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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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太陽の影 4

思っていたことを聞いてみた。ストレスじゃないのか、きつくないのか。

「お父さんもお母さんも、多分愛し合ってとかじゃないんだよ。お互い有能なものを持っていたから結婚したって感じ。勿論俺のことは2人とも愛してくれていると思うよ。」

でもそれはきっと太陽を愛している、というよりも自分の作ったものを愛でている。それは太陽が言わずとも察した。じゃあそれが今現在話題になっている虐待問題になるのかと言われると難しい。そこまでわかっていて、それが苦でないはずがないと思う。......ある意味納得がいった。太陽が周りの人よりも大人びている理由。それはきっと両親より無意識に押し付けられえた『何か』に対応するために心が身体よりも先に成長しなくてはいけなかったんだ。


授業参観があった。うちの両親は忙しく来ることは叶わなかったが、個人的には来てほしくないので助かった。流石はというべきか、母さんは謝ってこそいたが、「まぁ彼方は来てほしくなかったかもしれないから、寧ろ嬉しいのかな?」と微笑んだ。その言葉に何か、本当に小さな突っかかりがあったような気がした。今は時代として共働きが進んでいると、世の中金の回りが悪いと昨日ニュースでも言っている人がいた。朝のニュースなどは気分が下がるものが多いのでなんとなく抵抗はある。

帰り道、太陽に誘われて帰った。一方後ろには太陽のお母さんがいた。作戦としては俺のいいところをここで言って株を上げようとかそんな感じか。別に俺としてはこの人の好感度を上げたいとは思っていないんだけどな。

「彼方ってすごい家族思いだよな!」「彼方って料理うまいよな!」「彼方の優しさって本物って感じだよな!」なんて言葉があれよあれよと続く。よくもまぁこんな冴えない人間のことをここまで褒められるものだ。俺ですら流石に引くぞ。お母さんだってさっきから笑ってるけど目笑ってないし、誰も得しないこれ、さっさとやめませんか。

ある意味その願いが叶ったのか、太陽の友達が遠くから呼びつけ、渋々ながらそちらに向かっていったことで会話が止まった。こうなると俺とこの人だけになるからそれはある意味気まずいが、先ほどよりかはマシに思えた。

「彼方君のお母さまは今日お越しにならなかったの?」

「父さんも母さんも仕事が入って難しかったので。でもこの後帰ったら少し話をします。」

「そうなの......彼方君は愛されていないのね。」

は?

「だって普通子供の授業参観は来るでしょう?でもご両親とも彼方君ではなく仕事を優先した。それはちょっと可哀想だわ。男性は仕事をしているから分かるけれど、女性でそれはどうなのかしら。そもそも子供を置いて仕事に出ることがいまいち納得できないのよね。『お金がないから母も働く』という考えは知っているけれど。本当に子供が大切なら、生まれるその時にはしっかりとした貯蓄しておくべきだわ。」

今すぐに反論したかったが、僅かなつっかかりが俺の中にあった。『ちょっとだけでも、俺の授業の様子を見てほしかった』。多分なんとなく恥ずかしくて来てほしくない気持ちも本当だと思うけど、反対の感情も少なからずあった。でもそれは別に母さんが俺を愛してくれていないわけじゃない。

「......俺が、なんとなく恥ずかしいから来てほしくないって言ったんですよ。俺あんまり頭良くないから、それを知られたくなかったんです。」

子供にしてみれば返しが上手いと感じた。でもこの言葉はこの人にとって恰好の材料となってしまった。

「うーん、それは違うんじゃないかしら?それはね、恥ずかしいんじゃなくて後ろめたいっていうのよ?彼方君の頭の良さはちょっとわからないけれど、でも親なら当然子供のことは全て知っているはずなの。あぁ、納得がいったわ。きっとお母さんは彼方君が勉強をできないことを知っていて、それを他のお母さん方に馬鹿にされるのが怖かったんじゃないかしら。本当に可哀想にね。」

「違う!お母さんはそんな理由で休んだんじゃない!」

「じゃああなたは自分で誇れるほど頭がいいのかしら?」

そ、そんな子供、いるわけないじゃないか。それに別に俺は可哀想な子なんかじゃない。

「いえ、違うわね。......そもそも彼方君に興味があまりないんじゃないかしら。」

「興、味?」

親って自分の子供に興味のありなしとかあるのか?......でも、この人も太陽のお母さんで、実際太陽を育てている。あくまで育てられている俺から何か言える立場じゃないのか?

「私もこれでも一応母親だから、その気持ちはほんの僅かだけれどわかるわ。朝早く起きてご飯作って、お弁当準備して洗濯回して送迎して、食器洗いして洗濯干して部屋の整理して買い出しに出て。他にもたくさん。......ねぇ、少し考えてみて。自分の愛しいわが子のためならそこに授業参観て予定が入っても大丈夫よ。愛しているから。でももしも、それが別にさして興味のない子供だったら?それなら『仕事』なんてまさしく持ってこいの理由並べられるわよね。『しょうがない』って納得できる便利な言葉だものね。」

これ以上聞きたくなかった。これ以上は俺が母さんのことをそうとしか見れなくなると思った。俺は『それ』から逃れるように、全力で叫び逃げた。


「ちょっと!?お母さん!!彼方に何言ったの!?すごい怖そうな顔で入っていったよ!!」

「.......私はね、太陽さんを心から愛しているのよ?」

そういうと有無を言わせずその体を包み込む。

「あの子はね、あなたにとっていい影響を与えないの。だから少しだけ踏み込んで話してしまったの。ごめんなさい。でもね、太陽さん?この世にはどうしても相容れない人間はいるの。それは早めに知っておいてほしかったの。太陽さんもあの子が無為な時間を過ごすのは嫌でしょう?お互い今は少し辛いかもしれないけど、お互い深く傷ついてほしくなかったのよ。」

太陽はこれ以上何も言えなかった。

「......うん。ありがとう、お母さん。」


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