脚光の下、残されたマイク 2
「とはいえ実際そんな簡単にできたりするのか?」
話の中心の1人でもある深見に伺ってみた。まだ芸能関係の世界に入って一年経ったかどうか深見に聞いても分かるかどうかはわからないが。
「会社は二人とも同じだからユニットがどっちの会社の元で働くか問題とかは起きない。とはいえお互い少し先まで予定を入れているから、すぐにユニットを組むって話は少し難しいかもしれない。ただそれは榎本さんも嫌だってことで、ユニットを直ぐに組んで、お互い落ち着くまではソロ活動がメインてことになる。」
あくまで目的は白花の負担軽減だから、ユニット組んだ新たな集客だったり相乗効果を狙った注目度を上げることではない。でも話題沸騰中のアイドルのユニット活動開始なんて芸能界で使わない手はない。ただでさえ一定の何かを出さなければ直ぐに廃れる世界なんだ。
「それならシンプルに今のうちからユニットの準備はしておいて、準備が整い次第発表すればいいんじゃないか?勿論世間は発表するまで知る由がないんだから。それなら2人が最初からユニットで動くことも話題性も確保できると思うが。榎本の意見も取り入れるなら、深見には悪いがユニット結成前から白花のサポートに入ってもらうことにはなるだろうが。」
しかしこれにはなぜかあまりいい顔をしなかった。しかしその理由を考えた時、俺にも思い浮かんだものがあった。
「......そういえば、近くどっかの事務所が新アイドルの発表とか言ってたな。最大規模のオーディションを現在進めててその発表をするとかなんとか。」
「そう、もし白花さんと榎本さんの予定を最短で合わせてユニット発表をした場合、そことドンピシャでぶつかる。あそこは他社で現在うちとあんまり関係よくないから、多分時期を被せたら完全に喧嘩を売ることになる。勿論芸能界はそんな世界ではあるが、かといってユニット出来立てほやほやの状態にできるだけリスクは負わせたくはない。場合によってはマスメディアを悪用してこっちの根拠のない悪口言うこともあるからな。」
成程な。一番安全な択としては、他社の新人アイドル発表が終わって、そいつらが社会の厳しさを骨の髄まで身に染みて縮こまった時に、こっちのユニット発表って感じだが。
問題は3つ。1つは榎本の機嫌が絶対に悪くなる。でもまぁこれはいいや。2つ目はアイドルとして勝てない可能性があるということ。ポジションが重なった場合、勿論そこからはどつき合いが始まる。勝てない可能性が否定できない以上、後手に回るデメリットが大きすぎる。もしくはなんらかの差分をつけて異なる需要の集客をするとかか?そして3つ目は白花がそこまで耐えることができるかどうか。ただでさえ以前よりキツイといっていたのに、今はマネージャーすらいない状況。それが長期間保つとは思えない。あいつの精神的な事情も考えて、明確な時期がわからないのに『ちょっと待ってて』とは言いづらい。
「......先手を打つが一番いいかな。」
「だよな。わざわざ後手に回るメリットが薄い。どうせどこかしらで対立は生まれるんだ。だったら先にこっちから仕掛けたほうがいい。榎本さんや会社の人とかには俺の方から伝えておくよ。」
いや、別に俺は相談に乗っただけで具体的に何かするつもりは全くないんだが。
「白花さんに振られてどうせ気まずいんだろ?ちょうどいいから狐神が白花さんには話通しといてくれ。」
「そんなんじゃないんだけど。というか部外者の俺が関わるのはどうかと。」
部外者なんて今更だけどな。
「当たり前でしょ、これ以上私はこの環境で耐えられる気がしないわ。あのマネージャーももう十何日も見ていないし。それともあれが見習うべき大人の姿なのかしらね。」
だとしたらこの国が向かう未来は、滅びることに決定したな。嫌なものから逃げることは確かに間違ってはいないし、俺もその考え方に賛同はするが、でもそれは何の責任も負わないで投げ捨てる、しかもそれを子どもに押し付けるとくれば話にならない。
自分でスケジュール管理をしているらしく、その予定表はびっしりと書かれていた。なんだこれ......カニ漁て、最早アイドルかどうかも怪しいけどな。
「であれば早いうちにユニットを組む動きを「もう動いてる。私の方の準備は大体終わってる。」流石ですね。榎本の方も準備は進めてるって深見も話してたし、そうなると次は社長さんの許可待ちって感じなのかな。」
というか純粋な疑問なんだが、白花のマネージャーの件、社長とかはどう思ってんだろう。間違いなく白花は所属会社の稼ぎどころ、それを何も関与せずにいるこの現状がおかしいと思うんだが。




