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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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下らない暇つぶし 11

段々と騒がしい声が聞こえてくる。それとともに視界が徐々に鮮明になっていく。そういえば今はバスケの大会をしていたなと思い出す。その中で確かあのPFの男に肘打ちされて……。

意識が覚醒すると急いで点差と時間を見る。時間は残り4分。恐らくこれは第3クォーターだろう。そして点差は35対29。一気に点差が詰められ、見るとメンバーが変わっていた。恐らく今コートにいるのが現状の最高戦力なのだろう。その中にはあの男もいた。一瞬瀬田会長と目が合うと頷いたので俺は審判に言ってタイムアウトを取った。1回しか使えないがもうここまで来たら使う機会もあるまい。みんなも疲れていた様子だったのでそれも丁度良かった。

「とりあえず目が覚めてよかった。けど時間がないから今は要点だけ話す。」

その言葉に無言で頷く。

「このままでも勝てるだろうが、お前が入るとなると、少なくても今の流れは切れる。相手は基本バスケ部2人だけで攻めて常に後ろに残りの3人を控えてる。だからこっちの速攻は基本できない。で、向こうも2人だけとはいえレベルは俺らじゃ手に負えない。トリプルチーム組んでも抜かれる時は抜かれる。だからお前があいつを相手しろ。」

あいつとは誰かと言わずともわかる。けれどもし俺が入ってきた勝率が下がるのなら、俺の意見など無視してこのままいってくれたほうがいいと思うんだが。

「瀬田会長。あの……」

「甘えんなよ。このままお前がベンチに座って生徒会が勝ってもお前の評価が上がる訳じゃない。……好感度爆上げのチャンスくれてやるんだ。無駄にするなよ。」

タイムアウト終了の笛が鳴り、瀬田会長が俺の後ろに立つ。どうやら俺の頭に巻かれた包帯をいじくっているらしい。

「最初からだったが俺の指示なんてなくったってみんな最良の動きを出来てる。俺は疲れたからお前が代わりに出ろ。好きに動いて構わねぇからよ。」

「これでよし。」と言われて頭を触ると、巻かれていた包帯はまるでハチマキの様なものになっていた。流石にこれは、と俺が四の五の言おうとすると背中を強く押され無理やりコートに立たされた。

「友達の仇取ってくるんだろ?行ってこい。」

「……うす。」


先程の歓声の要因の1つとして俺がいなかったからというのがあったらしい。瀬田会長が下がり、俺が出ると明らかにテンションが下がった。まぁそんな事はどうでもよく、俺は倒すべき人のマークに付く。向こうは「マジかよ……」みたいな顔は浮かべたがその真意はきっと俺みたいな嫌われ者が付いたのではなく、「こんな雑魚がマークかよ。」といったものだろう。別にそれに対し苛立ちや憤りなんて感じやしない。寧ろ油断しきってくれてる奴ほど出し抜きやすい。みんなの前であんな大口を叩いたんだ、絶対出し抜いてやる。

「おい、お前。」

「はい?」

「何でお前なんかが俺のマークにつくんだ?明らかにミスだろ。ダブルチームでさえなく。俺はあんまり舐められるのが好きじゃねぇんだよ。」

これはまた自分勝手なことを。自分は相手のことを舐め腐っているくせに。嫌がらせに悪口のひとつでも言ってやるか。

「ミスじゃないですよ。分かりませんか?残り時間4分程度ならあなたを止めるのに俺だけで充分て事です。」

この挑発にまんまと乗っかり、俺の胸ぐらを掴む。流石に審判はこれを見逃さず、注意を促す。しかし殴りこそしなかったが注意されてもしばらく手は離さず、俺を睨みつけていた。その後もう1人のバスケ部に声をかけ何かを言っていた。

こちらの攻めから始まったボールはやがて俺の手元へ来る。カットもしてこなかったあたりあえて俺に持たせたのだろう。そしてみんながどんどん離れていく。アイソレーション(1体1をしやすくする為に周りが離れること)を先程指示したのだろう。この張り詰めた状況に周りも静かになる。ただ俺のボールをつく音だけが響く。

「おい?」

「はい?」

「本気で俺に勝てると思ってるのか?」

「さぁ?そういえば前に大会がありましたよね?地区大会。その中でなんか掴み所のなさそうな、諦めの悪い人いませんでした?ほら、結構近くのあの学校の。」

「あ?……あぁ、いたな。もう負けが決まってるのに諦めが妙に悪かったやつ。なんつーか、惨めだったな。もう仲間が諦めてるってのに。そいつの名前すら知らねぇけど、あいつだけは俺らと同等ぐらいで戦えてたが他があれじゃあな。ま、それを選んだあいつがバカだったってことだろ。」

良かった、あなたが太陽の名前を知らなくて。だから俺もあなたの名前なんか知りたくない。

太陽のとこのバスケ部がここのバスケ部に勝てるなんて俺も端から思ってなかった。試合を応援してた時、明らかに太陽は力を出し切れていなかった。周りに合わせるために。あいつはそういう奴だ。1人の勝利よりみんなの敗北を選ぶ。それが太陽の選んだ事なら何も文句は言えない。けどお前の友達として、お前の悪口を言う奴を俺は許せるほど心広くないぞ。

「じゃあそろそろ行きますよ。24秒経っても不味いですし。」



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