脚光の下、残されたマイク 3
後日白花の社長の前に白花と榎本、深見、そしてなぜか俺が呼びだされた。榎本曰く「死なば諸共」らしい。どうやら俺たちは今日死ぬらしい。
「彼は以前小石先輩のマネージャーをしたこともある、小石先輩のクラスメイトの狐神彼方先輩です。学校内外でもサポートをたくさん行ってくれているため、今回同席してもらいました。この話し合いの場では一切他言無用でお願いしてます。」
社長さんは榎本と白花のことはよく信頼しているらしく、俺の同席を許してくれた。断ってもらっても全然よかったんだけどな。
「......つまり白花さんと榎本さんのユニットを極力早めに立ち上げて、先手を打つと。」
「はい、後手に回っては不利な状況でしかないです。」
こっちから喧嘩を売るに行くんだ、社長さんだっていい顔はしないだろう。しかし一番の売れ頭がこれ以上は無理と言っているのであれば対応はすると思うんだがな。部下の悲鳴をちゃんと拾ってあげることも上に立つ人間の務めだとは思うが。
「そうだな、例えば白花さんに別のマネージャーをつけるということで、当分の間様子見をするということにしようか。勿論向こうのプロジェクトがある程度下火になったら、改めて準備万端の2人が出るということで。」
正直そんな風に答えることは予想していた。前に俺と深見が話していた際にあえて話題に出さなかった部分、事務所同士の金の繋がりだ。ライバル会社といえどもバチバチに殴り合うことはあまりせず、今回に限っていえば、例えば『うちの新規アイドルプロジェクトを進めるにあたり、金はやるからあんまり邪魔はしないでほしい』みたいなやり取りはあってもおかしくないと思った。そしてもし、そんな金を既に受け取っているのであれば、今回のようなユニットの爆誕なんて絶対に許すはずがない。白花のマネージャー事情がこんな惨憺たるものになったのも頷ける。
それをいまいち把握していない深見は必死に食い下がる。しかしマネージャーと社長では立場があまりに違う。これ以上は今以上に立場を悪くすると考えたあたりで白花が動いた。
「すみません、私の事情により迷惑をかけてしまって。もし私のマネージャーを務めてくれる方がいるのでしたら、どのような方かお伺いしたいのですが。」
この人の話に従うのであれば、あくまでユニットを組むまでの短期的な人間。俺がそこまで気に留める必要はないか。
その男は斎藤といった。
勿論社長の指示がないとそんな大それたプロジェクトを進められるはずもなく、結果俺らは社長の指示通り動くしかなかった。しかし期日も設けてくれており、相手会社のアイドル発表が1か月後、俺らのユニット発表は1か月半後となった。間が僅か半月しかないのがかなりきついと思ったが、そこに関しては榎本から説明があった。
「基本的にアイドルは発足して最初の曲が何よりも重要です。ルックスがいいとかは当然ですから。あとはプラスαとかも重要ですが、曲がヒットしないことには深堀もされません。じゃあ昨今の時代において流行る曲ってどんなのだと思いますか?」
「SNSとかで使いやすいとか?」
「はい、そうです。『SNSでなんか聞いたことある』『配信とかで聞いた』などが大半です。CMなんてもう古いです。若者はテレビを持たない人の方がもしかしたら多いですから。その後にようやくアイドルに目が向くんです。そして曲の廃り流行りは2週間ほどあればある程度分かります。本当は一か月くらいあればより確実に分かりますが。」
実際後々評価される曲って結構少ないもんな、絵画とかならいざ知らず。成程、当たり前かもしれないが、曲が流行ってようやくアイドルに注目が行くといった感じか。しかし曲がヒットした場合が問題なのだろう。......ん?でも現状、曲がヒットするかどうかなんかわからないよな?そもそも曲まだ発表してないんだし。
「やっとわかりましたか?社長は十中八九お金をもらっており、手を出せない状況にあります。僅か半月後に発足すると言いましたが、向こうがデビューした後、私たちがヒットするかどうかなんてわからない。でもそれに対して何も行動を起こさないということは、うちの社長はその新しいアイドルが売れないことを確信しているんです。お金をもらうほどの関係であれば、勿論そのプロジェクトの詳細だって聞いているはず。仮にも私と小石先輩の勤める会社の社長であればそのくらいの嗅覚は持ってるはずです。」
......いや、恐らくそのアイドルたちは白花ほどではないだろうが、ある程度ヒットすると思う。それに榎本の会社の社長はそんな有能な人間とは到底思えない。でもそれは榎本もすぐにわかるか。
「まとめると、慌てずに一か月半後のデビューに合わせて動けばいいってことだな。その間、白花は臨時マネージャーと。」
「はい、それで問題ないはずです。......小石先輩のマネージャーになるあの男は気に入りませんが。小石先輩も何かあったらいつでも連絡くださいね。何時でもどこでもどこまでも駆けつけますから!」
「ありがとね、何かあったら頼るかも。」
白花の腹黒さというかは、俺と白花の出会いを話した時に既に榎本は知っているが、榎本は全く気に留めた様子はなかった。というか寧ろほとんどの人が知らない本当に白花先輩が見れて嬉しいとまで言っていた。それに対して白花も困惑はしていたが、最近はそういったものもなく、姉妹とはまだいかないが、それなりに仲が良くなったのかと思う。
「......いや、だから俺は一般人なんだってば。」




