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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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可愛いの最後の日 10

『渡されたそのキャンバスは白く

その白が光にも空虚にも見えた


時間と共に色が増えていったが

それは綺麗なだけじゃなかった


ぶつかり合うたびすさびれて

分かり合う度鮮やかになった


それは想像していた色ではないけれど

確かに僕らが歩いてきた証となった


星が空で笑うように草木が風と踊るように

当たり前だった僕らの日々もいつか消えてしまう


未来はこの先枝葉のように広がり

僕らの不安も広がっていく


優しさで世界は救えないかもしれないけれど

今となりに立つ友の手は握れる


苦しみから逃げ続けてはいられないけれど

それを聞いてくれる友はここにいる


いつか見えたその白が

僕らに何もなかったことの証明にならないように

僕らをいつまでも照らし続ける星明りになることを


この広い空

何度でもまた出会えるように』


誰だよ最初に『壁と盾と足跡(仮)』とか曲名つけたやつ。

この曲が決まった時、全く知らない曲ではあったがそれは当然だった。この曲は今回の合唱祭に合わせて創作した曲だったのだから。『このための曲作ってそれ歌えたらすごいよね!!白花さん!!』そこが発端だったらしい。そん時に俺が寝てしまっていたため、否定する人がおらず、しぶしぶそうなったらしい。後日俺は白花から久しぶりに喝を入れられた。そして白花は他人に曲を作らせると他クラスにバレる可能性があるからと、自分でクラスの人から意見をもらい作ったという。作詞から作曲まで。いやシンプルにすごすぎだろ。期待されたからとはいえそこまでできるのは本当に凄いな。


聞いている人たちは当然驚いていた。誰も聞いたことのない、そして案内には『このために作った合唱曲です』なんて書いてあるのだから。そこでのインパクトは恐らくどのクラスよりも強くできただろう。そしてもう流石としか言えないが、白花の作詞作曲についても一切の忖度なしに非常にレベルの高いものに仕上がっている。みんなからは「教科書に載っても全然いける」なんて言っていたが、今回に限って言えばそれには俺も同意見。

歌い始めると曲はあっという間に終わった。合唱者たちもそうだが、常に笑顔を浮かべこちらの緊張を解してくれていた白花、そしてなんだかんだ言われつつも、練習でさえほとんどミスをしなかった吉永への安心感。これらは俺らのパフォーマンスを100%以上に押し上げてくれたと思う。バスなんて最初の騒音に比べれば飛躍的に上がった。

そして客観的に見てもなかなか高いレベルで歌えていた。吉永の最後のピアノの音がが溶けると、会場からは本日一番大きい拍手が送られた。拍手の中に「これ本当にこのために作った曲!?」「作詞作曲白花小石ってやばすぎじゃない!?」「普通に販売できるレベルでしょ!?」そんな声が漏れた。俺は知らないが、後ほど実際にSNSに俺らの映像が発進され、数十万のバズリとなったらしい。やはり白花が作詞作曲をしたというところから目を引き、そもそも俺らの学校の注目度と乗算されそんな事態になったらしい。また別側面として「歌ってる男子の中になんか半分くらい人間みたいなのいる(笑)」「ショウジョウバエじゃん(笑)」「口から脚生えてんじゃね(笑)」なんてコメントもあった。

ステージ横にけ、扉から外に出るとみんなため込んでいたものを一気に吐き出した。声を上げる者、飛び跳ねる者、抱擁を交わす者、涙を流す者、安堵からため息を出す者。みなそれぞれに喜びを表現していた。

「......どこに行くの?」

それは最近加わった深月も例外ではなく、少しではあるが頬がいつもより緩んでいた。

「行く場所があってな。終わるころには戻る。」

「他クラスの合唱は見ないの?」

「今はちょっとゆっくりしたいかな。」

「今までにないくらいいい出来だったのに、随分と浮かない顔をしているのね。......また何か背負い込んでいるの?」

......だからだよ。

「緊張からかな、少し気持ち悪くて。」


「あれはずるいですよ......。白花先輩が作詞作曲したなんて勝てるわけないじゃないですか。生徒用のパンフレットには書いていなかったですし。いや、実際合唱もすごかったですけど。」

「どのクラスもすごいと思うよ。ただうちにはあまりに強過ぎる存在があっただけ。MAP兵器みたいな、一人で対局をひっくり返せるほどの。」

「......あぁ、今その表情とお言葉でわかりました。負けたかったんですね。この合唱祭。」

流石は1つ下とはいえかなり頭が冴えている。俺の考えの大方を理解してくれてのか。

「クラスの願望に答えて作詞作曲を担当したのは白花、指揮者として明確な場所を持たず全員のやる気を維持させたのも白花、合唱前期待値を飛躍的に上げていたのも白花、本番前と本番中緊張を和らげ100%以上の実力を発揮させたのも白花。」

結局うちのクラスは白花に依存しっぱなしなんだよ。そして白花もそれを受け入れている。だから今勝ちを確信しているあいつらから直ぐにでも離れたかった。気持ち悪かった。一人にほとんど全ての役割押し付けて、それで勝利を喜んでいるあいつらに。

「そもそも白花先輩がこと歌において負けるなんて自体があったら不味いですよねぇ。ほとんど出来レースだったのかなぁ。怜奈ぁ、ショック。」

「うちのクラスの斑咬って奴使って内輪揉めまでさせたのに、白花にとってはそんなことどうにでもなる細事だったんだろうな。」

本当にあいつには一生かかっても勝てる気がしないな。

「でもぉ、それって少しリスキーじゃあありませんかぁ?だぁってぇ、負けたら生徒会辞めることになったかもしれないんですよぉ?それはぁ狐神先輩の必ず避けたいところじゃないですかぁ。」

殴りたくなるような煽った表情でこちらを覗いてくる。

「それとも実は生徒会を辞めたかったりして?体のいい理由を探していたとか?」

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