不発弾 3
見つかったとされるアウトドアナイフ、ライター、火薬は監視下の元、俺と樫野校長の前に出された。どちらも比較的綺麗な状態だった。しかしナイフの先端だけ少し欠けているようにも見える。そしてライターは市販でコンビニなどで売っているようなものではなく、ターボライターとかいうごっついものだった。
「窃盗冤罪の時みたいに警察の力使って指紋とか調べられないんですか?」
「非公式であれば指紋は簡単に調べることができてね、誰の指紋か調べることはデータベースがないときついけど、今回はそもそも指紋がついてなかったんだよ。実際にこれらをあの人から回収したのは私だよ。」
人に罪をきせるとなると普通指紋とかそこらへんは注意するか。残念だが化学の力はここでは使えないらしい。軽く調べた感じ、これらのものはホームセンターなどのお店で売っているものといった感じだった。手に入れようとすれば簡単に手に入る代物。だが別にこれらものは統一性はないし、多分危険と判断されるものであればなんでもよかったのだろう。
「例えばライターなんかを用いることで、金属を熱し、それを使って鍵を開けられないかなんて考えてみました。」
「鉄を曲げるのには800度前後が必要で、ライターは800から1000度くらい、今回のターボライターを使えば1300度くらいまでいくから理論上は可能だと思うけど、その際に起こるのは熱膨張だ。熱膨張の線膨張係数の計算は習っていないだろうから計算はしないけど、結論普通にロックが壊れるだけだよ。」
全然わかんないけど最後のだけはよく分かった。とりあえず無理らしい。まぁ言ってみただけだからいいけど。
でもそうなるとあの先生が犯人でない場合、一体誰が教室に入り込めるのだろうか。スパイ映画でも参考にすれば入れる方法とかあるのだろうか。
「よく事件とかだと実は密室の中に犯人がいた、みたいなのありますけど、今回に限ってはないですよね。」
「そこまで恨みを買える君は本当に凄いね。」
流石に2泊3日は確実に戻ってこない俺たちの教室の開錠を待つなんて籠城作戦が過ぎる。論外ですね。
そもそもの話、この話には一点大きすぎる疑問が残る。
「あの教師が今回たまたま落ちていた教科書を拾って、たまたま俺の机に入れようとして、たまたま中を覗き込んだから事が大きくなりましたけど、もしそうじゃなかったら、単に俺が休み明けに発見して『なんありました』で終わってたんですよね。」
「そうだね、本来はそんな意味のないことで終わっていたはずなんだ。でも同じことはクラスメイトでもできる。休み明け、登校したらたまたまそこに落ちていた教科書を拾い、たまたま狐神君の机に入れようとする。そしてたまたま中を覗き込んだら一式が見つかった、とかね。」
あ、そっか。それなら確かに同じような現場再現みたいなことができる。朝早く来るとか、その時に目撃者がいるとかそこら辺の条件はあるけれども。となると犯人の候補として俺らのクラス全員になるのか?しかもそれなら理論上全員ができることになる。となると絞り方は動機か?
「というかあれかな、旅行前に来ていた『新たな犠牲』が今回のこの件なのかな。」
それは真っ先に考えた。多分今回見つかったのが先生だったから事が小さく収まっているが、やはり生徒に見つかっていたらそれなりに大きくなっていたと思う。でも正直俺は今ある程度クラスでも普通くらいの位置にいると思う。冤罪の時みたいに俺を誰も信じず、全員が敵に回るというのは少し考えにくいが。
樫野校長は何やら緊急の学会会議が入ったとかでそれ以降は校長室に籠った。
俺も生徒会の仕事の時間が迫ってきていたのでそちらに向かった。
本日からしばらくは対外向けの修学旅行通信の作成に入った。俺の担当は『修学旅行を通じて感じたこと』を生徒会を代表して書くことだった。
「ほんとにすごく楽しかったです。またみんなで一緒に行けたらいいなと思いました。でも、同じグループの五十嵐さんと宇野君、榊原君たちの空気が悪かったので、やるなら勝手にやってろよと思い「狐神?」すみませんまじめにやります。」
つい筆が走ってしまったが、あんな小学生みたいな感想文で言いわけがない。
「過去のものも参考にしていいからね。それより、ちょっといいかしら。」
どうやらノアも生徒会長かつ俺のお目付け役ということで件のことを聞かされたらしい。樫野校長とも少し話を進めたと、現在の進捗まで伝えた。
「確かにそれならクラスが容疑者として上がるわね。でも狐神の机にそれらを入れるとしても、誰かしらに見つかるリスクはあるわね。後は単純にあなたの方が早く来る可能性も拭い切れないわね。」
確かにそれはそうだが、別に危険だと判断すれば中止することもできるのではないだろうか。何も絶対にそれをやらなくてはいけない理由は今のところ見つかっていない。
「でも今回はクラスメイトの犯行ではないわ。だってあの発見された状況は事を起こそうとして失敗した結果なのだから。」




