可愛いの最後の日 12
「いや、まぁ......助かったっちゃ助かったが。」
「龍ちゃんがクラスみんなと同じ場所はしんどいってことは分かるし、私も苦手だから私たちだけで集まろうって話してたの。はい、どうぞ。」
「ありがとう。でもクラスの、特に男子はだいぶショック受けてたぞ。なんかそれを契機に女子は女子会みたいに分散していったし。まぁ男子は男子のノリでやけくそに楽しんでそうではあったが。」
我ら騒ぐの苦手部隊の飲み会メンバーは俺と、京、水仙、深月。男子がいないのはきっと京がいるからだろう。......俺は女子判定なのか?まぁエックス染色体持ってるから半分は女子だし、それを四捨五入すれば女子か。
「そういえば修学旅行の時に、京から水仙と同じ人を好きって聞いたんだが、結局誰なんだ?」
盛大にサラダを落とす水仙とお茶を口から垂れ流す京。そして水仙はサラダを拾うことをせず「どうしてあのことを狐神君が知ってるのかな」と京に言い寄る。どうやら修学旅行の際にバスで話してくれた内容は、俺が知っていては不味かったらしい。確かに俺は性格良くないと自負してるけれど、別に言い触らすつもりなんて微塵もないんだけどな。
「普通そんなこと知れば不仲になってしまいそうだけれど、本当に2人は仲がいいのね。.....あと京さんは早く拭いて何か着た方がいいわよ。ワイシャツが透けてしまっているわ。」
その言葉に京の顔が一気に赤くなる。水仙も急いでハンカチで拭いてくれているが、なぜか京の正面に座っている俺が睨まれた。俺はサラダを食べているだけなのに。
「俺悪くないだろ。あと言っておくけど家に妹いるから別に女性の下着見えても何も思わないから。水仙だって桜介君の下着見たって興奮しないだろあづっ!?」
今度は隣に座る深月にアツアツのお手拭きを目に食らった。なんでここまでぼっこぼこにされなくてはいけないのだろうか。「見てないよ」とバレバレの嘘ついても意味ないし、「結構大きいんだね」なんてセクハラ問題すぎるし、「そんなもの見せるな」なんていうのも印象悪いし、寧ろベストアンサーに選ばれるくらいいいこと言ったろ。
「なんなんすかほんとに......」
「言っておくけど桜介の下着なんて見てもただの布としか思わないから。」
「だったらなんでそんな怒ってるんですか......」
とりあえず京の服は拭き終わったが、まだうっすらと色が透けてしまっているため、仕方なく俺の着ていたカーディガンを京に着させた。サイズは京が小柄ということもあり袖なんかはダボダボしているし、俺の臭いが若干するかもしれないが、これなら俺が京の胸をガン見する変態なんてレッテルはつかないだろう。
「で、結局その誰かさんは教えてはくれないのか?」
「狐神君がよく知ってる人だよ。」
俺のよく知っている人。2人は部活は違うから多分同じクラスの誰かだろうけど、この2人とそんなに仲のいい人は知らないんだよな、京なんて特定の男と関わりは持ったなんてこと聞いたことないし。
「伽藍堂とか?茶道部だから水仙とも関わり事態はあるだろうし。」
「確かに料理部は茶道部とか華道部、筝曲部とかとは和風料理とかの際に協力してもらうことはあるけど、別にあの人と個人的なやり取りはほとんどしたこともないかな。」
そうなのか、結構いい線言ってたと思うんだけどな。特に伽藍堂なんて喋り方は少し特徴的だが、普通にルックスもめちゃいいし、一目惚れなんても十分にあり得そうだが、京が無反応なのを見るとやはり違うのか。
「......だめだ、全然分からん。クラスの誰かっていっても、特定の人と話しているの見たことあんまりないし。」
「あなたのことじゃないの?」
「んなわけ「ゲホゲホっ!!」」
「ちょ!京またせき込んで......あー、びちゃびちゃ......というかなんで水仙も......なんか拭く物あるかな。上手く嚥下できない子どもの面倒見てるみたいだな。」
深月からそんなことを言われた。成程、確かに俺は2人ともこうして関わりがあり、多分こうしてお呼ばれしているため、嫌われているという線はきっとないだろう。だけどどうだろう、少なくても友達としては見てくれていると嬉しいが、そこまでの段階には到達は全くしていないと思う。それに俺は俺のことをよく分からないしな。あまりの予想外の回答にってところかな。
とりあえず2人には俺の余っていたタオルとハンカチで拭いてもらった。京は俺の貸したカーディガンがあるからいいが、先ほど同じことが起こった水仙には俺のパーカーを貸した。なんだか追いはぎに遭っている気分だ。次は制服を持っていかれるのか?どうしてこんな短時間に女子の下着を何度も見なくてはいけないのか。
「合唱祭が終わった後はもう今年はイベントとかはないのかしら。」
「そうだね、大きなイベントはもうないと思うよ。一応生徒会選挙とかあったっけ?」
「一応だけどね。3年の先輩が引退するからそこだけ決める感じ。学校のイベントはないと思うけど、すぐ近くのハロウィンとかか?都会に駆けだして豊穣の祭礼なんて全く気に留めないで、周りの迷惑を省みずに親や警察にまでお世話になる頭のねじ緩んだコスプレイベント。」
星川の件について不安は一応あったが、俺が生徒会に残ることは決定したわけだしな。勝った恩賞としてあいつの俺を狙う理由について今度聞いてみるか。
「すごいハロウィンへの嫌悪だね......。」
「でも......私も.....苦手かな。」
その後色々と話は弾んだが、あまり夜遅くなってしまってはあまりよくないため、耽る前に解散となった。俺もあまり遅くなって心配かけてしまわないように、少し速足で家に向かった。そしてみんなでご飯を食べている中、頻繁になっていた携帯から電話をした。
「何、斑咬?......まぁもういいよ。ん?......あー、そうだな、結局優勝しちゃったしな。起こっちゃったものはしょうがないし。......そうね、生徒会を辞めつつ、星川の接触理由も聞くことができる共倒れを狙ってみたが、やっぱり他人のお前に任せた俺が悪かった。結局最後は信じられるのは己だけって感じだな。もう用は済ん......いや、一つだけあるけど、それは自ずと分かるから今は伝えないでおくよ。」




