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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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天明大火 20

とはいえ俺らだって赤ちゃんではない。自分の考えが(まか)り通らなかったからと言って駄々をこねることはしない。

「じゃあちょっと形を変えるが、仮にも白花からいい返事がもらえるとでも?」

これに対しては俺も含め、その場にいる全員がノーを出した。それはそうだ。もしそうでなければ俺は全ての男に夢を与えられる自信がある。『こんな男でもあの超有名なアイドルと付き合えた方法』なんて出版すれば重版確定のベストセラーよ。そんなことよりも目の前の連中の対処をしなければ。

「白花が自分のことを可愛いと思ってると思うか?」

「それはそうだろ。可愛いの最前線だろ。」

「残念だがあいつは自分のことをそんな風に思ってないよ。」

「いや、流石にそれはないだろ。事実としてこの国でも一番のアイドルといっても過言ではないだろ。」

だから......なんでそんなことも分かんないのかな。その無自覚はむしろ卑怯だぞ。

燦然(さんぜん)たる事実としてあいつは告白されたことないんだぞ。いくら周りが囃し立てようが、その事実がないと自信を持てないという気持ち、なんとなく俺には分かるが。あいつがいつも恋愛のヒロインに選ばれると『告白されたことすらないのに、私なんかがこんな役やっていいのか』なんてくそ真面目に考えてる。」

過保護も行き過ぎると毒になる。その意味はなんとなく分かってくれたようで、俺の言葉に各々が色々と考えていた。にしてもやはりあいつのこととなると面倒ごとが本当に多くなるな。とはいえ恋愛事に関しては流石に榎本に頼むことはできないしな。多分あいつにそんなこと言ったら、去年の文化祭の安川じゃないけど、白花を食い散らす可能性もありそうだし。

「にしても狐神は随分と白花さんのことを知っているんだな。さっきの言葉も、本当に白花さんに聞いたのか?俺は初耳だが。」

ほんと面倒くさいファンだなこいつら。いいや、昨日白花に告白したついでに聞いたみたいなことにすれば。


「思いのほかすんなりと来れたな。」

「......」

周りからの視線もなかなかきつかったので、ご飯を素早くお腹に入れると、その時間まで部屋で待機していた。てっきり道中で邪魔してくる敵にでも出会うかと思ったが、そんなことなく何の問題もなくここに来ることができた。しかし白花はさっきまでは比較的普段の様子に戻っていたが、今はまた昨日と同じような状態になっている。とはいえ俺の目的はあくまで白花を風呂に入れるためだけ。

「ほら、早く風呂入って来いよ。念のために早めに入たほうがいいと思うぞ。」

「......一つだけ聞かせて。」

ようやく俺とまともに会話してくれるようになったか。質問なんて大体予想できるが。

「あの告白はあくまで私をお風呂に入れるためだけの言葉?それとも.......」

「仮に本物の告白だった場合、白花はオッケーしてくれるのか?」

「そ、それは......その「ダメです」」

いつから潜んでい居たのか、ベランダの窓が開くとマネージャーが顔を出してきた。流石に白花がこんな状態になっているから、今日は邪魔しに来ることは予想で来ていたが、部屋まで入れることを許可するとは予想外だった。白花は俺とマネージャーの視線のぶつかり合いに思うことがあるのだろう。ただただおどおどしていた。

「何してんだよ白花、早く入ってきてくれ。俺がいつまで経っても帰れない。」

「え、でも......」

「大丈夫だから。」

パタパタと急いで準備をするとやがてお風呂の戸が閉まる音がした。けれど白花が足を止めた理由は十分理解できる。今目の前に立っているこの人は今にでも俺に殴りかかってきそうな剣幕だ。俺が前に言った言質を取った、という言葉の意味をようやく理解したらしいな。

「別にアイドルが恋愛しているなんて、今や結構普通だと思いますけど。時代の変遷(へんせん)といいますか、というかそもそもあいつ別に恋愛禁止なんて公言してないでしょう。」

「だから何度も言わせるな。白花さんは名実共に認知が凄まじい。少しのリスクだって背負いたくないんだよ。」

多分俺とこの人ではいつまで経っても話は平行線だろう。お互い譲りもしない。だから強引にでも自分の意見を通す。しかし俺の方にはあまりデメリットはないが、向こうは生活そのものが掛かっている。なお一層譲れない気持ちは強くあるか。

「というか、そもそも貴様は白花さんに対して『好き』という感情は持ってないだろう。それを考慮して今回の作戦を組んだというのに。だがこの際それはどうでもいい。お前の目的はなんだ。好きでもない女子に本気の告白をして、お前はなんて返事をもらいたいんだ。」

失礼な、まるでそれじゃあ俺が悪者みたいじゃないか。しかしどんな返事をもらいたいか、か。告白をわざわざして『振られたいなぁ』なんて変態、あんまりいないだろ。しっかりと『私も好きです』なんて言われたいけどな。

俺たちに気を使ってたか、恐らく長くはお風呂に入れていないだろう。もう扉から白花が出る音がした。もっとゆっくり入ってもらって構わないのに。できれば白花が来る前にこの人とは話の折を見つけたいところだが。

「マネージャーさん、一つ提案があります。」

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