこと言ったとか思ってんのかなこの人。
「......それで、なんでその話を私に?大体想像はつくけど話す気はないよ。急いでるから早くして。時間の無駄。」
「愛想笑いに対する切れ方にしてはあまりにも大人気なさすぎません?榎本は今あんまり変に動かないほうがいいかと思いまして。俺も芸能界の知り合いが多いわけじゃないので、一時でも芸能界に身を置いていた橄欖橋先輩に聞こうかと。白花がいる事務所と斎藤って人のこと、後は相手の事務所について。」
コンビニのプレミアム系のスイーツで何とか機嫌を戻してもらった。なんだプレミアムって、包装をちょっと金色にしただけじゃないのか?食べたことないからわからないけど。
一時でも事務所にいたという割には今もまだその脈は生きており、SNSでメッセージをすると割と直ぐにその返信は来た。どうやらお相手さんは橄欖橋先輩をまた芸能界に戻したいと考えているらしい。
その間榎本をこの場に呼ぶか悩んだ。白花の関わることに自分が呼ばれなかったと怒るだろうし。だが白花への熱量が多すぎるため、何をしでかすかもわからない。結局呼ばないという結論に至った。代わりと言っては何だが、禦王殘に同席してもらった。芸能関係はそこまで人脈がないと言っていたが、こういった経営戦略とか刺客とかは得意分野そうだったので。とりあえず状況は説明したが、「一回聞き手に回る。好きに話してろ」と言われたので橄欖橋先輩と話を進めた。
「京都の時に強く思ったんですけど、白花の所属する事務所ってお金ないんですかね。あれだけ売れるキャラがいるにも関わらず。監査請求とかできなんですかね。」
「それは地方公共団体であって私企業とかには警察のがさ入れじゃないのかな。よく分からないけど、難しいと思うよ~。......うん、勿論隠してるつもりらしいけど、白花さんのいる事務所はかなりの財政難らしいよ。一体どうやったらここまで落ちぶれられるのかな~。」
そういうと一昨年の秋頃の写真を見せてきた。何やら薄暗い部屋っぽい場所でパソコンの画面が写真に写っていた。間違いなく正規の手段で撮ったものではないだろう。それは端的に言えば事務所の借金の額。相当のものだった。多分白花が死に物狂いで働いて届くかどうか。榎本はこれを聞いてどう思うんだろうな。まぁ会社の経営状況なんてあんまり雇用されてる側が興味なかったら知る由もないか。
そしてあの社長さんは相手の事務所から金をもらってると。しかしそれでは疑問が残る。白花という最強クラスの武器がありながら、なぜこちらが不利になるように動くのだろう。真正面のどつき合いをしても負ける可能性は低いと思う。それに榎本ともユニットを組むんだ。勝ちが確定しているようなものだろう。
「まぁここまで会社が悪かったら辞める人間が出てきてもおかしくないよね。」
「......白花が近々辞めることを危惧してってことですか?」
「それに並んで榎本ちゃんもきっとね。それはそだよ。誰が沈んでいく泥船に乗り続けようと思うの?現状を打破しようと動いていたのならまだ残る可能性はあったけど、あの社長が取った手段は相手の会社に寧ろ寄生すること。多分こっちの会社が潰れたら向こうに就く算段はついているんじゃないかな。」
つまり自分たちが白花たちに見限られることも見越して、改善を図ることではなく、寧ろ捨てることを選んだのか。筆舌に尽くしがたいな。
「でも問題はそこじゃないんじゃないかな?」
?確かに白花と榎本は事務所を辞める運びとなるだろうけど、どこに問題があるのだろうか。
「白花がなんでそんな状況でも辞めねぇのか、だろ。」
「芸能界で頑張って生きてきた白花ちゃんは~、多分事務所の財政難とかには気づいているんじゃないかな。そして事務所を辞めれば済む問題。社長もそれを見越して動いている。......なんで辞めないんだろうね~。」
......斎藤とかいったあの男か?
このタイミングで社長がマネージャーとして選んだ人間がまともなはずはないと思う。でも社長の意には反してる。今までより過酷な仕事を与えて辞めさせるつもりだったのだろうか。でも白花はそんなことではなかなか折れないだろうし、何よりセクハラとかパワハラとかもっと直接的に辞めさせたいと思わせる手段はあるはず。
「斎藤って人は......よくわからない。ありふれた名前だし、目立つものもないしね~。」
白花みたいな超多忙スケジュール相手に直ぐに順応して、白花も認めているほどの敏腕であれば、噂の一つでもあると思ったのだがそれもないか。




