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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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太陽の影 8

かくいう深月はというと、学校も平日出るようになり、その後はお店にシフトインしつつ自分の料理を上げている。また、機会があれば洋菓子の大会にも出ているという。成績は基本的に優勝したり上位入賞がほとんどだが、本人は納得がいっていない様子だった。この国は世界でもかなりの水準で料理のレベルが高い。その中でも好成績を取り続けているのは本当に凄いと思うが、本人曰く、「その程度親はいくらでも超えてきた」と言う。確かに深月はまだ未成年だから戦ったことのない大人はいる。とはいえ年齢なんてどうしようもないし、その中でこんな成績を出すほど頑張っているんだから、両親も認めてあげればいいのにと思う。

「でもそう考えるとうちは両親に恵まれてるんだな。深月の家みたいに真っ向から全面否定なんてほとんどされたことない気がする。」

「親ガチャなんて言われる時代ですもんね。今まで愛して育てた子どもに『親ガチャミスったわ』なんて言われたら、俺だったら普通に死ねますね。」

「峰澤のとこのご両親は普通?なの?」

「そうですね、放任主義って感じです、良くも悪くも。何かやるときには必ずその責任は持つこと。これは親と決めたルールですね。一回だけそれを破って酷く怒られたこともありますけど。でもそのおかげで責任感とかは強く芽生えましたね。この年になってようやく親のありがたみを知ることができました。」

親のありがたみか。


何を思ってか、今日の晩御飯は俺が作った。メニューはとりあえず母さんが作ろうとしていたスンドゥブを作った。朝夕の気温が冷えるようになったこの時期には丁度いいものとなった。野菜マシマシ、肉マシマシ、海老やアサリなども入れて出汁をしっかり活かす。少し香辛料を入れすぎて泣きながら料理を作ったのは秘密。

「前のお母さんのお話。」

「そう、昔やんちゃしていた人が自分の息子と付き合おうとしてる感じ。どう思う?」

「兄に交際を望む女子って居るん?」

「あると信じればある。かのアインシュタインだって重力波があると予言して、その約50年後くらいに間接的にでも初めて証明されたんだぞ。『ない』ことの証明は半端じゃなく難しいが、『ある』まで証明し続ければこの世に存在しないものなんてほとんどない。」

「なに?知識マウント?必死だなおい。」

「言っておくけどお前も俺と恋愛経験でいったら何も変わらないからな?というか寧ろ俺は小石のこともあるから俺の方が先輩だからな?あまり図に乗るなよ?」

「過去の女に縋る男ほど惨めなものはないね。」

「画面越しの男と会話するほど重篤じゃないわ。」

ギャアギャアとご飯の最中だというのにみっともない。母さんも呆れて笑う始末。兄妹喧嘩というものはどうしてこうもみっともないものなのだろうか。

ご飯も食べ終わり、少しして此方がその場で寝た。布団を掛けつつ、此方についても聞きたいことがあった。

「此方の最近て母さん何か聞いてる?反抗期なのか、俺には全然話してくれないんだが。」

「それは思春期だもの。お兄ちゃんに話したくないことなんてたくさんあるでしょ。私に全部話してくれてるかはわからないけれど、でも聞いている限りは楽しく学校に通えているそうよ。女の子の友達もできて、男の子はまだらしいけど、頑張ってはいるみたいよ。」

それだけ聞ければもう十分だ。母さんが見てくれていて問題がなければ。この人は昔から人の感情の機微に関しては長けていると思うし。そもそも俺は別にシスコンじゃない。これ以上は過干渉だ。

「ならいい。話は戻るんだけど、さっきのそのお母さんについてどう思う。」

正直母親にしかわからないものはあると思う。少なくても俺が子どもを産んで育てるなんてことは一生ないのだから。

「性別の話をしちゃうと、彼方より此方の方が恋人がもともとやんちゃしてたって言ったら警戒はするかしら。でもやっぱり付き合うのは当人同士だし、やっぱり2人のことを信じたいかな。」

信じる、か。それはちょっと盲点だったと思う。確かにあの人は太陽のことを愛しているかもしれないけど、信じてはいないような気もする。太陽を信じ切れていないから、守ろうとする。

「信じたい気持ちと、守らなくちゃいけない義務感は混在する?」

「......するかしら。彼方は学校での件について、此方は育った環境について、多分他の子たちよりも危惧しなくちゃいけないものがたくさんあると思うの。だから守らなきゃっていう気持ちも強くあるわ。でも2人とも思春期真っ只中。......だからね、待つことにしてるの。」

待つ、とは何を?

「もし2人が自分じゃどうしようもなくて、本当に困って助けを求めてきたら、その時は全力でお母さんを全うする。逆に自分でどうにかできそうなら、成長の機会をうばってしまわないようにぐっと堪える。何もしない、なんて親としてどうなのって思われるかもしれないけど、2人もそこまで子どもじゃないものね。」

価値観の違いは人の数だけあるだろうけど、少なくても俺は母さんの価値観はいいと思う。何もしないからって別にそこに愛がないわけじゃない。あの人の価値観を否定するつもりは全くないし、俺の価値観を強要するつもりはない。お互いのことを認め合えるなんてのが理想ではあるけれど、それはなかなか難しいかな。

というかなんで俺が西御門のことをこんなに心配してるんだ。

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