脚光の下、残されたマイク 5
そんな何も打つ手がなく困っていると、久しぶりに白花が学校に姿を現した。どうやら本日は特に仕事がないということで、一日学校にいれるらしい。しかし白花に接触できるタイミングはいつも以上になく、常に周りに誰かがいる状況。ここで俺が声を掛けることは難しい状況だな。しかし今日行動を起こさなければ、明日の白花の様子だって分からない。
「あの、白は「小石ちゃん!!休んでた分のノート見せてあげるね!!」ちょっと時間「これ前言ってた化粧品ね!!」少しでも「うわぁ!少しクマできちゃってるよ!!ちょっとこっち来て!!」」
土台無理な話だった。しかしこっちの方面からは無理でも向こうの方面からは攻めることができる気がする。
「それで私の方へ来たと。一応分かってはいると思うが、君は学校をサボっただけでなく、仕事に追われてる私の時間を割いて、白花さんの余計な心配をしに来たということをわかってるのかね。」
白花に『マネ、どこ』と短い文面だけ送ると駅名と喫茶店の名前だけ教えてくれた。そこに行くと相手は優雅にアフタヌーンティーみたいな感じで決めていたので、俺も負けじとコーヒーで対抗した。
「仕事ができない言い訳に『時間がなかった』っているのは三流と聞いたことがあります。俺も好きでここに立っているわけじゃないんですよ。」
何を言っているのかわからない、という感じの表情だな。ここまで来たはいいが、結局俺の杞憂でしたという可能性はある。今後のためにも慎重に立ち回るとするか。
「白花が学校に現在ほとんど行けておらず、仕事に忙殺されている現状をどう思います。」
「特に何も思わないが。確かに彼女は学生という身分でもある。ただ同時に金が発生している時点で社会人としての身分もある。最も明確なものは、学校は彼女がいなくても成り立つが、番組や写真撮影などは彼女がいないと成り立たないもの。そのどちらを優先すればいいかなんて明白だろう。」
「白花はそれについてどう思ってるんですかね。」
「現場において感情なんてものはナンセンスだ。そして正論を言われたら話題転換をして別側面の荒探し。自分の状況が不利と言っているようなものだな。白花さんの気持ちなんて知らない。他人の気持ちなんて分かるわけもない。私はあくまで仕事を効率的に、そのうえで成果を出すように動いているだけだ。」
くそ、嫌な大人の典型的な例みたいなやつだな。前のマネージャーもそうだが、どうして白花の感情を見てあげないのか。それとも俺の知らない大人の世界では、そんなに他人の感情なんて軽視されてしまうのだろうか。心を殺してただ仕事をする。間違ってはいないと思うけれど、誰だってそんなことは望んでないと信じたい。
「......随分と彼女に執心だな。君のことは知っているよ。白花さんが小学生の頃に一緒に遊んだとか、高校で運命の出会いを果たしただとか、マネージャーとして一時働いたとか、クラスメイトとして一緒にいるとか、修学旅行の時に告白して振られたとか。随分と濃い時間を過ごしてきたんだな。だがそんなものが一体何の役に立つ?そんなもので白花さんの何を助けるつもりなんだ?それにどうせ私は一か月半もしないうちにマネージャーではなくなる。それまでお互い問題を起こさずにいるのではだめなのか?」
ステイステイ......。まだ拳は早い。
「私は正直、君が何を気に入らないのかがよく分からない。前のように学校にも来てほしいのは完全に君の願望だろう。白花さんが君に助けを求めたのか?不満や愚痴を零したのか?勿論私に問題があれば改善だったり責任は取る。......これ以上話すことはないらしいな。帰り道は気をつけたまえ。あぁ、会計は私が払っておいてあげよう。」
「それでそんな泣きそうな顔で......でも実際問題言ってることは正しいんですよね。私たちが勝手に騒いでいるだけですし。実際あの人の業務も問題はないですし。」
「じゃあ特に問題はないっすね。解散「またまた、ご冗談を。」」
確かにことが起きてからじゃ遅いってことは理解してるけど、俺らにできることは現状ないと思うぞ。実際あの斎藤とかいう人とも話したが、仕事の量は前よりも増したかもしれないけど、少なくても白花にとってそれ自体困ることではない。一番大切なものは勿論白花の気持ちだが、メールで聞いても大丈夫、実際に面と向かって話すこともできていない。
榎本が今日白花と話をしていたのはうちのクラスでも噂で聞いた。もし白花の方で問題があれば、今こうしてゆっくり話なんてしていないだろう。そして別に榎本にもそれを話していない様子。
「ありがた迷惑って言葉がだな「知りません」」
「......何を揉めてるのよ。」
俺もそうだが同様に榎本も予想外の白花の登場に驚いていた。ここは旧校舎で普段使われない教室だから、そういう意味でもすごいビビった。




