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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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忍び寄る影 2

俺の言葉に瀬田会長と春風さんの動きが一瞬止まる。そして一度2人が目配せすると春風さんが審判の方へ向かう。

「春風さん?どこ行くん「狐神、悪いが試合は中止だ。話は生徒会室でする。ノア、禦王殘、鶴も来い。」」

今までに見たことのないほど真剣な顔を見せる会長。周りの誰もがそれに口を噤んでいると、俺のすぐ後ろから昨日聞いたはずの声が聞こえた。けれど同じ声のはずなのに、何故か今は、不快だ。。

「そんなこと言わないであげてくださいよ瀬田さん。この子の涙ぐましい努力を否定するなんて可哀そうじゃないですか。あー、違いますよね、この子の事を端から信じてなんかいないんですよね。」

「んな訳ねぇだ「冗談に決まってるじゃないですか、嫌だなぁ。......あの時壊れかけた春風さんとあの子を救えなかった自分の無力さをこの子で誤魔化してるんですよね。自分が引き金になったあの騒動を後悔してるんですよね。前者に至ってはたった猫1匹が死んだだけ壊れる関係なんて……なんでしたっけ、シュパリュでしたっけ?凶暴さは物語通りでしたね。後者は俺としては結構楽しかったですよ。」

話についてこれずにいると、アナウンスが突如として入る。試合中止の旨を伝えるものだった。ここにはいない春風さんが審判に伝えたからだろう。その原因までは言われなかったが、きっとそれは勝手に生徒間で出来上がるだろう。恐らく『狐神がビビった』などかな。


あの後大鵠という人は特に何もせずに去っていった。瀬田会長は「放課後、事情を説明する」だけ言うと何か苦い事を思い出したように機嫌悪く去っていった。大鵠さんが触れた春風さんの姿はもうそこにはなかった。

「お前から見て、大鵠はどう見えた?」

「え?そうだな、昨日あった時は少なくても今みたいな悪い感じではなかったと思う。どうかしたの?禦王殘?」

「俺の知人があいつの事を慕っててな。少なくとも、んなタイプじゃなかったからあの大鵠とやらがどんな人間か知りたくてな。ま、放課後になりゃわかるか。」

禦王殘が歩き出したことによって俺らも解散した。

何とも後味が悪い結果となったが、運動部との対決はここで幕を閉じた。


「あいつがビビってドタキャンしたんだってさ」「どうせバスケで調子乗ったんだろ」「失敗するくらいなら出ない方がまだマシって考えたのかな」「もう考えが丸見えだよね」「少しは出来るやつって考えたらこれだよ」「どうせバスケもまぐれだろ」

そんなクソみたいな戯言を無視し外を眺めていると誰かが前に来た。

「てめぇが鬼ごっこビビって出なかった事は知ったこっちゃないが、少なくてもバスケの事は気にしなくてもいいぞ。」

そういえば確か相川はバスケ部だったな。試合は男子との試合だったから相川がいなかったのも当然か。

「あたしも言うほどバスケはうまかねぇが、あんたのプレーがまぐれや僅かな期間で出来るものじゃない事くらいわかる。」

「……どしたお前?腹でも痛むのか?便秘か?」

「死ね!!」と1発叩かれた。純粋に心配しただけなのに。だってしょうがないじゃないじゃん。今までメチヤクチャ嫌われてたのに急に優しくなんてするんじゃねぇ。勘違いしちまうだろ。

「翔子ちゃんは口は少し乱暴だけどすごい優しい子だよ。それは狐神君もわかってるでしょ?」

「お前のおかげでな。」

一体何をしに来たのか。白花が来るとろくなことにならないから出来るだけ近づいてほしくないんだが。別に相川ともお話がしたいという訳でもないし、トイレにでも行くとするか。

「ま、待って!!」

そう言われると俺は逆らうことが出来ない。ため息を吐きつつも振り返り「どした?」と尋ねる。心当たりならある。

「ちょっと放課後、時間あるかな?」

「生徒会の集まりがあるから少しだけなら。」

「ごめんね、忙しいのにわがまま言っちゃって。」


そして放課後、少し遅れて生徒会室に着く。理由は白花に呼ばれたからだが別にそこまで言う必要はないだろう。向こうも俺が来ると「集まったな。」と一言だけだった。

「で、あの大鵠という人は一体誰なのですか?きちんと説明してもらいますよ。」

大会を中止させるほどの理由がある人物と言う割には、俺たち1年には全くと言っていいほどその存在を知らない。その辺もちゃんと納得のいく説明をしてもらえるのだろうか。

「説明は俺からしよう。」と言ったのは瀬田会長だった。大鵠さんの言葉から春風さんの方が何となくキーパーソンな気もしたが、春風さんはずっと窓の外を見ている。


大鵠 (まさき)は元生徒会庶務だった。その性格は明るく大雑把。よく春風と共に女子をナンパして遊んでいため、生徒会メンバーの中でも特に春風と仲が良かった。私生活はやや乱れていたが、仕事はよく出来、生徒会を支える立派な一員だった。生徒会を裏切るまでは瀬田が最も信頼を置いていた人物だった。

元生徒会書記、名前を夏川(なつかわ)千春(ちはる)という。こちらは大鵠と反対で静かな人だった。けれど別に暗い訳ではなく、色んな人と話していた。そしてこちらも与えられた仕事はきちんとこなし、何より日々研鑽しようとする姿勢が好印象だった。生徒会では珍しく文化部にも所属している。

そして元生徒会副会長、壬生(みぶ)葭切(よしきり)。大柄な体格で運動が得意な明るく声がうるさい。常にポジティブで自分勝手なところがあり、一部からはあまり好かれていなかった。

瀬田、春風と5人でそれなりに楽しくやっていた。今年のメンバーが6人いるのは、もし1人いなくなっても回していくため。そしてそれは大鵠と夏川、そして壬生が辞めた事を教訓としている。

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