可愛いの最後の日 4
「狐神先輩が勝ったらぁ、な・ん・で・も・一つ言うことを聞いてあげます。......あ、今いやらしいこと考えました?ダメですよぉ、そういうのはせめて雰囲気を大切にしてほしいですぅ。」
「星川が勝ったら?」
俺が勝ったとしていやらしいことをしないなんて星川だって考えてはいないだろう。多少わからせてやりたい気持ちも勿論あるけれど、今俺が知りたいことは俺への接触理由。そして一応星川が勝った時に要求することも知っておきたい。とはいえどうせ『可愛い乙女の秘密ですぅ』とかいって逸らかすことは目に見えているが。
「さっきも言った通り、ミステリアス美少女は一回休憩します。そうですね、2学期終了の際に生徒会を辞めていただく、とかどうでしょうか?」
笑顔と言葉のトーンとは反対に仮にも先輩に向けてなかなかの要求をしてきた。俺も多少驚いたが、一緒にいた黒瀬君の方がどちらかと言えば驚いていた。しかしこんな釣り合ってもいないような要求を出してくるとは、ずいぶんと攻めてきたな。
「生徒会は俺が入学して唯一いたいと思える場所だ。......それを奪ってことは、星川の接触理由もそれと同じくらいの価値があるって考えていいのか?」
「勿論価値観は人それぞれなのでなんとも言えないですけど、少なくても私はそんな風に考えてますよ。」
ということは、やっぱりそれを明らかにしないと今後の俺の活動にリスクはありそうだな。なんだかんだ言っても星川とは生徒会を通して仲良くなれていると思ったんだけどな。ここでその関係も終わりを迎えるのか。いや、なんで俺が負ける前提で考えてるんだ。勝負に勝って星川の秘密を知る、それで終わりでいいだろ。そうすれば......もし、もしも、その秘密とやらが星川怜奈という根幹に関わる問題であれば、俺が勝った時、星川は生徒会にいるのだろうか。この学校にいるのだろうか。
「......それで勝負って一体何するんだ?公平性に欠けるものとかなら当然断るが。」
しかしここで「ちょっ、ちょっと待ってください」と黒瀬君が間に入る。確かにこんな私情で生徒会が欠けたりしたらたまったものじゃないか。
「星川流石に調子に乗りすぎだ。俺たちは後輩の立場なんだぞ。」
「......邪魔しないでほしいですね。年功序列で物事語る古い人間には興味ありません。私は自分の大切なものは何よりも大事にしたい。それを簡単に教えるとかはしたくない。それこそそれを掛けた本気の勝負に負けるなら、そこに意味をようやく見出せると思います。」
「何言ってんのか全然わかんないが。」
こう言っちゃ悪いが、黒瀬はちょっと今回お邪魔だと感じてしまった。星川の言っていることは十分に理解できる。大切なものを扱うときにはそれに相応しい場所と対価が必要だ。本気でぶつかってこそ理解できるものはあると思う。星川の仮面のような性格も、本当の自分が否定されたからこそ生まれたものなのかもしれない。もしかしたらこの勝負で勝つことができたらその答えも知ることができるのかもな。
「勝負はそうですね、それこそ私たちも合唱祭に出れたらよかったんですけどね。例えば合唱祭で狐神先輩率いる7組が優勝したら狐神先輩の勝ちっていうのはいかがですか?」
12組もいるのに?白花も指揮者としてしか参加できないのに?うちのクラス団結力弱いのに?いくら何でもそれは俺に不利すぎないか?そんなのは嫌だ。何か上手くいって誤魔化そう。
「でもそれでもし星川が負けたら納得できなくないか?大切なことなんだろ?それを他人に任せてもいいのか?」
「正直狐神先輩のクラスが勝てるなんて思っていませんが、確かに狐神先輩が頑張って私だけ他人に任せるというのは違いますね。......そうしたらこうしましょうか。実は2年4組ってピアノ伴奏できる人いないらしいんですよ。たまたま小耳に挟みまして。私が4組の伴奏として入れるか交渉して、もし入ることができたらそこで競いましょう?」
成程、少なくても勝負の行方を傍観することよりかはずっと勝負に加わってると言えるか。一員になる、という点なら条件は変わらないし。基本的に伴奏ができる人がいない場合他クラスの人が加わるが、それが別に他学年の生徒でもあんまり差はないだろう。強いて言うのであれば後輩にあたるのだからあんまり意見はできないだろうけど。
「分かった。その条件でいいよ。俺の首と星川の秘密を賭けて合唱祭で勝負しよう。」
「はい、お手柔らかによろしくお願いしますね、先輩?」
正直今の条件だとだいぶ俺の方が有利な勝負な気もするけれど、まぁいいか。あと懸念点とすれば......。
「確か4組リーダーは八島護国だったか。」
 




