脚光の下、残されたマイク
その後星川はノアの家で一緒に住むことになったらしい。禦王殘のおかげで金銭面に関しては特に問題ないらしいが、ノアの家からならお姉さんと直ぐに連絡が取れることだった。今の時代本当に科学は進み、時差こそあるが画面越しにいつでもお姉さんが見れることは何より優先したかったらしい。それはそうだ、大切な唯一の家族だもんな。
「これでとりあえず一件落着って感じか。」
「そうですね。ご迷惑おかけしました。あ、もしかして、狐神先輩の家に同居しなかったこと気にしてます?ごめんなさぁい、私狐神先輩はいい人だと思うんですけどぉ、流石にそこまでじゃないっていうかぁ......あー、ほんとのこと言うと、私子ども孕んだことあるので、もう体が女性なんですよ。それで迷惑かけられないというか、流石に恥ずかしいというか......」
「?はぁ、よく分からんが、別にノアのとこなら安心だから全く気にしていないが。」
気付けばもう11月、月日が流れていくのを改めて早く感じる。もう季節は秋から冬に移動を開始し、旋風に乗って枯れ葉が舞う。肌寒さを感じると生徒会室の窓を閉める。とはいっても本日、というかしばらく生徒会として仕事はない。学校の方も12月はテストだの、人によってはクリスマスだのあるだろうが、少なくても11月は何もない。穏やかな日々を享受できることに敬礼。
「ユニットを組む?隣の座は譲らないってマーキングか。女子は本当に怖いな。」
「違いますよ!!そんな理由なわけないじゃないですか!!」
まぁ榎本が言わんとしてることは分かる。白花のマネージャーが合唱祭の時よりどんどんダメになっていき、最早使い物にならなくなっていると聞いた。それに伴い新たなマネージャーは必要となる。勿論誰かを探すことも出来るだろうが、元々『白花先輩みたいになりたくて入った芸能界』とかそんなのを謳い文句にしていた榎本が、同じユニットとして隣に立つことが出来れば話題性にも繋がる。カップリング論争の心配なども多分大丈夫だろう。深見なら事情も知ってる分使いやすいだろうし、深見自身更なるスキルアップと給料アップに繋がる。……まぁ多分こいつはそんなものはこじつけに過ぎないで、白花と少しでも一緒にいたい気持ちなんだろうな。
「そういやクリスマスも少しずつ近づいてきたしな。」
「聖夜……いい響きですよね……情熱の夜……。ちっ!?違いますよ!?もしかしたらクリスマスまでにユニット組めて、当日も一緒に過ごせるかもなんて思ってないですから!!」
「榎本の誕生日って9月半ばだったりするか?」
「いえ、違いますけど。なんでです?」
ていうとこの童貞みたいな女のそれは遺伝では無いのか。突然変異かな?
「白花はなんて言ってるんだ?実際一番重要なのはそこだろ。」
「『正直キツいからそうしてもらえると助かる』だそうです。」
「そっか、榎本がうちの学校に来てくれて本当によかった。多分今回のことも榎本が相談しなかったらきっとまた一人で抱え込んでた。俺はその辺り鈍いから、白花レーダービンビンな榎本がいると助かる。」
俺が京都であんなこと起こさなければ、マネージャーは今でも自分の職務を全うしていただろう。何が榎本がいて良かっただ。あの人の人生を狂わせたのは間違いなく俺だろうに。そこから榎本が白花にユニットを組むことも予測して、それに白花が乗らざるを得ない精神状態だということも知っていて、何を白を切っているのだろうか。そしてこれからクリスマスまでには起こるであろうことも、なんとなく予想はつく。そしてそれを知らせもしようとしない。どうしようもないクズに堕ちたものだな。
「ちなみに深見はなんて?」
「大変にはなるだろうけど、こんな貴重な経験しない選択肢はないだそうです。」
いや、一年前まで周りの人への迷惑考えないで屋台で暴れる人のセリフじゃないぞ。仕事は人間を変えるというが、本当に目覚ましい進化を遂げてるな。将来大物になりそうな気がする。
「まぁ事務所のやり取り云々はあるだろうが、その辺りはみんなでどうにでもなるだろ?少なくても俺は何の力になれないだろうし。白花が楽になるのであればそうしてくれ。......何?」
急に黙ってじっと見られると気持ち悪いんだが。
「いえ、修学旅行中に小石先輩に告白した割には案外冷めているなと思っただけです。」
「結局白花を風呂にゆっくり入れるだけのものだったしな。」
「でも熱烈な言葉を送ったそうじゃないですか。」
「どうせならいつもやられている分復讐してやろうと思ったんだよ。実際結構上手くいって白花がきょどきょどしたのは面白かったけどな。」
「いつも崩れない笑顔も大変素敵だと思うんですけど、慌てふためいた様子の収めることのできた彼方先輩はそれ相応の対価を払うべきだと思うんですよ。」
悪徳宗教かよ。




